重機分野の脱炭素化(Ⅴ)

重機

 建機を中心にバイオ燃料を利用する動きが拡大している。CO2削減の本命は電動式水素エンジン式であるが、現状、価格がディーゼルエンジン機の3~4倍以上と高く、燃料供給にも課題がある。
 未だバイオディーゼル燃料は軽油より高価であるが、ドロップイン型でエンジン改造の必要がなく、また燃料充填に際して特別な設備を必要としない点が注目されている。

バイオ燃料式 

 2022年12月、戸田建設、高純度バイオディーゼル燃料事業者連合会、未来樹みらいじゅ、アクティオは、バイオディーゼル燃料を軽油に30%混合したB30燃料を建設機械に使用する実証実験を行うと発表。
 建設機械メーカーはB100燃料の利用を想定しておらず、機械保証の範囲外となるため、その利用が普及していない。まずはB30燃料を建設機械に使用する実証実験を行い、エンジンに与える影響を検証するのが狙いである。

 2023年2月、鴻池組は、富士興産、日立建機日本、建設技術研究所、高純度バイオディーゼル燃料事業者連合会と協力し、B30燃料を大型造成現場の建設機械の燃料として使用する実証実験を開始する。 
 鴻池組は、京都府船井郡京丹波町で施工中の京都環境保全公社の「瑞穂環境保全センター第三期保全計画埋立地工事」で、2023年4月~2024年3月まで実証実験を実施する予定。

 2023年4月、東急建設は、三和エナジーのバイオディーゼル燃料(B100 )を東京都内の土木施工現場の発電機に使用した。2022 年 8 月にアクティオがレンタルを開始したバイオディーゼル専用発電機で、建設現場への B100 導入を順次拡大していくと発表した。
 B100 は日本建設業連合会が施工段階のCO2 削減方策として、「建設業における軽油代替燃料利用ガイドライン」に記載されている環境配慮型の燃料で、アクティオが 発電機での燃焼実験を 2 年間実施した結果、問題が発生しなかったことを事前に確認している。

 2023年4月、小松製作所と欧州コマツ(KEISA)は、欧州地域の工場で生産される建設・鉱山機械の出荷時の充填燃料を、ディーゼル燃料からバイオディーゼル燃料(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil 、水素化植物油)に順次切り替えると発表した。
 4月中旬から、欧州でのホイールローダーホイールショベルの主力工場であるコマツドイツ建機部門(KGC)でHVO燃料への切り替えが開始され、英国コマツなど、順次、他の欧州地域の生産工場でも切り替えを進める。建設・鉱山機械からのCO₂排出量を、最大90%低減することが可能としている。

 酒井重工業もロードローラーなどでバイオ燃料の使用を計画しており、工場のあるインドネシアで、近隣で採集される安価なパーム油を原料としたバイオデォーゼル燃料の実証実験を検討している。

 2023年6月、住友重機械建機クレーンが製造する350トン吊クローラクレーン「SCX3500-3」が、東急建設が施工する川崎市内の工事で、伊藤忠エネクスの次世代型バイオ燃料であるリニューアブルディーゼル(RD)を使用して運転を開始した。
  RDは廃食油や動植物油を原料として製造されたドロップイン型燃料で、従来の酸化し易いバイオディーゼル燃料を改良したHVO燃料であり、CO₂排出量を最大90%低減することが可能としている

図9 350トン吊クローラクレーン「SCX3500-3」 
出典:住友重機械建機クレーン

重機電動化の課題とは

 電動重機の普及の可否は低コスト化にある蓄電池方式の電動重機に搭載するリチウムイオン電池は大量で、電動重機の価格は、数千万円するディーゼル・エンジン機の3~4倍以上にもなる。環境先進国の欧州では、補助金などで費用負担をある程度軽減できるが、割高感は明らかである。
 今後、蓄電池方式の重機の電動化は、リチウムイオン電池の高性能化と低コスト化が鍵であり、自動車用蓄電池の開発動向を見極めながら進められる。

 重機メーカーは低コスト化にも取り組むが、電動化だけでは他社との差異化が難しい。そのため、遠隔操作などを可能にする情報通信技術(ICT)や自動運転など付加価値の高い機能も加えることで差異化を図る必要がある。

 現在、20トン以上の中大型重機は燃料電池方式が主流になると予想して実用化開発が進められているが、並行して水素エンジン方式の開発も進められている。重機の使用環境は極めて過酷な場合が想定されるため、コスト比較を進めて両技術の見極めを行う必要がある。

 一方で、中大型重機ではバイオ燃料方式が急速に注目を集めている。使用するバイオディーゼル燃料は軽油より高価であるが、エンジンの改造の必要はなく、また燃料充填に際して特別な設備を必要としない。そのため、ユーザーには初期投資を抑えられる利点がある。

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