クリーン水素はイラン戦争でどうなる(Ⅲ)

はじめに

 国際エネルギー機関(IEA)の試算では、天然ガスから製造するグレー水素のコストは0.5~1.7ドル/kgブルー水素のコストは1~2ドル/kgグリーン水素のコストは3~8ドル/kgと報告している。
 今後の技術の進歩により、再エネ由来のグリーン水素のコストは確実に下がる傾向を示す。一方で、天然ガスから製造するグレー水素とCCS技術のプラスにより割高となるブルー水素のコストは、いずれも天然ガス価格の変動の影響を受ける。長期的にみればグリーン水素を地道に追及することが必要である。

CCSでCO2を回収するブルー水素

ブルー水素とは

 ブルー水素とは、天然ガスや石炭などの化石燃料から水素を製造する際に発生するCO2を回収・貯留(CCS)することで、CO2排出量を実質ゼロとした水素である。現在、「グレー水素」から「グリーン水素」への移行期におけるクリーンエネルギーと位置付けられて活用が期待されている。

 グレー水素の製造過程で出るCO2を除去したものはブルー水素(製造コスト:2ドル/kg以下)と呼ばれ、日本では本命視しているが、発生するCO2を回収・貯留(CCS)するためグレー水素よりも高価になることは間違いない。また、クリーンとみなす基準を欧米では厳しく設定しており、さらに割高感は高まる。

 「ブルー水素」と製造工程で全くCO2を発生しない「グリーン水素」とは、明らかに区別されるべきものである。ブルー水素はCO2の削減技術や収集率によって実質的なCO2排出量が異なるため、広義の意味の「クリーン水素(低炭素水素)」などに含まれるか否かは、各国が定めるCO2排出量の基準値により異なる。

 2023年11月の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)において、国際標準化機構(ISO)が水素製造から消費に至るまでのバリューチェーンにおける温室効果ガス(GHG)排出量を評価する方法論「ISO/TS 19870:2023」を発表した。
 各国はこの方法論でCO2排出量の基準値を定めている。日本は2023年6月改訂の水素基本戦略で初めて低炭素水素の基準値を3.4kgCO2/kgH2と設定した。グレー水素は11.4kgCO2/kgH2であり、ブルー水素であるためにはCCSによりCO28kgCO2/kgH2(約70%削減する必要がある。
 EUタクソノミーの基準値は3.0、英国の基準値は2.4であり、日本よりも厳しい基準値を採用している。

 ところで、IEAが水素の様々な製造方法ごとにCO2排出量レベルを算定し、A~Iまでの9段階にグループ化している。日本の基準値3.4kgCO2/kgH2はGグループであり、欧州・英国はより厳しいFグループである。
 しかし、「ブルー水素」を低炭素水素として許容するために、CCSで93%の高いCO2回収率を想定している点に注意する必要がある。また、現状(2021年時点)では、石炭よりも天然ガスのCO2排出量レベルが高い

 これは空気の比重を1とした場合の天然ガスの比重は0.56〜0.6と軽く漏れ出た天然ガス(主成分:メタン)の100年間の地球温暖化係数(GWP)はCO2の約27倍と高いことが原因している。天然ガスの燃焼時のCO2排出量は石炭の約6割、石油の約7割と少ないが、未燃焼の天然ガス漏出は強い温室効果をもたらす。

 IEAのシナリオ実現のためには、2030年に向けて石炭や天然ガスを改質して水素を製造し、CCSで93%の高いCO2回収率を実現する必要がある。そのためには水素製造から消費に至るまで上流側でのCO2排出量や天然ガス漏洩量の削減が必須となるが、いずれの対策も間違いなくコストアップ要因となる。

図2 水素製造におけるCO2排出量レベルの例  出典:自然エネルギー財団

世界のブルー水素の動向 

 2024年10月、投資計画の発表によると米国でのブルー水素プロジェクトが最も進んでおり、2030年時点のブルー水素生産量は560万トン/年が見込まれる。IAEの見通し(GHR2023)と比較すると3割増である。
 欧州のブルー水素生産が続き、2030年時点で350万トン/年が見込まれている。EU主要国の多くでは、ブルー水素は将来的なグリーン水素導入を支える補完と位置付けている。

 2025年3月、英国の水素戦略では、グリーン水素とブルー水素の両方を長期的なエネルギー源として捉えている。スコットランドやイングランド北東部で回収したCO2を北海沖に貯蔵できるためで、実際にCCUSと連動した大規模なブルー水素製造プロジェクトが進められている。
 IEAは、欧州のブルー水素製造プロジェクトは英国、オランダ、ノルウェーに見られ、いずれもCO2の地下貯留に大きな可能性を秘めた国としている。

 2025年10月、欧州連合(EU)の議会は、欧州委員会が7月に提案していた低炭素水素に関する委任規則案を容認すると決議した。これにより、温室効果ガス(GHG)排出量の削減幅が化石燃料と比べて70%以上であれば、再生可能エネルギー電力を使用せずとも低炭素水素の指定を受けられる。

日本におけるブルー水素の製造

 水蒸気改質ではニッケル系触媒が用いられるが700℃以上の高温が必要で、放出されるCO2を削減することが課題である。JXTGエネルギー(現ENEOS)は独自の分離膜技術で石油精製過程で発生するCO2を分離して100%に近い高純度水素を生産する技術であるブルー水素製造技術を開発する。
 また、水素サプライチェーン構築の一環で、千代田化工建設や川崎重工業は化石燃料の改質による水素製造過程で発生するCO2を炭酸ガス回収・貯留(CCS)技術で除去する技術を開発している。

 2021年9月、三菱商事はCCSやEOR事業を担う米国デンブリーと提携し、メキシコ湾岸で100万トン/年の燃料アンモニア(ブルーアンモニア)を製造する施設を建設。回収されたCO2の一部はEORに使われる。

 2022年7月、三井物産は米国CF Industriesとメキシコ湾岸で100万トン超/年規模のブルーアンモニア製造プラントの共同開発契約を締結した。CCUSにより、通常のアンモニア製造に比べてCO2を60%以上削減する計画で、2023年の最終投資決定を予定する。

 2022年11月、INPEXは新潟県南長岡ガス田からパイプライン搬送した天然ガスからの水素製造を発表。CO2を東柏崎ガス田に圧入(EOR)し、ブルー水素(700トン/年)の国内初製造をめざす。
 ブルー水素600トン/年を水素発電(出力:1000kW)に使い、電力会社に売電する。残りの水素でブルーアンモニア500トン/年を製造する。2025年8月から供給開始の計画で、NEDOが総事業費100億円規模の半分を補助し、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)も支援する。

 2025年7月、エア・ウォーター・グリーンデザインは、千葉県産天然ガスの開発・生産事業を展開する関東天然瓦斯開発と合弁会社エア・ウォーターK&Oを設立。千葉県茂原市に低炭素水素の製造拠点を2027年度の操業をめざす。自社装置「VHR」とCO₂回収装置を新設し、回収したCO2はドライアイス原料とする。

 2025年11月、INPEXは、新潟県柏崎市でブルー水素・アンモニア実証試験プラント、柏崎水素発電所、平井ガス採収所等の実証設備の建設を進めてきたが、一連の設備を総称し「柏崎水素パーク」として開所した。

 2026年6月、INPEXは2025年に開所した実証拠点「柏崎水素パーク」で、水素発電による電力販売を6月中にも始める。新潟県で採掘した国産天然ガスを施設まで導管でつなぎ、フランスのエア・リキードの技術でグレー水素に改質し、水素製造時のCO2は回収して隣接する東柏崎ガス田跡の地下約2500mに貯留する。
 年700トン製造し、うち600トンは発電用で、ドイツ2Gが手掛ける水素ガスエンジン(出力:1000kW)を導入する。残り年100トン分は、独自のアンモニア合成技術を持つ「つばめBHB」と組み、出荷開始は7月以降の見通し。主な設備設計は日揮ホールディングスなどと連携し、NEDOからの補助を受ける。 

 国際エネルギー機関(IEA)の試算では、天然ガスから製造するグレー水素のコストは0.5~1.7ドル/kgブルー水素のコストは1~2ドル/kgグリーン水素のコストは3~8ドル/kgと報告している。
 今後の技術の進歩により、再エネ由来のグリーン水素のコストは下がる傾向にある。一方で、天然ガスから製造するグレー水素とCCS技術のプラスにより割高となるブルー水素のコストは、いずれも天然ガス価格の変動の影響を受ける。長期的にみればグリーン水素を地道に追及することが必要である。

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