複合サイクル発電による高効率化(Ⅴ)

火力発電

 2024年3月、三菱重工業は2023年のガスタービン受注実績(出力ベース)で世界シェア36%で1位と公表した。GEベルノバが27%、シーメンスが25%であった。得意とする大型機に限定したシェアは三菱重工業は56%、GEベルノバが23%、シーメンスが19%である。

ガスタービンメーカーの動向

米国GEベルノバ

 GEは東芝、日立製作所と、1980年代に1100℃級ガスタービン、1990 年代には1300℃級ガスタービンで業務提携した。2000年前後には、東芝と1500℃級ガスタービン1600℃級ガスタービンに関して業務提携を継続し、GTCCシステムでの協業を進めている。
 一方、日立製作所は独自技術で中容量の1300℃級ガスタービンを開発し、大容量の蒸気冷却による1500℃級ガスタービン以降は、市場性などを考慮してGEとの業務提携は行わなかった。

 2015年11月、GEは、フランスのアルストムの発電・送配電事業の買収を完了した。従来から、GTCC事業ではアルストムは排熱回収ボイラ(HRSG)や蒸気タービンの供給を行ってきた。

 2017年2月、GEは東洋エンジニアリングと組み、日本での50万kW以上の大型火力発電所建設への参入を発表した。一方、2015年にアルストムの蒸気タービン事業を買収、2016年に韓国斗山建設から排熱回収ボイラ事業を買収し、GTCC発電システムを自社で供給できる体制を整えた。

 2022年7月、GEは3分社計画を発表した。ヘルスケア事業のGE HealthCare Technologies(ヘルスケア・テクノロジーズ)は、2023年1月に分社化を完了。2024年4月に航空宇宙事業にフォーカスするGE Aerospace(GEエアロスペース)は、エネルギー事業のGE Vernova(GEベルノバ)の分社化を完了した。

■ガスタービン名称の“9”は50Hz対応機種、“7”は60Hz対応機種である。
■出力基準からはE型<F型<HA型の順に高く、E型ガスタービンは1100℃級F型ガスタービンは1300℃級HA型ガスタービンは1600℃級である。
■既開発の1500℃級ガスタービンには蒸気冷却が採用されていたが、F型ガスタービン技術をベースに空冷式の1600℃級ガスタービンが開発され、HA型ガスタービン(ハリエット)と呼ばれている。
■航空機転用型ガスタービンは、LMS100、LM6000、LM2500などがラインアップされ、国内では、IHIが「LM6000」(出力:4.3/5.1万kW、発電端効率・LHV基準:41%以上)の単体販売を行っている。

図9 米国GEベルノバのガスタービンラインアップ

 2015年4月、航空機エンジン転用ガスタービン「LMS100」(出力:10万kW、発電端効率・LHV:4.5%)の単体販売を開始。ガス、石油、バイオ燃料が可能で、1分間に出力:5万kW、10分間で10万kWまでの高速起動が可能で、非常用電源や再生可能エネルギーの電力安定化に適している。
 価格は従来の蓄電池の1/2以下、カリフォルニア州のウインドファーム(3000基)に8台導入の実績がある。

 2017年4月、5分間で出力:5万kWに達する航空機エンジン転用ガスタービン「LM6000」と、30分間にわたり出力:1万kWを維持できるリチウムイオン電池(蓄電容量:43MWh)を組み合わせたハイブリッド蓄電システムを、サザンカリフォルニア・エジソン(Southern California Edison)と共同開発した。
 ガスタービンの待機運転が不要で、カリフォルニア州ノーウォークに設置され系統安定化に使われている。

 2017年9月に運転開始した中部電力の西名古屋火力発電所7-1号機には、大型ガスタービン「7HA.01」を使った多軸式コンバインドサイクル発電方式(ガスタービン3台+蒸気タービン1台)が採用され、総出力:118.82万kW、発電端効率(LHV基準):63.08%を実現した。

 2017年12月、米国サウスカロライナ州グリーンビルにあるGEの試験設備において、「9HA.02」ガスタービンと蒸気タービンの1軸式GTCC発電システム(総出力:826MW)で、送電端効率(LHV基準):64%を実現した。燃焼器の予混合部品の製造には、3D金属プリンタが適用された。

 2019年11月、「CMC S2N DoE プログラム」で、HA型ガスタービンを対象に、タービン入口温度:1700℃とし、冷却構造を付与したCMC静翼の開発を進めていることを公表。従来の耐熱合金に代わり、CMC静翼を採用して冷却を抑制することで、GTCCの送電端効率(LHV基準):65%をめざしている。

 2022年6月、電力会社のフロリダ・パワー&ライトは、フォートローダーデールのダニアビーチ・クリーンエネルギーセンターで「7HA.03」ガスタービン2基(総出力:1260MW)の運用を開始した
 「7HA.03」は連続運転可能な最大出力:430MW、送電端効率(LHV基準):64%、天然ガスに最大50%の水素を混焼できる「DLN 2.6e燃焼システム」が使われ、NOx排出量を従来タービンと比べて最大70%削減できる。

 2024年1月、IHIと、6F.03型・7F型・9F型ガスタービン向けに、アンモニアを燃料とする燃焼器開発の共同開発契約 (JDA) を締結した。2023年1月の覚書を一歩進めるものである。
 2023年10月にセムコープインダストリー、IHI、GEベルノバの3社MOUで合意されたシンガポールのサクラ発電所(9F型ガスタービン)のアンモニアへの燃料転換改造の可能性が検討される。

 2024年11月GEベルノバは、ATCOオーストラリアから4基の「LM6000VELOX」ユニットを受注し、2026年初頭に稼働開始を予定。100%水素専焼の航空機転用型ガスタービンの商業規模発電所である。
 このワイアラ水素発電所(最大出力:200MW)は、南オーストラリア州の大規模な風力発電所や太陽光発電所の電力で製造・貯蔵されたグリーン水素を燃料とし、州内に電力を安定供給する。

 2025年3月、五井ユナイテッドジェネレーションの五井火力発電所のGTCC発電システム3号機が稼働した。1650℃級ガスタービン「9HA.01」に東芝の蒸気タービンと発電機を組み合わせたもので、出力:78万kW、発電端効率(LHV基準):約64%。1号機は2024年8月、2号機は2024年11月に稼働し、総出力:2340MWである。

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