なぜか伸びない水力発電(Ⅴ)

再エネ

 FITにより水力発電の導入を推進する仕組みは徐々に出来上がったが、水力発電設備の累積導入量は頭打ちの状況にある。これはFITで推進している中小水力発電が出力:3万kW以下と小容量であり、総設備容量の約5000万kWに比べて少ないためである。

 重要な問題は、近年の水力発電電力量が減少していることである。最近では、2015年の871億kWhをピークに、それ以降は減少傾向を示し、第6次エネルギー基本計画の目標値である1023~1034億kWhの到達が見通せない。

国内水力発電の導入状況

再生可能エネルギーの導入状況

  環境エネルギー政策研究所(ISEP)の調査によれば、固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、東日本大震災当時(2011年度)に比べると2022年度の太陽光発電の年間発電電力量は約19倍に増加し、天候などの影響を受ける変動型の太陽光発電と風力発電が総発電電力量に占める割合は10.8%に上昇した。

 一方、天候などの影響を受けにくい非変動型のバイオマス発電についても年間発電電力量が占める割合は徐々に増加している。しかし、水力発電については小水力設備の導入は進むものの発電電力量は約770~870億kWhで増加せず、2022年度の総発電電力量に占める割合は7.1%である。

 第6次エネルギー基本計画で掲げられた2030年度の再生可能エネルギーの達成目標は、36~38%(内訳、太陽光:14~16%、風力:5%、バイオマス:5%、地熱:1%、水力:11%)である。水力発電は太陽光発電に次いで期待される再生可能エネルギーであるが、目標にはほど遠いのが現状である。

 すなわち、2030年の国内の総発電電力量(9300~9400億kWh)における水力発電の発電電力量の割合を11%とする目標設定であり、水力発電電力量を1023~1034億kWhに押し上げる必要がある。

図11 日本国内での自然エネルギーおよび原子力の発電量の割合のトレンド 出典:ISEP

水力発電の導入状況

 水力発電の開発の歴史は古く、1963年に「火主水従」に移るまで、水力発電は国内電力供給の主力であった。1970年以降も水力発電設備の累積導入量は右肩上がりで増加するが、徐々に鈍化する。これは経済性に優れた大水力発電の新規立地が減少したためとされる。

 2012年7月、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まり、中小水力発電の導入が推進された。ただし、出力:3万kW未満の中小水力発電が対象で、出力:3万kW以上の大中水力発電は対象外である。
 FIT買取価格は、0.1~3万kW(24円/kWh、20年)、0.02~0.1万kW(29円/kWh、20年)、0.02万kW未満(34円/kWh、20年)と高値に設定された。

 2014年4月、FITを既設の中小水力発電設備の更新にも適用すべく、全更新を対象とした「新設区分」とは別に、既設の中小水力発電設備の電気設備と水圧鉄管を更新する「既設導水路活用型区分」ができ、「新設区分」よりも安い買取価格(14~25円)が出力に応じて設定された。
 同じ水量・落差でも最新鋭の水車や発電機に設備更新することで、10%以上の性能向上の可能性がある。また、台数を減らして大規模設備に集約する高効率化や、季節による水量変動に追従する可変速水車」への更新が進められた。

 2014年末時点で、FIT認定を受けた中小水力発電の設備容量は35.4万kWである。その内訳は、改造を含む設備更新:26.6万kWで約75%を占め、新設:4.6万kWで約13%、農業用水路・上下水道・既設ダム等の未利用落差の利用が合計3.7万kWで約10%である。既存設備の更新による出力増が主体である。

 2015年6月、資源エネルギー庁は「長期エネルギー需給見通し」で、現在進行中の案件または経済性のある案件のみ開発が進む場合、2030年までに大水力発電設備:19万kW、中小水力発電設備:16万kWの導入が進み、累積設備容量:4685万kW(発電電力量:862億kWh)が見込まれるとした。
 また、既存発電所の設備更新による出力増加、未利用落差の活用拡大等が進んだ場合、2030年までには大水力発電設備:64万kW、中小水力発電設備:65万kWの導入が見込まれ、累積設備容量:4779万kW(発電電力量:904億kWh)が見込まれる。
 さらに、自然公園法や地元調整等自然・社会環境上の障害があるが解決可能とされる地点の開発が進めば、大水力67~79万kW、中小水力130~201万kWが導入され、累積設備容量:4847~4931万kW(発電電力量:939~981億kWh)が見込まれると、明るい展望を示した。

 2017年4月には、改正FIT法の施行で、0.1~3万kWの買取価格区分が、0.5~3万kW(20円/kWh、20年)、0.1~0.5万kW(27円/kWh、20年)に分離され、「既設導水路活用型区分」は、0.5~3万kW(12円/kWh、20年)、0.1~0.5万kW(15円/kWh、20年)と買取価格の見直しが行われた。

 2019年頃から、太陽光発電と風力発電のFIT買取価格の引き下げにより、中小水力発電が注目を集める。出力:3万kW未満の中小水力発電は、他の再生可能エネルギーより有利な条件で売電できるためである。 

図12 日本の水力発電設備容量及び発電電力量の推移
出典: 2015年度までは電気事業連合会「電気事業便覧」、2016年度以降は資源エネルギー庁「電力調査統計」を基に作成

 以上のように、FITにより水力発電の導入を推進する仕組みは徐々に出来上がったが、水力発電設備の累積導入量は頭打ちの状況にある。これはFITで推進している中小水力発電が出力:3万kW以下と小容量であり、総設備容量の約5000万kWに比べて寡少なためである。

 一方、重要な問題点は、近年の水力発電電力量が減少していることである。最近では、2015年の871億kWhをピークに、それ以降は減少傾向を示し、第6次エネルギー基本計画の目標値である1023~1034億kWhの到達が見通せないことである。 (図12中の赤線が水力発電電力量である)

既設水力発電所の老朽化による出力低下

 近年、水力発電の設備容量は微増傾向にあるが、発電電力量は減少している。この原因について検討された結果、「既設水力発電所の老朽化による出力低下」が、大きな要因であることが明らかにされている。
 「既存の一般水力発電について改修が行われなければ、発電量を維持するための改修を行う場合と比べて、2030 年で約99億kWhの発電量が減少する可能性がある」ことが示された。

 国内の大水力発電所(出力:5万kW以上)の運転開始時期は1960~1980年に集中しており、運転期間が40~60年を経過しており老朽化している可能性は高い。すなわち、水車部品の腐食や土砂摩耗などによる効率低下の問題である。出力を維持するためには定期的な点検による修理と部品交換が不可欠である。

図13 大規模水発電所(出力:5万kW以上)の出力と運転開始時期

 国内の大中水力発電所では河川水から沈砂池などを通して土砂を除去するが、完全に除去することは困難であり、数μm程度の土砂粒子(シリカ、アルミナなど)が残留する。そのため、水車の高流束部であるランナやガイドベーン周りでは、流水中に含まれる土砂粒子が金属表面に高速で衝突し土砂摩耗が生じる

 水車部品の形状は水力性能を考慮して最適設計されている。土砂摩耗により最適形状から逸脱すれば、水力性能が低下して発電効率の低下に直結する。そのため損傷部品は肉盛溶接で復元されているが、最近では熱影響を与えない高速フレーム溶射(HVOF)による補修が行われている。

図14 縦型フランシス水車水力発電機の土砂摩耗損傷例  出典:東芝

河川の流水量の影響

  水力発電による発電電力量は、河川の流水量に影響を受ける。しかし、気象庁では、日本の年降水量に長期変化傾向はみられないとしている。すなわち、近年の国内の水力発電による発電電力量の減少は、河川の流水量の変化によるものではない。

日本の年降水量偏差の経年変化(1898〜2023年)

 2023年の日本の降水量の基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの偏差は-27.8mmでした。日本の年降水量には長期変化傾向は見られませんが、1898年の統計開始から1920年代半ばまでと1950年代、2010年代以降に多雨期が見られます。また、1970年代から2000年代までは年ごとの変動が比較的大きくなっていました。

気象庁 | 日本の年降水量 (jma.go.jp)
図15 日本の年降水量偏差の経年変化(1898〜2023年) 出典:気象庁

 しかし、近年の雨の降り方には大きな変化が起きている。1時間あたり降⽔量が50mmを超える短時間強雨の発生回数が約30年前に比べて約1.4倍に増え、今後さらなる増加が予測されている。

 国土交通省は、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化の対策の一環で、ダムの貯水量を増やすなどの整備・再生を推進している。また、発電施設のないダムやダム下流の減水区間への維持流量の補給等を行うダムでは、管理用発電等の新設・増設を行い、積極的に水力発電の導入を推進するとしている。 

 長期的にみれば、異常気象による短時間強雨は、水力発電の発電電力量が増加する可能性を有している。そのためにはダムの整備・再生に合わせ、大手電力会社が保有する大中水力発電設備の老朽化更新・新設を着実に進める必要がある。 

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