茨城県大洗町に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構、JAEA)の高温工学試験研究炉「HTTR:High Temperature Engineering Test Reactor」が建設され、1998年11月に初臨界を達成。2004年4月には、原子炉出口冷却材温度:950℃での全出力(熱出力:3万kW)運転に成功した。
高温ガス炉の抱える課題ー高温工学試験研究炉(HTTR)ー
HTTRはブロック型高温ガス炉であり、設計・建設・運転は、三菱重工業、東芝、IHI、富士電機、川崎重工業、日立製作所(現在は撤退)などにより行われている。原子炉圧力容器内で核分裂反応により生じた熱を、Heガスにより取り出し、高温熱の用途展開が進められている。

2014年8月、JAEAはインドネシアと、高温ガス炉導入に向けた技術協力協定を締結。2014年11月、福島第一原発事故以降に停止していたHTTRの再稼働に向け、安全審査を原子力規制委員会に申請した。
原発導入を検討する地震国インドネシアでは、事故などで炉心冷却が働かない場合でも、自然に冷却される高温ガス炉は安全面から魅力的である。また、高温ガス炉は原子炉冷却材に水を使わないため砂漠でも設置可能で、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など中東諸国でも導入に積極的である。
2019年9月、JAEAと原子燃料工業は、高温ガス炉向けに実用レベルの燃料体を開発した。TRISO燃料粒子の製造で、セラミックス被覆層の厚さを工夫し、実用レベルの核反応が生じても壊れない燃料を開発して中性子照射試験で性能を確認した。
JAEAでは、従来のHTTR用燃料の3倍のウラン燃焼エネルギーを取り出せる燃料体の設計技術を開発し、原子燃料工業が量産規模でのTRISO燃料粒子の製造技術を確立した。
2021年7月、HTTRは安全対策工事を終了して10年半ぶりに運転を再開する。2009年に開始したOECD/NEAの安全性実証試験プロジェクト「炉心強制冷却喪失共同試験」を再開し、高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化を進めている。
2021年8月、文部科学省と経済産業省は、HTTRを利用した水素製造のため、2025年頃に水素製造施設の建設開始を発表した。
この水素製造施設では、HTTRから高温(900℃)のHeガスを移送し、2030年までにメタン熱分解法による水素製造を検証し、2050年以降に向けて熱化学分解法(IS法)や高温水蒸気電解法による水素製造を進める計画である。熱化学分解法(IS法)では、30ℓ/hで連続150hの水素製造に成功している。

2025年2月、JAEAは、HTTRと一体で運用する水素製造施設の建設に向け、原子力規制委員会に審査を申請する。2025年度の審査で合格を取り付け、2026年度に水素製造施設に着工、2028年度の運転開始をめざす。まずは、HTTRの熱で一般的な天然ガス水蒸気改質法での水素製造を行う。
三菱重工業
2022年4月、日本原子力研究開発機構(JAEA)と三菱重工業は、2050年カーボンニュートラルに向け、経済産業省委託事業「超高温を利用した水素大量製造技術実証事業」を受託し、HTTRに新たに水素製造施設を接続して水素製造事業を開始した。
大量の水素製造に対応するため一部機器(高温隔離弁等)の大型化や、カーボンフリー水素製造技術として、①熱化学反応を組み合わせた水蒸気の熱化学分解法(IS法)、②触媒と熱によるメタン熱分解法、③固体酸化物型燃料電池の逆反応である高温水蒸気電解法(SOEC)の実証試験が進められている。
2023年7月、三菱重工業が、経済産業省が推進する高温ガス炉開発を担う中核企業に選定される。実証炉建設に向け研究開発および設計・建設を一括して取りまとめ、2023年度に基本設計を開始、2028年度から詳細設計、2029年度から建設、2030年代後半から実証炉運転を開始する。
原子炉熱出力:15~25万kW、800℃以上の超高温を水素製造施設に供給し、使用しない熱は水素還元製鉄プラントの所内電源などの発電に利用するコジェネプラントの概念を公表した。原子炉出力は一定としたまま水素製造とガスタービン発電のバランスを制御し、電力需要変化にも柔軟に対応する。
水素製造施設は、上記①、②、③に加えて、④商用化されているメタン水蒸気改質法を候補として選択し、実証炉に接続する計画である。

2022年度にJAEAは、「HTTR-熱利用試験計画」の安全設計と安全評価、HTTRの改良設計と水素製造施設の設計を開始し、2025年3月には原子力規制委員会に安全審査を申請した。許認可の取得後は、HTTR改良工事と水素製造装置の建設を進め、2028年度の水素製造試験をめざす。
東芝
2021年11月、東芝エネルギーシステムズ(現東芝)は富士電機と、経済産業省・文部科学省のNEXIP事業で進めた高温ガス炉の取組みを公表。高温ガス炉からの熱利用で、蒸気タービン発電と蓄熱システムを組み合わせた電力供給である。東芝エネルギーシステムズは、高温水蒸気電解プラントとの接続も公表した。
高温ガス炉は熱出力一定で運転を行い、太陽熱発電で実績のある溶融塩タンクに一端蓄熱し、蒸気発生器により必要な量の蒸気を蒸気タービンに供給して発電する。普及が進む再生可能エネルギーの電力需給変動に対し、高温ガス炉を出力調整力を持つ発電プラントとする概念である。
具体的には、高温ガス炉4ユニット構成(750℃、7MPa)からの総熱出力(240万kW)を一定とし、高温槽と低温槽で構成される溶融塩タンク(KNO3(40%)+NaNO3(60%))4モジュールで蓄熱(総容量:810万kWh、12時間)を行い、得られる水蒸気(565℃)で蒸気タービン(最高出力:96万kW)により柔軟な電力供給を行う。
また、水素製造用HTGRシステムとして、固体酸化物型電解セル(SOEC)に水蒸気(約700 ℃)を供給して電気分解する高温水蒸気電解法も検討し、水を原料としたカーボンフリーの高効率水素製造を提供する。

出典:東芝エネルギーシステムズ
海外との共同開発
ポーランドとの国際連携
2017年5月、日本とポーランドの両国政府が包括的な経済協力「戦略的パートナーシップ行動計画」を結び、高温ガス炉の共同開発が盛り込まれた。同年9月には、政府が従来の原子炉より安全と環境の面で優れた高温ガス炉の輸出検討に入ることを表明した。
ポーランドはエネルギーの大半を石炭火力発電に依存しているが、パリ協定の影響でCO2を排出しない高温ガス炉(出力:20~30万kW )への切り替えを検討し、10~20基の建設を計画している。
2022年11月、日本原子力研究開発機構(JAEA)は、高温ガス炉研究炉の基本設計をポーランド国立原子力研究センター(NCBJ)と開始する。研究炉(熱出力:3万kW、原子炉出口冷却材温度:750℃)は2025年までに建設し、商用炉(出力:16.5万kW)を2030年代に完成させる計画である。
JAEAはHTTRの技術をベースに、商用炉の開発・輸出を念頭に置いて技術協力を申し入れ、2023年3月には、基本設計のうち最後の安全設計に関する研究協力契約を締結した。
2024年11月、日本政府はポーランドでの原発建設の支援を発表。SMR、HTGR、大型軽水炉などの建設協力について経済産業省とポーランド産業省が覚書を交わした。日本企業の安全技術の提供、供給網の構築、専門人材の育成、放射性廃棄物の管理などを盛り込む。
日本政府はGEベルノバ日立ニュークリア・エナジー製のSMR導入を後押しする。ポーランドは2043年までに総出力:600〜900万kWの大型軽水炉6基を建設し、総発電量の23%をまかなう計画で、最初の3基の建設は米国ウエスチングハウスが受注した。日本政府は原発向けに東芝の蒸気タービンやIHIの格納容器など関連技術を売り込む。国際協力銀行(JBIC)によるプロジェクト融資も提案する。
英国との国際連携
2019年7月、日英両政府は「クリーンエネルギーイノベーションに関する協力覚書」に署名。2020年10月、JAEAと英国国立原子力研究所(UKNNL)が高温ガス炉開発に関する覚書を締結した。
2022年9月、英国は原子力利用の最有力候補として高温ガス炉に着目しており、発電設備を含む実証炉の建設に向け、炉の規模や発電コストの予備調査をJAEA、UKNNL、英国企業など5機関で実施すると公表した。2025年頃までに設計、2030年代初頭までに建設・運転を実現する。
2023年7月、JAEAとUKNNLのチームが、英国の高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計を行う事業者に選定された。また、UKNNLは高温ガス炉燃料開発プログラムの製造技術開発等を行う事業者として選定されたことで、JAEAはUKNNLと連携して英国における燃料製造の技術開発も進める。
2024年4月、JAEAは高温ガス炉(HTGR)用燃料の製造技術開発でUKNNLと協力の覚書を締結した。日本の技術的知見を提供し、UKNNLは2030年代初頭の稼働をめざす実証炉で利用するため2025年3月まで技術開発を進める。一方、日本が2030年代後半にも建設する実証炉用燃料は英国から調達する。
2025年9月、JAEAは、英国原子力規制局(ONR)との間で締結している高温ガス炉の安全性に関する情報交換の取決めについて、その期間を今後5年間延長することで合意した。
2026年6月、日英両政府がロンドンで行う首脳会談で、日本原子力研究開発機構と英国立原子力研究所、英重工大手ロールス・ロイスが、高温ガス炉に使う炉や燃料の研究開発を連携して進める覚書を結ぶ。2030年代初めに英国で実証炉の稼働をめざし、英国で実証した技術を日本でも活用できるようにする。
国内スタートアップ企業
2022年4月操業のBlossom Energy(ブロッサムエナジー)が、ブロック型高温ガス炉の商用化に挑戦している。原子炉の減速材には黒鉛、冷却材にはヘリウム(He)ガスを用いる。
同社は自前の生産拠点を持たないファブレス・メーカーである。8基の原子炉(熱出力:9万kW)をクラスター化した発電システム(電気出力:約33万kWe)をめざし、冷却材出口温度:約750℃を想定。2035年に国内で第1号機の運転開始を計画している。


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