一般に、化石燃料由来の水素やアンモニアは製造時にCO2を排出するため、政府は将来的にCCSなどでCO2排出量の実質ゼロを確約するなどの条件下で、「ブルー水素」への支援を進めている。短期的にみれば「ブルー水素」の逃げ道を作ったことで、カーボンニュートラルの実現は先延ばしとなる。
イラン戦争による天然ガス価格の高騰は「グレー水素」の高騰に直結し、CCSプロセス分が加算される「ブルー水素」は「グリーン水素」よりも高価格となる可能性が見えた。このイラン戦争を一過性の問題とせずに、水素サプライチェーン全体を見て安定供給可能な水素戦略が必要である。
化石資源由来のグレー水素
グレー水素とは
二次エネルギーである水素の製造方法は、表1のように使用する原材料により化石資源由来と非化石資源由来に大別される。これまで生産されている水素の大部分は化石資源由来で、「グレー水素」(製造コスト:1ドル/kg程度)と呼ばれる。
工業プロセスの副産物として生成する副生水素や、化石資源の改質(水蒸気改質、部分酸化、接触改質など)で製造される。

世界のグレー水素の動向
現在、「グレー水素」は世界で生産される水素の90%以上を占め、製造コストが低いため安価で供給されている。低炭素社会の実現に向けては、「ブルー水素」や「グリーン水素」への転換が必須との共通認識は得られており、低価格対策として「ブルー水素」をクリーンとみなす基準の設定が世界的に進められている。
グレー水素をクリーンとみなす各国の規定:
●2022年1月、EUでは持続可能な経済活動を分類するタクソノミーで、化石燃料の採掘から水素製造・消費までに発生するCO2を7割超減らした水素をクリーンとみなす規則を施行する。➡ブルー水素
●米国は、2021年11月に成立したインフラ法で、水素メーカーへの助成金の基準として、水素製造時のCO2を8割以上減らすことを規定する。➡ブルー水素
●英国では、2021年に化石燃料の採掘~水素製造までに生じるCO2を、85%削減する基準案を政府が提示する。➡ブルー水素
日本におけるグレー水素の製造
2019年5月、エア・ウォーター・エンジニアリングが、天然ガスを主原料とし水蒸気改質による水素ガス発生装置の「VHR」(水素製造能力:100~400Nm3/h)を商品化し、初号機の運転を開始した。水素精製にPVSA(真空再生方式)を採用して高い水素回収率を実現している。
2022年8月、経済産業省は水素とアンモニアを国内外で製造、海外から運搬する供給企業に対して、発電所の燃料として使う石炭や天然ガスなどの化石燃料との差額の一部を補助する制度を期間限定で設け、貯蔵タンクやパイプラインなどのインフラ整備も支援対象とする検討を始める。
2023年4月、中部電力は千代田化工建設と伊勢湾沿岸での水素製造拠点の整備で覚書を締結した。製造時にCO2を出さない「カーボンフリー水素」を、メタンの熱分解により2500トン/年製造する。発電用のほか、自動車や工場の燃料として水素を使う。2020年代後半に実証実験に着手し、生産量を1万トン/年まで高める。
商用化時には5〜10万トン/年の生産をめざす。オーストラリアのヘイザーグループも参加し、同社が独自に開発した生産方法を導入。メタンから水素を高効率で製造し、カーボングラファイトと呼ばれる炭素を同時生産できれば、カーボングラファイトはPEMの電極として使える。 「ターコイズ水素」とも呼ばれている。
研究段階にあるターコイズ水素(Turquoise hydrogen)は「グリーン水素」ではない:
天然ガスの主成分であるメタンを熱分解し、直接に水素と固体炭素を製造する技術で、水素の製造過程においてCO2を直接排出しないクリーンな水素である。しかし、再生可能エネルギー由来ではないため、「ブルー水素」と「グリーン水素」 の中間に位置する新しいカテゴリーの水素である。
2023年4月、出光興産は米国のスタートアップ「Hーサイクル」と連携し、生ごみや廃プラスチックから水素を製造する事業に参入する。200〜300トン/日の都市ごみを熱分解して合成ガスを作り、タールや塩化物などの不純物を除去する。2030年代前半に国内に水素製造プラント建設する。
H―サイクルはプラズマを使ってガスを改質する技術を有し、廃棄物を効率よく水素に変換できる。製造過程で排出されたCO2は地中に貯留することを検討する。商用化に向けては製造コストを下げ、製造過程での消費エネルギーを減らすことが必要である。
2025年11月、東邦ガスは都市ガス配管を通じて搬送したメタンを熱分解して水素を製造し、工場などへ供給するサービスを2030年度までに始める。メタンを分解する過程で副産物となる純度の高いカーボンブラックはタイヤなどの原料として販売し、低コスト化をめざす。
都市ガスを顧客の施設に送る配管の途中に専用の「触媒を使わないメタン熱分解装置」を設け、メタンを1000℃以上で加熱してターコイズ水素と固体炭素に分離する。
ところで、水素の供給コストは標準状態(0℃、1気圧)に換算して100円/N㎥程度と、LNGの10倍近い。また、アンモニアは20円/N㎥程度であるが、石炭の3倍ほどの水準である。この価格差を解消するための支援制度が、英国やドイツで先行して進められている。
一般に、化石燃料由来の水素やアンモニアは製造時にCO2を排出するため、政府は将来的にCCSなどでCO2排出量の実質ゼロを確約するなどの条件下で、「ブルー水素」への支援を進めている。
しかし、イラン戦争による天然ガス価格の高騰は「グレー水素」の高騰に直結し、CCSプロセスの低コスト化を進めても「ブルー水素」は「グリーン水素」よりも高価格となる可能性が出てきた。これを一過性の問題とせず、水素サプライチェーン全体を見て安定供給可能な水素戦略が必要である。

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