世界で進む原子力発電所への回帰

はじめに

 世界的な原発回帰への動きは、「気候変動対策(脱炭素)」「ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー安保保障」、加えて「AI普及に伴うデータセンター増設による電力需要増」が大きな要因となり、欧州(フランス、ベルギー、イタリア、スイス、英国等)を始めとして、米国、中国で加速している。
 2011年3月の福島第一原発事故が世界的な原発撤退の流れを作ったが、その日本が2023年5月に原発の60年超運転を可能とする「GX脱炭素電源法」を成立させたことも、少なからず影響を与えた。

各国の原発回帰への動き 

 2022年2月、フランスは発電電力量の7割を原発が占めるが、マクロン大統領が大規模な原発新設計画を公表した。それまで、既存炉14基の閉鎖と再エネ拡大により、2035年までに原発比率を50%まで低減させる方針を示していたが、環境と経済の両面から考えて再エネと原発の2本柱を推進するとした。
 具体的に既存炉の閉鎖を撤回して40年超の長期運転を基本とし、新設は欧州加圧水型原子炉「EPR」の改良型「EPR2」の6基新設を進め、2050年までに最大8基の追加を検討するとした。

 2022年4月、岸田首相は「できるだけ可能な原発は動かしていきたい」とし、審査の効率化再稼働の推進を表明した。2023年5月、原発の60年超運転を可能にした「GX脱炭素電源法」を成立させる。
 2025年2月、原発への依存度を「低減」させるという文言を削除し、「最大限活用する」と明記した第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。

 2022年6月、韓国の尹錫悦政権が、文在寅前政権の「脱原発」方針を破棄し原発推進を表明した。6月下旬にスペインで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席に合わせ、原発導入を進める国々と会談し、トップセールスを行う。
 韓国は2009年に日米企業連合を退けて、アラブ首長国連邦(UAE)の原発建設を初受注したが、2017年、福島第一原発事故などを理由に「脱原発」を決定し、再生可能エネルギーへの転換をめざした。 

 2023年11月、スウェーデンは、原発新設に向けたロードマップを公表した。非化石燃料による総発電量を25年以内に倍増させるため、遅くとも2035年までに大型原発2基を完成させるほか、2045年までに最大10基の新設方針を公表する。
 中道右派連合の新政権により、環境法に記された原発関係の禁止事項(新サイトでの原発建設禁止、同時運転する原子炉基数は10基まで、閉鎖済み原子炉の再稼働禁止)を撤廃し、エネルギーの安定供給には原発の新設が必要で、資金調達は政府が担うべきものだとしている。

 2024年8月、スイス連邦政府はエネルギー安全保障強化に向け、原発の新設禁止を撤廃する考えを表明。2011年の福島第一原発事故以降、既存原発の運転継続は認められたが、50年の運転期間を終了した原発の2034年までの段階的閉鎖と、廃止後のリプレースや使用済み燃料の再処理は禁止された。
 2023年の原子力発電電力量は234億kWhで、シェアは32.4%である。スイス原子力協会(SVA)は、国内での新設プロジェクトを可能とするためには、許認可手続きの簡素化計画・建設段階でのファイナンスなど、事業環境整備の必要性などを強調した。

 2025年2月、英国キア・スターマー首相は、イングランドとウェールズでの原発新設に向け、非効率な手続きの大幅削減を表明した。脱ロシア化によるエネルギー安全保障の修築が狙いで、現在、南西部サマセット州でフランス電力(EDF)が進めるヒンクリーポイントC原発が建設中である。
 それ以外に8カ所の原発建設予定地が承認されており、政府は小型モジュール炉(SMR)に注目し、開発業者により多くの用地での承認申請を働きかけている。建設計画を効率良く進めるため、原子力規制作業部会が設置される。

 2025年2月、ベルギーでは、B. ドゥ・ウェイバ首相が再エネと原子力の新しいエネルギーミックスを追求し、原子力の段階的廃止政策の撤廃を表明した。2023年の原発の合計電気出力は411.8万kWで、シェアは約40%であるが、新エネミックスでの原子力の設備容量は400万kWを維持する。
 短期的には、1985年に運転を開始したドール4号機(PWR、109万kW)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kW)の10年の運転期間延長で既存原発を有効活用し、長期的にはベルギー初のSMRの開発、建設、試運転を支援するための具体的な計画を策定するとしている。

 2025年2月、G. メローニ首相とG. ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障相の提出した原発再開に向けた法令整備の権限を政府に委任する法案を、イタリア閣僚評議会が予備審査で承認した。議会で承認後、政府は1年以内に原発再開に向けた一連の政令を採択し、法令整備を進める。 
 2035年からSMR・先進モジュール炉・マイクロ炉の合計出力40万kWの導入2050年に原発760万kW・核融合40万kWを想定し、国内総電力量のシェア約11%~最大22%(1600万kW)を供給する。原子力安全担当の独立機関設立や、原発建設・運転・廃止措置などの法的・財務的補償を実施する。
 イタリアでは1960年初頭から4サイトで合計4基の原発が稼働していたが、チョルノービリ原発事故後の1987年に国民投票で既存原発の閉鎖と新設の凍結を決定し、1990年に脱原発を完了した。2009年に原発復活法案が議会で可決したが、2011年の福島第一原発事故を受けて脱原発を継続していた。

 2025年5月、米国トランプ氏が4本の大統領令に署名。①「原子力基盤の活性化を図る大統領令」、②「DOEにおける原子炉試験の改革を図る大統領令」、③「原子力規制委員会の改革を命じる大統領令」、④「国家安全保障のための先進原子炉の導入を図る大統領令」。
 ②のエネルギー省(DOE)における原子炉試験の改革では、SMRなどの実用化のための試験プロセスを迅速化する仕組みで、国立研究所外でも新たに3基の原子炉をパイロットプログラムとして承認(2026年7月4日までの臨界達成が目標)する。
 ③では、NRCが「1978年以降、新規の原子炉を認可することを怠ってきた」、「リスク回避に伴う深刻な国内および地政学的コストを適切に考慮することなく、微小なリスクのために米国人を原子力から隔離しようとした」と批判し、2050年までに400GWの原発の導入促進をめざす。

 2025年10月、スウェーデンは「北欧・バルト諸国原子力投資サミット」を開催。スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、ポーランドの閣僚や、200社以上の原子力と金融関連の企業代表が参加し、原子力発電の効果的な拡充に向けた方策と、サプライチェーン再構築について議論した。
 スウェーデンのロミーナ・ポルモクタリ気候・環境相は、沿岸全域で原子力施設建設禁止を解除する改正案の2026年7月施行をめざす。ニクラス・ウィクマン金融市場相は、企業の原発投資を促す長期的な政府支援を示した。新たな原発導入に関して、各国の計画と協力体制について意見が交わされた。

 2026年2月、米関税交渉で合意した5500億ドル(約85兆円)の対米投資の第2弾として、原発建設など複数案件が有力候補と報じられる。「相互関税」の違法判決で日米合意の前提が揺らぐ中、両政府は3月の高市首相訪米に合わせた発表をめざして調整している。
 米国ではAI向けデータセンターなどで電力需要が高まり、2月に発表された第1弾ではオハイオ州でのガス火力発電建設(事業規模約333億ドル)が盛り込まれた。第2弾では、日本企業による機器の納入などが想定される原発や、エネルギーなど複数案件の事業化が検討されている。
 事業ごとに日米が特別目的事業体(SPV)を設け、政府系の国際協力銀行(JBIC)のほかメガバンクなどが日本貿易保険(NEXI)の融資保証を得て、日本側が融資・出資で資金提供し、米国側は連邦政府が土地や電力などの現物出資や製品の購入契約、建設の許認可など規制面で後押しする。
 SPVはプロジェクトに資金を流し、事業から得られた収益を配分する。配分は、日本側が融資した資金の返済を終えるまでは日米半分で、それ以降は日本10%で米国90%の割合とする。

 2026年2月、フランスは、第3次エネルギー複数年計画(PPE3:2026〜2035年)の政令を発表した。今後10年のエネルギー政策や戦略的優先事項・施策を規定する内容で、原子力比率引き下げ方針を事実上撤回し、既存炉の長期運転と新設を軸とした戦略である。
 PPE3では、原子力重視への明確な転換が示され、原子力発電量(2030〜2035年)目標を3800億〜4200億kWh/年とした。フランス電力(EDF)は、今後数年の原子力発電量の展望として、2026~2027年に3500〜3700億kWh、2028年には3450〜3750億kWhとしている。
 具体的には、「既存原子炉の運転期間延長:50年または60年」「EPR2×6基の建設(初号機は2038年に稼働開始)」、「追加8基の建設判断を2026年に実施」、「2030年代初頭にSMR初号機の着工」、「燃料サイクルのバックエンド事業の施設更新目標」の具体化を掲げている。

2026年3月、フォンデアライエン欧州委員長は、パリでの国際原子力機関(IAEA)の会議で原発電に「背を向けたのは欧州にとって戦略的に誤りだった」と明言した。欧州の景気が低迷し、産業界から電気料金引き下げの声が強まる中、今後は再生エネと共に次世代原発の導入を推進すると表明した。  
 2024年のEU総発電量における再生エネ比率は47%、しかし、1990年には原子力比率1/3を占めたが15%程度であり、SMRの2030年代初頭の稼働を推進すると表明。今後、EU域内の原子力関連の規制統一を進め、新技術への民間投資に2億ユーロ(約370億円)分の保証を提供する。 

 2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー安保保障から、EU諸国では急速に原発回帰へと舵を切り始めた。
 ほぼ同時期に、日本政府は「国内電力ひっ迫」「気候変動対策(脱炭素)」を取りあげ、GX(グリーントランスフォーメーション)を出汁にして原発回帰へと舵を切り始める。10年を経過して福島第一原発事故の記憶が薄れてきたのか?

コメント

タイトルとURLをコピーしました