世界で進む風力発電の導入現状(Ⅲ)

再エネ

 極めてポテンシャルが高いのに風力発電が拡大しない理由は、企業として風力発電事業に”うま味”がないためである。その証拠は、1990年代後半以降に補助金で設置された既設風力発電所が約20年の寿命を迎えて撤去が相次いでいることから明らかである。
 既設風力発電所は環境アセスをクリアし、約20年間以上にわたり発電を行ってきた。新たに環境アセスを実施して風力発電所を新設するよりも、既設発電所を更新する方がよほど合理的に風力発電を拡大できる。

日本の風力発電が進むべき道は?

風力発電の導入の再加速について

 国内の陸上風力発電ポテンシャルは1億4376万kWであり、全発電設備容量の70%に達する。また、国内の洋上風力発電ポテンシャルは6億784万kWであり、これは国内全発電設備容量を超えて294%に達する。ただし、離岸距離30km未満で水深200m未満の洋上についてである。

 極めてポテンシャルが高いのに風力発電が拡大しない理由は、企業として風力発電事業に”うま味”がないためである。その証拠は、1990年代後半以降に補助金で設置された既設風力発電所が約20年の寿命を迎えて撤去が相次いでいることから明らかである。

 既設風力発電所は環境アセスをクリアし、約20年間以上にわたり発電を行ってきた。新たに環境アセスを実施して風力発電所を新設するよりも、既設発電所を更新する方がよほど合理的に風力発電を拡大できる。
 今後も既設風力発電所の撤去問題は継続するため、政府は更新補助金や大手電力会社による買取制度などの対策を打ち出す必要がある。

  日本は2030年までに総出力:1000万kWの目標を掲げるが、海外の風車メーカーが占める割合は高いレベルで推移することは間違いない。エネルギーセキュリティーの上で重大な問題であることを忘れてはならない。太陽光パネルの二の舞を演じないよう十分な注意が必要がある。 

 一方、気象条件で出力が大きく変化する風力発電や太陽光発電を系統連系するには、その出力変動を平準化するために負荷変動対応に優れたLNG火力発電や揚水発電などのバックアップ電源の整備、あるいは蓄電池による電力貯蔵システムの設置が重要である。
 さらに大規模風力発電(ウィンドファーム)に適した立地が豊富な北海道、東北から電力需要の多い本州都市部への送電線容量の増強は必須である。大規模電力貯蔵システムの拡大送電網強化は、風力発電導入拡大の肝と気づくべきで、電力会社は「再エネ制御」の定常化から早急に脱却する必要がある。

 ところで、2024年1月の能登半島地震により、石川県能登地方で稼働中の73基の風力発電施設全てが運転を停止した。県内の風力発電設備は74基で、うち73基が能登地方(珠洲市30基、輪島市11基、志賀町22基、七尾市10基)にあり、最大出力で合計約13万kWが停止した。
 地震により志賀町富来地域の風車と珠洲第2風力発電所の2基でブレードが折損し、施設を動かす電源が使えない場合も発生した。2月中に稼働を再開したのは、日本海発電が運転する志賀町福浦港の9基にとどまった。新たな風力発電所のリスクの表面化ある。原因究明を行い災害対策を進める必要がある。

洋上風力発電関連事業の拠点化 

 政府は国内の風力発電普及に向けて多額の投資(補助金など)を行ったにも関わらず、事業化の段階では企業の自由競争に任せるスタンスを取り積極的な支援を怠った
 その結果、2020年頃までに先行する欧米に技術力で負けた国内の大手風力発電機メーカーが風車事業から撤退し、気が付けば安価な中国製風車の導入が現実のものとなり始めている。

 今後、風力発電の普及は進むであろうが、国内産業の育成・発展への寄与は残念ながら大きいとは言い難い。日本に残された道は、風力発電所の設置と部品供給導入された風力発電設備のメンテナンスなのか?

●NEDOプロジェクトでは、風車振動を感知するセンサーによる遠隔監視や、設備のメンテナンス時期や部品の交換時期を予測するスマートメンテナンス技術の開発を進めている。
風力発電のメンテナンス作業の人材育成するため、育成プログラムの整備と合わせて日本風力発電協会がメンテナンス能力を評価する資格認証制度を検討している。

 期待されるのは、複数の事業体が日本に拠点工場を設置し、拡大するアジア市場(台湾:1407万kW、韓国:745万kW、ベトナム:691万kW、インド:300万kW)を開拓する大構想である。そのために日本を拠点とするメリットを海外の風力メーカーに明確に示す必要がある。

 トランプ政権により米国で洋上風力に逆風が吹く今が、「日本市場規模の拡大」「税制優遇・補助金」を示す絶好のタイミングである。既に、政府主導で準備は着々と進められているが、海外での成功体験に乏しい建設会社を中心としたEPC事業がアジア市場で通用するのか?あるいは国内市場に留まるのか?

●2025年4月、デンマークのベスタスは、三菱電機や富士電機と風車部品の開発で合意。三菱電機は洋上風力発電所向けに新型の開閉装置を開発し、秋田県の洋上風力事業など国内外で納入される風車に供給する。富士電機は陸上・洋上風力発電設備向けのパワー半導体を開発する。
●2025年6月、経済産業省が風力発電など脱炭素電源拡大に向け、米国GEベルノバと官民協力の枠組みを公表。GEベルノバの工場誘致や、東芝との連携による国内供給網構築を図る。日本企業が協業に参加する場合は補助金制度も検討し、輸入に頼る風車発電設備などの国産化をめざす。
●2025年6月、経済産業省は、シーメンス・ガメサと官民協力の枠組みを公表。海外市場への展開も視野に国内で風車サプライチェーンを構築し、企業間の技術連携を支援して風力発電設備の国産化をめざす。枠組みの一環で、TDKと協力強化の覚書を締結し風車に永久磁石を導入する。
●2025年7月、経済産業省と日本製鉄は、風力発電機の世界大手ベスタスと協力枠組みの覚書を交わす。ベスタスが日本国内で風車の羽根や駆動部分の国内製造を検討する。日本製鉄は風車を支えるタワー向けに鋼材を供給し、経済産業省は補助金など必要な措置を整え、風車関連の国内調達比率を高める。 

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