世界で進む太陽光発電の現状(Ⅲ)

再エネ

日本の太陽光発電が進むべき方向:
●2016年から国内導入量が5GW(500万kW)/年に鈍化し、2024年度には3.1GWに下落。「カーボンニュートラル2050」を実現するためには、「FIT買取価格の適正化」や「促進区域の設定」など導入再加速の仕組みを作る。加えて、電力会社による太陽光発電の出力抑制を防ぐため、電力貯蔵と送電網の拡充を加速する。
●2010年代後半、中国の太陽光パネルの安値攻勢により、日本を始めとした欧米・東南アジアの競合メーカーの多くが価格競争に負けて撤退した。疲弊した国内のパネル製造メーカーへの支援を強化して、エネルギー自給率を高める方針を明確に示す。次世代太陽光発電PSCで同じ過ちを繰り返してはならない。

太陽光発電の導入加速への道

 日本はエネルギー自給率が12.1%と世界的にみても明らかに低い。「カーボンニュートラル2050」の実現と共に、エネルギー自給率を上げるためには、再生可能エネルギーの導入が必須である。

 2012年7月にFIT法が導入されて以降、太陽光発電導入の急速な伸びが報道された。しかし、急速なFIT買取価格の引き下げと、電力貯蔵システムの導入が遅れたことで、電力会社による「再エネ出力制御」の問題が多発し、国内での太陽光発電の導入量は徐々に鈍化している。

 FIT制度により太陽光発電の年間導入量は増加したが、2014年度の9.44GWをピークに、2023年には3.1GWにまで低下した。「FIT買取価格の適正化」や、実績が出てきた浮体式太陽光発電など「促進区域の設定」大手電力会社への設置義務付け」など再加速の仕組みが必要な段階であり、早急な対応が必要である。

 「再エネ出力制御」の問題は、2018年に九州電力管内で離島以外で初めて行われたが、現在は東京電力を除く全電力会社で毎年実施されている。政府は、この問題を解決することが喫緊の課題である。

 一方、2023年の世界の太陽電池モジュールのメーカー別生産量は617GWに達した。1位は中国・ 晶科能源(Jinko Solar)でシェアは13.6%で、上位10社に中国メーカー9社が入り、世界全体の約69%を生産している。

 中国の太陽光パネルメーカーが需要を上回る増産を継続した結果で、劇的に太陽光パネルのコスト低下が生じたことで、世界的に太陽光発電の導入が加速された。しかし、日本を始めとした欧米の太陽光パネルメーカーは、価格競争に負けて撤退が加速された。

 国内では自前の優れた太陽光パネルを有しているにも関わらず、経済的理由から安価な中国製を導入する場合が増えている。中国の太陽光サプライチェーン支配に脅威を感じる国々は、自給率向上に向けて動き出した。政府は京セラや長州産業など国産パネルを堅持しているメーカーの保護・育成を表明すべきであろう。  

次世代太陽電池への取り組みについて

 ペロブスカイト型太陽電池(PSC)の開発目標は、「安価なシリコン系太陽光パネルで世界を席巻した中国メーカーに対抗した新規分野の開拓なのか?」、あるいは国内での太陽光発電の導入拡大が目的なのか?」これを明確にする必要がある。

 政府は2040年に国内でのPSC設置で約20GWをめざすとし、2024年度のエネルギー基本計画に盛り込んだ。20GWは国内の太陽光パネル(73.8GW)の約3割に相当する。『二兎追うもの、一頭も得ず』のことわざがあるが、政府は二股をかけているようである。

 ペロブスカイト型太陽電池(PSC)の事業化に向け、国内では積水化学工業を始め、パナソニックHD、東芝、アイシン、カネカ、スタートアップのエネコートテクノロジーなどが、2025年以降の事業化をめざして研究開発を加速しているが、多くは専業メーカーではない

 日本が開発段階で先行したPSCであるが、様々な実証試験を展開しているのが現状である。量産への投資に消極的な日本企業を尻目に、中国企業が量産工場を相次いで稼働させるとの報道が目に付く。シリコン系太陽電池の二の舞を演じて、日本は同じ失敗を繰り返すのか? 

 政府は研究開発段階の支援のみならず、企業の事業推進段階においても十分な指導・支援を行い、世界で通用するPSC大企業を育成する必要がある。企業だけの損得勘定に任せれば、リスク回避によりPSCについても早期の縮小・撤退が待っている。

 ところで、国内の開発メーカーの多くはフィルム基材型PSC」の開発を進めている。中でもエネコートテクノロジーは、トヨタ自動車と共同で車両一体型(TIPV)をめざしている。アイシンとパナソニックは耐久性に優れるガラス基材型PSC建材一体型太陽光発電(BIPV)をめざしている。
 いずれもPSCの新分野への適用拡大により、中国メーカーに対抗した新規分野の開拓をめざしているようであるが、中国メーカーも追随している。

 一方、シリコン系太陽電池で圧倒的なシェアを獲得した中国メーカー大手は、高い変換効率が得られるタンデム型PSC」の開発に注力している。このタンデム型PSCは、シリコン系太陽電池の変換効率向上策として現状のメガソーラーでのリプレース事業に直接適用できる。
 国内ではパナソニックや東芝もタンデム型PSCの開発を進めているが、変換効率の記録ねらいが主目的のようにみえる。

 実際、国内で多くの太陽光発電システムの納入実績を有する三菱電機、ソーラーフロンティア、京セラなどは懲りたのかPSC事業化に名を連ねていない国内での太陽光発電の導入拡大のためには、既設の太陽光発電システムがリプレース時期を迎えるにあたり、鍵となる企業である。

 PSCによる新規分野の拡大による産業の育成は重要課題である。しかし、多くの産業を支えるクリーンエネルギー供給の根幹として、PSCを含む太陽光発電の導入拡大はより重要であることを忘れてはならない。 

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