今後も、再生可能エネルギーがエネルギー市場のシェアを拡大し続けることに間違いはない。そのため、中国、インド、ブラジル、東南アジア諸国など新興国でのGTCC建設が一巡すれば、化石燃料を使うガスタービンの市場シェアは再び大きく低下する可能性が高い。
低下したガスタービンのシェアを水素燃焼ガスタービンが回復させるためには、豊富で安価な「グリーン水素」の入手が不可欠であるが、10年後でも見通しは立たない。
発電用ガスタービンの未来予測
2015年をピークに起きたガスタービン市場の縮小
少し過去を振り返ってみよう。2019年2月、2018年の大型ガスタービンの世界シェア(受注ベース)で三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が初の1位と報じられた。MHPSは発電効率の高い超大型機種の開発競争で、1600℃級J形ガスタービン(出力:30万kW)を中心に実績を伸ばした。
米調査会社マッコイ・パワー・レポートによると、2018年の出力:10万kW以上の大型ガスタービンの世界シェアはMHPSが41%(前年は14%)、米国GEが28%(同47%)、ドイツ・シーメンスが25%(同27%)であった。ガスタービン全体でのシェアもMHPSが30%で、首位GEの33%に迫った。
一方、このレポートによると、2018年のガスタービンの世界需要は減少傾向にあり、3180万kWと2017年から15%も縮小した。ピークの2015年の6010万kWと比べてほぼ半減した。エネルギー投資が再生可能エネルギーにシフトする中、世界的な火力発電への逆風で市場縮小は止まらない状況であった。
ガスタービン事業では、2014年には日立製作所の火力発電事業が三菱重工業に統合された。2019年にはシーメンスがエネルギー部門をシーメンス・エナジーに分社化し、2022年にはGEがエネルギー事業の分社化を公表しGEベルノバに移行するなど、集約・縮小化が進められた。
その後、三菱重工業は「M701 JAC」ガスタービン、GEベルノバは「9HA.02」ガスタービン、シーメンス・エナジーは「SGT5/6-9000HL」ガスタービンと、相次いで新鋭機を実用化した。2020年代に入り、各メーカーはこれら空冷式1600℃級ガスタービンをベースに、GTCCで発電端効率(LHV基準):約64%を達成している。
先進国で一巡したGTCC市場であるが、現在は中国、インド、ブラジル、東南アジア諸国などの新興国の経済発展に伴い再び順調な伸びを示している。加えて、既設の1100℃級GTCCの発電端効率(LHV基準):約44%であるため、最新鋭の1600℃級GTCCへのリプレースが先進国で始まっている。
また、世界的な脱化石燃料シフトにより再生可能エネルギーが普及しているが、季節や天候による発電量の変動対策として機動性に優れたGTCCの採用も進められている。
しかし、過っての世界的な火力発電への逆風による市場縮小の経緯から、大手ガスタービン・メーカー3社は2030年をめざして「水素燃焼ガスタービン」の開発に大きく舵を切り始めている。
早すぎるのか?水素ガスタービン開発
2024年8月、米国グローバル・エネルギー・モニターが興味深いレポート「Leading three manufacturers
providing two-thirds of turbines for gas-fired power plants under construction」を公表した。
まず、大手ガスタービン・メーカーは、世界で建設中のガス火力発電所の69%が集中するアジアに重点を置いている。南北アメリカが14%、アフリカが8.8%、欧州8.2%と続く。
アジアのガスタービン市場ではGEベルノバは32%、シーメンス・エナジーは12%、三菱重工業は8.5%であるが、合弁会社を合計するとGEベルノバ、Harbin Electric General、GE Saudi Advanced Turbinesが38%、三菱重工業、Dongfang Electric Corporationが17%、シーメンス・エナジーが16%である。

出典:Global Oil and Gas Plant Tracker
アジアの中でも中国はガス火力発電開発で最大のシェア約151GWを有し、約46GWが建設中で、ガスタービン単体または複合サイクル発電のプロジェクトを、発表済みで建設前あるいは建設中である。
大手ガスタービン・メーカーは、中国市場を開拓するためにパートナーシップを重要視している:
■2017年、GEベルノバはHarbin Electric Generalと戦略的提携を締結し、両社を合わせて中国シェア39%を占めている。
■2004年、三菱重工業はDongfang Electric Corporationと広州にガスタービン合弁会社を設立し、両社を合わせて中国シェア25%を占めている。
■2019年、シーメンス・エナジーは、国家電力投資公司(SPIC)と戦略的パートナーシップを締結し、SPICの大型ガスタービン開発に技術協力している。

出典:Global Oil and Gas Plant Tracker
その他、GEベルノバは、2017年6月にサウジアラビア政府のDussurと共同投資会社GE Saudi Advanced Turbines(GESAT)を設立し、サウジアラビアでH型ガスタービンとその部品を製造し、中東および北アフリカ市場をめざしている。
以上のように、ここ数年の好調なガスタービン事業を背景に、大手ガスタービン・メーカーのGEベルノバ、三菱重工業、シーメンス・エナジーの3社は、水素を燃焼できる先進ガスタービンの開発に舵を切った。将来的にはグリーン水素に燃料転換することで、ガス火力発電所の新設を正当化することの狙いが透けてみえる。

しかし、2024年8月、経済金融分析研究所(IEEFA)は、 「Hydrogen is not a solution for gas-fired turbines」とのレポートを公表した。すなわち、ガスタービンにおける天然ガス代替としての水素の広範な使用を遅らせ、場合によっては停止させる3つの主要なハードルについて調査を進めた。
■水素供給不足: 米国では毎年約1000万トンの水素が生産され、そのほとんどが石油化学および肥料部門で消費されている。電力部門での水素燃料には、新たな生産が必要である。
■水素パイプラインインフラの欠如: 水素燃料を発電所に運ぶには、漏洩を防止した新しいパイプラインを建設する必要がある。
■水素貯蔵容量の不足: 現在、天然ガスの大部分は、枯渇した油田やガス田の地下貯蔵施設が使われ、広大なネットワークが構築されているが、これに匹敵する水素貯蔵インフラを新たに構築する必要がある。
再生可能な資源から得られる「グリーン水素」の価格は、天然ガスと比べて依然として高価であり、パイプラインインフラ、貯蔵能力の不足は重大かつコストのかかる障壁となっている。そのため、少なくとも今後10年間は、水素対応のガス火力発電所は、ほぼ完全に天然ガスを使用することになると分析している。
現在、ガスタービン・メーカー各社は、パートナーシップの構築と水素燃焼ガスタービン技術への投資を継続することで、ガス火力発電が将来のエネルギーミックスの重要な部分であり続けることに賭けている。
グローバル・エネルギー・モニターは、地政学的リスクの高まりによるパートナーシップの崩壊と天然ガスの過剰供給による水素燃焼ガスタービン実用化時期の先送りにより、この賭けが覆される可能性があると指摘している。
今後も、再生可能エネルギーがエネルギー市場のシェアを拡大し続けることに間違いはない。そのため、中国、インド、ブラジル、東南アジア諸国など新興国でのGTCC建設が一巡すれば、化石燃料を使うガスタービンの市場シェアは再び大きく低下する可能性が高い。
低下したガスタービンのシェアを水素燃焼ガスタービンが回復させるためには、豊富で安価な「グリーン水素」の入手が不可欠であるが、10年後でも見通しは立たない。

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