高市政権の新たな成長戦略(Ⅱ)

はじめに

 内閣府が主導する日本成長戦略会議で「17の戦略分野」の危機管理投資・成長投資の検討を加速させるため、戦略分野分科会(分科会長:内閣官房副長官)が設置され、2026年1月から活動が進められている。当初、GXは”資源・エネルギー安全保障・GX”と成長戦略の一部に位置付けられたが、、、、、

戦略分野分科会でのロードマップ策定

 2026年4月、「戦略分野分科会」が開催され、官民で先行して集中投資する17分野の61製品・技術を選定し、うち34件の「官民投資ロードマップ(工程表)」を公表し、目標を設定した。
自動運転技術は2030年までに国内で1万台導入し、2030年代に販売台数で25%の世界シェアを獲得する。
■バーティカル(領域特化型)AIは、2030年に世界で5兆円の市場を獲得する。
■クラウド・データセンターは、2030年までに国内市場を12兆円に拡大する。
■量子通信・ネットワークは、2035年までに世界シェア3割を達成する。
■AI利用拡大で、海底ケーブルの世界シェアを現在の20%から2030年までに35%へ高める
■革新的デバイスを活用した先端医療では、2040年までに28兆円の市場を獲得する。
■食品機械を2040年までに売上高を3兆円に引き上げる。
■洋上風力を2040年までに国内調達率を65%に引き上げる。
■海賊版撲滅で流通を拡大し、2033年の海外売上高をアニメは6兆円、マンガは1兆円とする。等々

 2026年5月、政府は、地域ごとに成長産業の集積地を作る「戦略産業クラスター計画」を公表。全国10ブロックに戦略17分野の拠点を配して経済成長と地方活性化につなげ、インフラ整備や人材育成を国が支援する。都道府県知事主導の「地域産業クラスター計画」と合わせ、「地域未来戦略」として夏に正式決定する。
 素案では、それぞれの地域色を踏まえて重点分野が割り振られた。北海道はAI・半導体東北は洋上風力関東は航空北陸は材料近畿は空モビリティ・宇宙中部は水素・アンモニア、中国はコンビナートのGX、四国は造船の再生九州は半導体と防災沖縄は医療・バイオで大規模投資を実施する。

 2026年5月、海洋政策は、従来の防衛利用の官需中心から民需にもつなげるため、「海洋ドローン」、「海洋状況把握(MDA)」、「革新的海底開発技術・システム」を3本柱と位置付け政策パッケージにまとめた。
 海洋ドローンは海中用の自律型無人探査機や海上航行する無人船などの総称で、水中充電や水中通信の技術開発を加速し、2030年前半までに東南アジア輸出などで世界市場3割のシェア獲得を目標に掲げる。
 レアメタルを含む鉱物資源「マンガン団塊」は、2029年度に実証実験を行い、2030年代前半にも商業生産を始める。南鳥島沖(東京都)のレアアース開発も進める。 

 2026年6月、政府が近く公表する成長戦略に向け、官民で重点投資する17分野62製品・技術が選ばれる。
■AI時代の基盤となるデータセンターなどへの投資は2035年度までに30兆円超を見込む。国内生産の半導体の売上高を2040年に40兆円まで増やす目標を掲げ、最先端半導体の研究・開発拠点を整備する。
■日本のアニメや映画といったコンテンツ産業を、2033年までに海外売上高を年間20兆円に引き上げる。自動車の輸出額に匹敵する基幹産業と位置づけて支援する。ゲームには2033年度までに25兆円の投資を行う。
■食料安全保障から、フードテックについては2040年度までに植物工場に4.6兆円を投じる。

 2026年6月、政府は、AIを使う新素材開発に取り組む産官学連携拠点を2028年度に設置する。2028年度に物質・材料研究機構産業技術総合研究所を中心に、「AIを用いた素材開発拠点」を設置し、2年以内に本格運用する。企業は資金を拠出して運営に参画し、大学も実験データ提供などで連携する。
 ターゲットは、自動車分野、半導体、資源エネルギー、核融合発電など「戦略17分野」に関連する新素材で、レアアースやナフサなど輸入に依存する物資を使わない代替素材の開発も進める。AIを利用した新素材開発は米国家プロジェクト「ジェネシス・ミッション」でも対象で、日本は初の国際パートナーとして参画する。

 2026年6月、政府は経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会議で、新たな成長戦略に向けた「官民投資ロードマップ(工程表)」を提示した。戦略17分野で国内企業が強みを持つ62製品・技術を選定し、2040年度までの15年間に累計370兆円超の官民投資を行うと発表。LNG運搬船が新たに追加された。
 関連企業や業界団体から設備投資計画を聞き、市場動向の推計などを加味して金額を積み上げた。政府は2027年度当初予算案から「強く豊かな日本投資枠」を創設し、戦略17分野へ優先的に歳出を確保する。

 2026年6月、政府は、2027年度予算案の編成で特別枠「強く豊かな日本投資枠」を創設する。各省庁からの概算要求に上限を設けずに複数年度の計画に基づき確保し、従来の補正予算依存から脱却を図る。
 2025年度に補正予算の一般会計で18.3兆円を計上しており、戦略17分野への投資や地方活性化の「地域未来戦略」に基づき、民間設備投資や潜在成長率への効果が高い成長投資を対象に、特別枠で予算を追加計上する。国債発行額は財政健全化を示す指標の債務残高対GDP比が下がる範囲で調整する。
 一方、経済安全保障上重要な分野への危機管理投資は、脱炭素政策などで活用した枠組みを想定し、複数年度で財源を確保して特別会計の別枠で管理する。GX分野では企業から将来徴収する賦課金などを財源とした上で償還財源のある「つなぎ国債」を発行し、特別会計でも十分な予算規模を確保する。

 2026年6月、政府は、経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会議で、新たな成長戦略に向けた「官民投資ロードマップ」を示した。経済産業省の資料によると、研究開発や設備投資に振り向ける金額が企業の売上高に占める割合は米国の11%程度、EU圏の9%程度に比べ、日本は7%程度と低い。
 この方針は、日本企業が保有する約600兆円規模の内部留保分を成長分野への官民投資へと誘導する試みであり、新たな政策的実験と解釈することができる。

表4 戦略17分野と主要な技術・製品への官民投資額   出典:日本経済新聞

2040年度までの15年間に累計370兆円超の官民投資を行うことの問題点: 
■戦略17分野で国内企業が強みを持つ62製品・技術を選定したが、この選択は広すぎないか?現在の国内企業が持つ強みは、未来の競争力を保証するものではない。未来に伸びる技術は?
専門性の異なる戦略17分野の産業体を見通して制御し、世界レベルで見て十分な投資が可能であろうか?投資の基本は総花的でなく、投資効果の高い分野への集中投資ではないか?。
首相主導での戦略投資を、概算要求の上限なし複数年度で確保すると、結果的に特別枠が巨大化し、財政規律が大きく損なわれる可能性が出てくる。リスク回避策はあるのか?

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