世界の水素需要の約3割を占める中国は、強力な政府方針によりFCトラック・FCバスの販売台数が急増し、グリーン水素の大規模製造プロジェクトも稼働を開始しており、世界をけん引している。
水素ブームが若干トーンダウンの欧州であるが、グリーン水素製造の長期的な政策支援は着実に進められ、2026年2月、大手電解装置メーカーがグリーン水素生産の拡大に向け新連合を結成した。
一方、トランプ政権下の米国は水素ハブへの資金拠出が一時停止されグリーン水素製造は失速。IRA(インフレ抑制法)改正案の成立でCCS等の税額控除が継続され、ブルー水素へと移行している。
IEAによるNet Zero by 2050
2021年5月、国際エネルギー機関(IEA)は「Net Zero by 2050 Roadmap for the Global Energy Sector」を公表した。併せて、2050年ネットゼロを達成するNZEシナリオ(Net Zero Emissions by 2050 Scenario)実現のために、水素ベース燃料の生産量予測を示している。
水素ベース燃料の生産量の予測:
■2020年には、8700万トン(グレー水素・化石資源由来:7800万トン、ブルー水素・化石資源由来+CCUS:855万トン、グリーン水素・水電解:45万トン)の実績値であった。
■2030年には、2億1200万トン(化石資源由来:6200万トン、化石資源由来+CCUS:6900万トン、水電解:8100万トン)に増加すると予測。
■2050年には、5億2800万トン(化石資源由来:80万トン、化石資源由来+CCUS:1976万トン、水電解:3224万トン)に増加すると予測。
2020年時点の水素ベース燃料の生産量の約90%はグレー水素(化石資源由来)であるが、2030年に約30%、2050年にほぼ0%をめざすのがIEAの計画である。そのためには、従来の水素製造の主体が化石資源由来のオンサイト生産であるのに対し、水電解装置による商用生産へと移行する必要がある。
一方で、水素ベース燃料の消費は、従来は製油所や一般産業用途に少量が使われていたが、新たに水素やアンモニアによる発電用途、輸送用燃料など、製造業の脱炭素化で需要の激増を予測している。

出典:国際エネルギー機関(IEA)、2021年6月
2023年4月、IEAは製造された水素の「クリーン度」を示す指標を公表する。化石燃料を原料とするグレー水素でも、CO2を分離回収(CCS)すればクリーンとみなす。水素は脱炭素社会の実現には不可欠で、世界共通の基準を設定して企業が投資しやすい環境を整備する狙いである。➡「ブルー水素」の許容
すなわち、IEAは水素製造時に出るCO2排出量を示す基準値を設定し、クリーン度を示す指標とした。1kgの水素製造で出るCO2が7kg(すなわち、7kgCO2/kgH2)を下回ればクリーンとみなせるため、CCSでCO2排出量を7kg未満に抑える必要がある。ただし、指標の順守は義務ではないとしている。➡「ブルー水素」の定義
以上の環境変化から、日本は2023年5月に水素戦略を改定し、当面は天然ガス由来のブルー水素を軸に普及を進めるとした。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、世界が2050年に温暖化ガスの排出の実質ゼロをめざす場合、水素は最終エネルギー需要の12%を占める必要があるとしている。
そのため、現在の日本は水素社会推進法に基づき、既存原燃料との価格差に着目した支援制度や拠点整備、水電解装置・燃料電池の製造能力拡大に向けた投資支援、FCV商用車や大規模水素ステーションの普及拡大の支援を進め、長期脱炭素電源オークションにおける制度対応の検討に取り組んでいる。
2025年7月、経済産業省・資源エネルギー庁は、世界の水素戦略動向について、世界の水素需要の約3割を占める中国は、FCトラック・FCバスの販売台数が急増し、グリーン水素の大規模製造プロジェクトも既に稼働開始済の案件があるなど世界をけん引しており、急速に社会実装が進行中としている。
一方で、水素ブームが若干トーンダウンしている欧州は、グリーン水素製造に向けた長期的な政策支援を着実に進めている。トランプ政権下の米国は水素ハブへの資金拠出が一時停止され失速し、IRA(インフレ抑制法)改正案の成立でCCS等の税額控除が継続されたためブルー水素へと移行している。
ロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻が2022年2月24日に開始され、世界的に原油・天然ガス価格が高騰したことは記憶に新しい。米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃(イラン戦争)が2026年2月28日に開始され、再び原油・天然ガス価格が高騰を始めている。
再エネ由来の「グリーン水素」は高価格のため、当面は安価な化石燃料由来の「グレー水素」で進め、新たにCCSでCO2を分離回収した「ブルー水素」へ移行するとした水素戦略の根底が崩れ始めている。EUとアジアの天然ガス指標価格(TTF・JKM)は短期間で50~100%上昇した。

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