政府が既存原発の60年超運転を認めたことで、「革新軽水炉」の建設は見通せない。「革新軽水炉」の建設には1兆円規模の建設費が想定されるため、これを民間任せにするのは無理がある。政府は「革新軽水炉」の建設に向けて資金的・法制的支援を決断する段階にきている。
革新軽水炉への建て替え
電力会社の動向
原発立地の難しさから、「革新軽水炉」の設置は廃炉跡地への建て替えが主体になると考えられる。従来の大型軽水炉を改良して過酷事故対策を含む安全対策を強化し、運転開始の目標時期は2030年代中頃をめざして、原子炉メーカーが開発が進めている。
福島第一原発事故以前に建て替えが明確であったのは、美浜原発1,2号と浜岡原発1,2号機であったが、2023年11月時点で、廃炉が決定した原発18基に具体的な建て替えの検討は進められていない。それは電力会社が既存原発の再稼働を優先し、人的資源と資金を回した結果である。
事故を起こした福島第一原発1~6号機を除き、国内では運転開始から約40年を経過する老朽原発のうち、比較的出力の低いものから廃炉が決定した。運転延長に必要な安全対策費が増大する中で、再稼働による収益改善効果が低く、廃炉費用が安い小型原発が対象になったのである。

出典:日本原子力産業協会データ集
原発の廃炉には20~30年を要し、火力発電所の1~2年に比べて極めて長い。経済産業省が示す廃炉費用も小型原発(出力:50万kW)で350~476億円、中型原発は(出力:80万kW)434~604億円、大型原発では(出力:110~138万kW)558~834億円と、火力発電所(出力:50万kW)の30億円~に比べて異常に高い。
高い廃炉費用の負担問題もあるが、廃炉に要する期間の長さが「革新軽水炉」への建て替えに大きな影響を及ぼす。革新軽水炉の運転開始時期を2030年代中頃とすれば、2009年11月に廃止措置を開始して2036 年度に完了予定の浜岡原発1,2号機のみが該当する。しかし、中部電力は問題を起こして??
2024年1月、九州電力は、「革新軽水炉」導入の検討を進めている。現在、廃炉作業中の玄海原子力発電所1、2号機の建て替えが決定した場合には、革新軽水炉の導入も視野に入れる。玄海1、2号機は2015年と2019年にそれぞれ運転を終了し2054年度に廃炉を完了する。導入はそれ以降となる。
九州では、台湾積体電路製造(TSMC)など半導体関連企業の進出が熊本県などで相次ぎ、北九州市への九州最大級のデータセンター建設も発表されている。2024、2025年に運転開始から40年を迎える川内原発1、2号機の運転延長が2023年に認可され、その後の電力供給に革新軽水炉は位置付けられる。
2025年7月、関西電力は、美浜原発の新増設や建て替えに向けた取り組み方針を示した。2010年に美浜原発の増設に向けて地質調査などに着手したが、翌年の福島第一原発事故を受け中断した。今後は、調査を再開後に基本設計をまとめて原子力規制委員会に申請を行う。
認可されれば建設工事を開始するが、完成までには20年程度かかる可能性がある。関西電力は、安全性が高いとされる「革新軽水炉」など、次世代型原発の建設を想定している。
2025年9月、関西電力は、美浜原発での新増設に向けた調査計画を発表。調査期間は2025年11月~2030年頃までとし、既存原発の北側と南側を対象に、2027年3月まで21か所のボーリング調査などで候補地を絞り込み、2027年4月から地盤確認や地震計で観測を行うなど詳細調査を行う。
調査開始から稼働までに20年程度を要するが、新増設と判断されれば新規制基準では初となる。
革新軽水炉の建て替えの課題
「革新軽水炉」には、福島第一原発事故の教訓を基に、国内の原子炉メーカー各社により様々な新技術が適用され、安全性、信頼性、効率などの面から対策が施されている。
中でも過酷事故対策として、①動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、②炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー、③事故時ベントによる放射性物質の外部放出を抑えるシステムが追加される。
今後、「革新軽水炉」が2030年代中頃に稼働するための大きな障害は、GX脱炭素電源法で原発の60年超運転を可能とした制度である。安全対策などで建設コストが1兆円規模となる「革新軽水炉」への建て替えに対し、電力会社は1千億円規模の投資で済む従来原発の運転延長を選択する可能性が高い。
ただし、運転延長される原発には、「革新軽水炉」で開発されている安全対策は施されていない。「革新軽水炉」の実現は、民間任せではなく、政府による資金的・政策的な必須である。
一方、現行の「原子力損害賠償法」では、原発事故の損害賠償は無限責任を電力会社が負う。そのため、民間企業である電力会社は新規投資に慎重にならざるを得ない。福島第一原発事故では、東京電力は実質的に国営化せざるをえなくなった。推進する政府も責任分担も考える必要がある。
直近では、フランスで建設中のフラマンビル原子力発電所3号機(EPR、出力:163万kW)、フィンランドのオルキルオト原子力発電所の3号機(EPR、出力:160万kW)、米国ボーグル原子力発電所3号機(AP1000、出力:110万kW)の建設では、大幅な工期延長と建設費の高騰が起きている。調査開始から稼働までに20年程度を要する「革新軽水炉」でも同じ心配がある。

政府が既存原発の60年超運転を認めたことで、国民は過酷事故対策の施されていない原発の延長運転によるリスクを背負わされた。1兆円規模の建設費が想定される「革新軽水炉」の建設を民間任せにするのは無理がある。政府は資金的・法制的支援を実施する段階にきている。
「世界的なインフレによる物価高」や「円安に伴う建設費の高騰」で、稼働まで10年以上を要する「革新軽水炉」はメーカーにとって採算が取れない可能性がみえる。加えて、福島第一原発以降の空白期に原子力新設に関わる技術と人材は激減しており、早急な判断が必要である。

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