国内でのCCS事業化の動向(Ⅲ)

火力発電

 JOGMECのCCS事業に選定された9案件には、発電、石油精製、鉄鋼、化学、紙・パルプ、セメント等の多様な企業が参画し、産業が集積する北海道、関東、中部、近畿、瀬戸内、九州等のCO2排出に対応する。9案件合計で約2000万トン/年のCO2貯留を目標とする。次に、⑥~⑨の詳細を示す。

CCS事業⑥~⑨の詳細

⑥マレーシア・マレー半島沖北部CCS事業

■2024年9月、三菱商事、ENEOS、JX ⽯油開発、JFE スチール、コスモ⽯油、⽇本触媒、マレーシア国営⽯油会社の関係会社PETRONAS CCS Solutionsは、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「マレーシア・マレー半島沖におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。
 東京湾域を排出源とするCO2を対象とする海外CCSバリューチェーン構築に関する覚書は、2024年3⽉に締結しており、2023年度の事業性調査に加え、JFEスチール、コスモ⽯油、⽇本触媒が新たに参画した。

 東京湾(京浜地区・京葉地区)周辺の複数産業(ENEOS、JX ⽯油開発、JFE スチール、コスモ⽯油、⽇本触媒)から排出されるCO2の分離回収、液化、海上輸送、貯留の各セグメントにおいて最適な設備設計を検討し、CCS社会実装の実現に向けたコスト試算及び課題の抽出、実現可能性の検証等を実施する。
 域内で回収するCO2の規模は300万トン/年程度を想定し、将来的には600万トン/年程度をめざす。7 社は、2026年度までの最終投資決定、2030年度までの事業開始をめざす。

 2024年10月、JFEエンジニアリングは、三菱商事よりマレー半島沖北部CCS事業検討における「CO₂輸送パイプラインに関わる蓋然性検討業務」を受注した。JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」の中で、CO₂パイプライン輸送の検討を行う。

図7 海外CCSバリュエーション構想  出典:三菱商事

⑦マレーシア・サラワク沖CCS事業

■2024年9月、石油資源開発(JAPEX)、日揮ホールディングス、川崎汽船、JFEスチール、三菱ガス化学、三菱ケミカル、中国電力、日本ガスラインは、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「マレーシア・サラワク沖におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。

 瀬戸内エリアなどの複数産業(JFEスチール、三菱ガス化学、三菱ケミカル、中国電力)は自社から排出されるCO₂を分離回収・貯留し、JAPEX、日揮ホールディングス、川崎汽船、日本ガスラインが、マレーシア・サラワク州沖を対象地として圧入・地下貯留をめざす。
 共同推進者のPETRONAS CCS Ventures(PCCSV)と日本企業は、サラワク州沖合の枯渇ガス田まで海上輸送(瀬戸内エリアにおける内航輸送を含む)、圧入・貯留までに必要な設備、コスト評価を実施する。

 2023年9月、JAPEX、日揮HD、川崎汽船、PCCSVは、マレーシアにおけるCCS事業化検討の基本契約を締結。2024年2月、サラワク州営エネルギー会社で同州のCO2貯留権管理者のPetroleum Sarawak BerhadとCO₂貯留地契約を締結し、マレーシア国内から排出されるCO2も含むCCS事業の実現性を調査する。

表1 マレーシア・サラワク沖CCS事業 出典:三井物産

⑧マレーシア・マレー半島沖南部CCS事業

 2022年11月、三井物産は、CO2を地下貯留するCCS権益を2035年までにアジア太平洋地域を中心に1500万トン/年を確保すると発表。2022~2024年にCCSに適した地下貯留層の探索・調査を進め、2030年にも日本企業などからのCO2回収から輸送・貯留までを請け負う。
 インドネシア国営プルタミナと、スマトラ島中部にある陸上油田・ガス田地帯での貯留量を調査する。マレーシア国営石油ペトロナスとは、貯留量や同国外からのCO2受け入れの運搬船の航路などを調査する。実際に、タイ石油公社系が持つガス田ではCCS実証実験を始める。

 2023年6月、三井物産は、マレーシアでCCS事業を2030年頃までに始めると発表。マレーシア国営石油会社のペトロナスやフランスのトタルエナジーズと貯留地を共同で開発する。日本、韓国、台湾の製造業から排出されるCO2の受け入れを見込む。

■2024年10月、三井物産、関西電力、九州電力、コスモ石油、中国電力、電源開発、レゾナック、UBE三菱セメントは、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「マレーシア・マレー半島沖南部におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。
 マレー半島沖南部CCS事業の対象となるCO2貯留サイトは、三井物産とマレーシア国営石油会社Petroliam Nasional Berhadペトロリアム・ナショナル・ブルハドのCCS事業会社PETRONAS CCS Solutionsペトロナス・シーシーエス・ソリューションズ及びフランスのTotalEnergiesトタール・エナジーズのCCS事業会社TotalEnergies Carbon Neutrality Venturesトタール・エナジーズ・カーボン・ニュートラリティ・ベンチャーズが、2023年6月から共同開発を進めている。 

 例として、Jパワー九州電力は、それぞれが九州エリアに所有する火力発電所の排ガスからCO2を分離回収し、液化・貯蔵、液化CO2出荷に係る各設備を検討し、三井物産が開発を進めているマレー半島沖のCO2貯留サイトへ貯留するCCS事業の共同検討を行う。 

図8 マレー半島沖南部CCS事業  出典:九州電力

 2025年4月、日本とマレーシアはCO2地下貯留で協力すると発表。日本国内の火力発電所などから出たCO2を液化して専用船で運び、マレーシア沖の天然ガス田跡に封入する事業を2030年に開始する。ロンドン条約の議定書で国外輸送には2国間合意が必要であり、今夏までにマレーシアとの覚書に署名する
 マレーシア沖には大規模ガス田が複数あり、枯渇後の空洞部への圧入を計画する3事業が進行中で、合計で最大1000万トン/年程度を貯留できる。

⑨大洋州CCS事業

  2022年2月、三菱商事と三井物産はオーストラリア西部沖合の海底でのCCS事業を発表。資源大手の英国BP、豪州ウッドサイドと共同で、現地工場などで排出するCO2をパイプラインで受け入れ、2030年頃のCCS設備の稼働をめざし、将来的には日本からCO2を海上輸送する。

■2024年9月、三菱商事、日本製鉄、ExxonMobil Asia Pacific、三菱ケミカル、三菱商事クリーンエナジーは、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「伊勢湾/中部地域の複数産業から排出されるCO2 を対象とした海外CCSバリューチェーン構築の実現可能性調査」が採択された。

 2023年度の三菱商事、日本製鉄、ExxonMobil Asia Pacificによる調査に加え、2024年度は三菱ケミカル、三菱商事クリーンエナジーも加わり、CCS事業における各種設計の精度を高め、CO2海上輸送ロジスティクスの検証を行う。2026年度までの最終投資決定、2030年度までの事業開始をめざす。

図9 海外CCSバリュエーション構想  出典:三菱商事

コメント

タイトルとURLをコピーしました