国内の大手電力会社では、CO2削減を掲げて既存の石炭火力発電所でのバイオマス混焼発電を進めている。石炭火力発電所からのCO2排出量を出来るだけ少なく見せるという姑息な手段で、欧州の先進諸国からは、石炭火力発電所の延命策と受け取られている。
国内で進められている石炭火力発電所の木質バイオマス混焼、将来を見据えたバイオマス専焼の行きつく先は何処であろうか?
木質バイオマス発電の未来予測
木質バイオマス混焼・専焼の行きつく先は?
再生可能エネルギーの中で、太陽光発電に次いでバイオマス発電の発電電力量が急速に伸びている。その主体となっているのは、石炭火力発電所における木質バイオマスの混焼である。
固定価格買取制度(FIT)の認定を受けた大手電力会社(JERA、電源開発、中国電力、北陸電力)や製鉄・製紙会社の自家発電設備が中心となり、混焼率を上げる取り組みも進められている。
2018年以降、石炭火力発電所における木質バイオマス混焼に関して新規のFIT認定はなく、2019年度以降、FITの新規認定対象から除外された。しかし、2013~2017年にFIT認定を受けた石炭火力発電所における木質バイオマスの混焼は、当初の計画通りであれば20年間、2033年~2037年まで稼働することになる。
CO2排出量の削減という新しい取り組みに向けて動き出した企業へのインセンティブとして、FITは設定された仕組みであり、今さら取り消すこともできない。
今後、「EUが危惧する森林破壊」を助長しない規制に加え、既に始まっている「木質バイオマス燃料の価格上昇」で、技術・経済的に成り立たない場合、あるいは、「政府による木質バイオマス混焼の規制」が出ない限り、現状は変わらずバイオマス混焼は継続される。
ところで、資源エネルギー庁がIEA 「 World Energy Outlook 2020 」の公表済政策シナリオに基づき試算した2030年の電源別発電コストが示されている。石炭火力の13.6円/kWhに対して、バイオマス混焼(5%)は14.2円/kWhと大差はない。しかし、バイオマス専焼は燃料費依存が強く29.9円/kWhと高い。
そのため、「バイオマス混焼」はFIT認定を受けずとも見掛けの発電効率向上のメリットを享受し、休廃止されることなく継続運転される可能性が高い。また、当初想定されていた「バイオマス混焼機」➡「バイオマス専焼機」への転換は進まないであろう。
一方、「バイオマス専焼」はFIT認定が終了後、他の発電設備に比べてはコスト競争力に乏しいため、バイオマス燃料の大幅な低コスト化が進まない限り、継続運転は困難となる。
2024年度から、温室効果ガス排出抑制や災害防止を目的とした「森林環境税」が始まり、国内居住の個人から1000円/年が課税される。国内林業の活性化による持続可能なバイオマス発電につながることを期待する。
調整電源としてのバイオマス発電の道は?
太陽光発電や風力発電などの変動性再生可能エネルギーと異なり、バイオマス発電は出力調整が比較的容易である。そのため、現在、化石燃料を燃やして火力発電が行っている調整電源としての役割をバイオマス発電が担う将来構想は、以前から指摘されている。
カーボンニュートラルを実現するために、太陽光発電や風力発電向けの調整電源としてバイオマス専焼発電を使うことは理にかなっている。しかし、そのためには森林破壊を助長しない「安価な木質バイオマス燃料の継続的な大量調達」が不可欠であり、調整電源としてのバイオマス発電の先行きの見通しは暗い。
現時点では、太陽光発電や風力発電向けの調整用としては、電気自動車(EV)開発などで低コストが進められてきた二次電池による蓄電所の設置が、国内各所で進められている。
一方、供給量に限界が見えるバイオマス燃料に替わり、石炭火力発電ではアンモニア混焼、LNG火力発電では水素混焼の開発が進められており、次世代火力発電はアンモニア燃料と水素燃料が本命視されている。
バイオマス発電所へのCCS設備の導入
2020年代に入ると、国内外でバイオマス(専焼)発電所へのCO2回収・貯留(CCS)設備の導入が始まった。バイオマス発電所はCO2排出量が実質ゼロとみなされるため、付帯したCCS設備が稼働すれば大気中のCO2を減らすネガティブエミッション(負の排出)発電所となる。
2020年10月に、環境省の「環境配慮型CCS実証事業」で、東芝エネルギーシステムズはグループ会社のシグマパワー有明が所有する福岡県大牟田市の三川発電所(出力:5万kW)でCCS実証設備(500トン/日)の運転を開始した。主燃料はパーム椰子殻(PKS)で、排出されるCO2の50%以上を回収する。
バイオマス発電所で排出されるCO2を回収・貯留するプロセスはBECCS(Bio Energy with Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書でも、BECCSが脱炭素の有力な手段になる可能性を指摘している。
また、バイオマスからの水素製造や、バイオプロセスで発生するCO2を回収・貯留するプロセスも、BECCSに含まれる。
バイオマス発電とCCSを組み合わせたBECCSは、既に完成した技術の組合せであり、技術的な開発課題は多くはない。2050年のBECCSによるCO2削減ポテンシャルは50億トン/年と予測されているが、このCO2削減ポテンシャルは、分離したCO2の貯留地を確保できるか否かで大きく変化する。
そのため、地下貯留以外のCO2貯留・固定化方法の開発が、低コスト化の開発と並行して進められており、実用化を拡大するためには政府による支援が必要な段階にきている。
一方、BECCSと競合するネガティブエミッション技術として、海洋吸収、風化促進(岩石吸収)、直接空気回収技術(DACCS:Direct Air Carbon Capture and Storage)、バイオ炭などの研究も進められている。2050年に200ドル/トン-CO2以下のCO2除去コストが期待されているが、BECCSは競合技術に勝てるか?
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