1960年代の未来予測(未来の交通Ⅱ)

はじめに
図2 交通の図鑑 未来の交通Ⅰ
出典:山中忠雄ほか3名、小学館、1967年5月発行

「美しい形をした自動車や大型バスが、矢のような速さで高速道路を走っていきます。道路には電波を出す装置がしてあって、自動車はその電波を受けて走ることができます。車内のテレビに障害物がうつしだされて、ひとりでにブレーキがかかりますから、しょうとつする心配もありません。電磁波軌道を高速列車が弾がんのように走っていきます。海には原子力船や原子力せん水艦が浮かんでいます。空にも便利な軽ヘリコプターが飛びかっています。この絵のように、乗り物がすべてむだなく速く安全に行きかいする日が実現するのも、そう遠いことではないでしょう。」

出典:山中忠雄ほか3名、小学館、1967年5月発行 

 図2には、未来の交通Ⅱを示す。自動車に関する前半の記述は自動運転であり、磁気浮上列車空飛ぶクルマについても実現の可能性が見えてきている。しかし、「海には原子力船や原子力せん水艦」については、軍事利用としての利用に限定されているのが現状であろう。

 「夢のエネルギー、原子力」が喧伝された時代に書かれたもので、子供を対象とした図鑑にも原子力旅客機原子力旅客船原子力潜水艦原子力機関車などが未来の交通として紹介されていた。これらの中で、唯一、生き残っているのは軍事目的で利用されている原子力潜水艦であろう。

 ちなみに、1954年に世界初の原子力潜水艦「ノーチラス号」(2980トン、全長:97.5m、速力:水上:22ノット/水中23.3ノット)が米国で建造されて就航し、1958年には北極点の下を潜航通過している。2022年6月時点の保有国は米国・中国・英国・フランス・ロシア・インドの6か国である。

 また、1959年には世界初の原子力貨物船「サバンナ号」(12220トン、全長:181m、速力:21ノット)が米国で建造され、燃料補給なしで世界一周を実現している。1959年には世界初の原子力砕氷船「レーニン」(16000トン、全長:134m、速力:18ノット)が当時のソ連で建造され就航している。

 日本では、1969年に原子力船「むつ」(8242トン、全長:130.46m、速力:17.7ノット)が進水し、1974年に太平洋上で出力上昇試験を開始、初臨界の直後に放射線(高速中性子)漏れが発生した。放射線遮蔽改修工事後の1991年2月に実験航海を再開し、翌年1月に実験を終了して原子炉が撤去された。

 何故、原子力潜水艦が生き残ったのか?少し考えれば自明である。通常のディーゼルエンジンで駆動する潜水艦に比べて原子力潜水艦は静粛性に優れており、長期間の潜航が可能であるため軍事用途に適合している。

 何故、原子力旅客機、原子力旅客線、原子力機関車が実現せずに消え去ったのか?これらには一般市民が搭乗するために高い安全性と経済性が必要とされる。原子力は誰もが安全に制御できるエネルギーではないことに、時間と金をかけて気が付いたのである。とにかく、未来予測は難しい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました