いよいよ「ポスト脱炭素」が始まったのか?米国の大手銀行が相次いで「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」からの脱退を発表した。2025年1月、トランプ氏の米国大統領返り咲きで高まる政治的圧力を受け、米国の大手銀行が我が身を守るための行動とも報じられている。
米国で始まった「NZBA」からの離脱
Bloombergの発表
2025年1月6日、ブルームバーグが、ウォール街の大手銀行が国際的な銀行グループ「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA:Net-Zero Banking Alliance)」を相次ぎ脱退と報じた。脱退したのは、ゴールドマン・サックス・グループやウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーである。
同年1月8日には、JPモルガン・チェースも離脱を表明した。現在も残る米国の金融機関は規模の小さなアマルガメイテッド・バンク、アレティ・バンク、クライメート・ファースト・バンクの3銀行のみで、「NZAB」は約80行の銀行が加盟する欧州が主体のアライアンスとなった。
「NZBA」は温室効果ガス排出量削減をめざす銀行アライアンス(同盟)であるが、トランプ氏の米大統領返り咲きで高まる政治的圧力から身を守りたい意向を反映したものだと報じられた。しかし、NZBA離脱の公式理由については、どの銀行も明らかにはしていない。

一方、「NZBA」を離脱した銀行はいずれも、脱炭素化は依然として価値のある目標だと認識していると公式表明している。しかし、最大の責務は顧客ニーズに応えることだとの見解も明らかにしている。
相次ぐ「NZBA」離脱による影響は不透明だが、ブルームバーグの集計データによれれば、2021年の同アライアンス結成以降、銀行全体では化石燃料産業への投融資は増加している。
Reutersの発表
2025年1月、ロイターは、脱炭素をめざす国際的な銀行同盟「NZBA」から米国大手金融機関がこの数週間に相次いで離脱と報じた。
2024年12月6日、米国金融大手ゴールドマン・サックスが「NZBA」からの離脱を発表すると、すぐにウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーが追随した。2024年12月8日、米国金融大手6社の最後であるJPモルガン・チェースが離脱を発表した。
離脱を表明した銀行は直接的な理由には触れず、低炭素経済への移行を支援する取り組みや行動の透明性を確保する姿勢は継続すると表明している。
しかし、共和党の政治家、特に多くの州の司法長官が「NZBAへの加盟、特にそれが化石燃料企業への融資削減につながる場合、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する恐れがある」と批判し、2024年11月の選挙で共和党が大勝してトランプ前大統領が返り咲きを決めてから、訴訟リスクを恐れてNZBA離脱は加速された。
そのため温室効果ガス排出問題への金融業界の取り組みがさらに弱まるとして、気候変動対策推進派から非難の声が上がっている。実際に、金融シンクタンク、アントロポセン・フィクスト・インカム・インスティテュート(AFII)によると、離脱した銀行はいずれもグリーンエネルギーよりも化石燃料から多くの収益を得ている。
米国銀行が離脱する主な理由
①米国では、共和党を中心とする反ESG(環境・社会・ガバナンス)運動 により、「NZBA」への加盟が政治的リスクと見なされるようになり、一部の州で「気候変動対策のために特定業界(石油・ガス産業)への融資を制限する銀行とは取引しない」法律が制定されて事業リスクとなる状況が出てきた。
②米国の多くの州の司法長官が「NZBAへの加盟、特にそれが化石燃料企業への融資削減につながる場合、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する恐れがある」と指摘していた。
2025年1月時点で、「NZBA」には引き続き44カ国から142行が加盟し、総資産額は64兆ドルに上る。米国大手銀行の離脱により、ドルベースで最大シェアを持つのが欧州の銀行であり、HSBC、バークレイズ、BNPパリバなど大手を含む80行が加盟している。
今後、米国大手銀行の離脱が他国の銀行の離脱に影響を及ぼすのか?欧州の銀行が主体となり「NZBA」の指針強化が進むのか?今後の動向に十分注目する必要がある。
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