日本における原発回帰の動き(Ⅰ)

原子力

 2026年2月、経済産業省は第12回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループにおいて、「次世代革新炉開発ロードマップ(案)」を提示し、2040年以降の運転開始をめざすことを公表した。ロードマップ作成に至った過去の道筋を振り返ってみよう。

国内原発政策の方針転換の始まり

 それは2022年7月、岸田政権が今夏の電力需要ひっ迫を契機として、突然に原発稼働の方針を打ち出したことに始まる。その後、従来の原発政策を一転させて原発の再稼働の加速、新増設や建て替え、次世代革新炉開発の検討を次々に表明した。

電力需要ひっ迫と原発の再稼働

 2022年7月14日、電力需要ひっ迫に備え、岸田首相は記者会見で「私から経済産業相に対しできる限り多くの原発、この冬でいえば最大9基の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保するように指示した」と述べた。
 最大9基の稼働とは、定期検査などで停止している関西電力美浜原発3号機と大飯原発4号機、高浜原発3、4号機、九州電力玄海原発3号機の5基既に稼働中の関西電力大飯原発3号機、四国電力伊方原発3号機、九州電力川内原発1、2号機の4基を合わせたもので、再稼働を加速する発言ではなかった。

 2022年8月12日、第2次岸田内閣の経済産業相が、今冬に向けて「原発最大9基の稼働を確保できるよう着実に取り組む」に加え、来夏以降に向け「原発の更なる再稼働が重要」との認識を示し、再稼働の地元同意には「国も前面に立って理解と協力を得られるよう粘り強く取り組む」と発言した。
 小型モジュール炉(SMR)などの次世代原発のあり方にも言及し、「研究開発、人材育成、原子力サプライチェーンの維持強化など将来への取り組みも進めたい」と述べた。一方で、新増設は「想定していない」と従来の政府方針を引き継いだ

 2022年8月24日、化石燃料中心の経済・社会と産業構造を、クリーンエネルギー中心に移行させるGX(グリーントランスフォーメーション)の施策検討を第2回GX実行会議(議長:岸田首相)で始めた。
 会議では、「日本のエネルギーの安定供給の再構築」について原子力政策の今後の進め方などの説明が行われ、これについて有知識者から意見が出された。
 岸田首相は第2回GX会議で「これまでに再稼働した原発10基に加え、来夏以降に追加で7基の再稼働を進める方針」を表明する。この時点で原発推進に政府方針が切り替わったのである。
 また、原発の新増設や建て替え次世代革新炉の開発も年末までに具体的な結論を出すよう検討の加速を指示し、原則40年、最長60年としてきた原発の運転期間の延長も検討するとした。

図1 GX会議で示された原子力政策の今後の進め方
出典:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai2/siryou1.pdf

第2回GX実行会議における岸田首相の原子力政策関連の発言 
 電力需給のひっ迫という足元の危機克服のため、今年の冬のみならず今後数年間を見据えてあらゆる施策を総動員し不測の事態にも備えて万全を期していきます。特に、原子力発電所については、再稼働済み10基の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります。
 GXを進める上でも、エネルギー政策の遅滞の解消は急務です。本日、再エネの導入拡大に向けて、思い切った系統整備の加速、定置用蓄電池の導入加速や洋上風力等電源の推進など、政治の決断が必要な項目が示されました。併せて、原子力についても、再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示されました。
 これらの中には、実現に時間を要するものも含まれますが、再エネや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギーです。これらを将来にわたる選択肢として強化するための制度的な枠組、国民理解を更に深めるための関係者の尽力の在り方など、あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう、与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください。

2022年6月の電力需要ひっ迫の原因は何か?

 翌日(2022年8月25日)、今夏に起きた電力需要ひっ迫の原因について、経済産業省の第30回総合資源エネルギー調査会電力・ガス分科会原子力小委員会が開催され、図2の資料が提出された。

図2 6月27日から6月30日の東京電力管内を中心とする電力需要のひっ迫について

 すなわち、6月にしては異例の暑さ(異常気象)となり電力需要が増大し、6月27日には5254万kWを記録した。過去10年間の6月の最大需要電力の4727万kWを1割以上も上回る異例の高水準であった。
 一方、この6月には夏の電力需要期(7,8月)に向けて、多くの火力発電所が補修点検のため停止していた。今回、電力ひっ迫注意報を発令した6月には2000万kW弱の補修計画が進められていた。

 電力需要の高まる夏季(7、8、9月)に備えて、補修点検を端境期(4、5、6月)に集中実施するのは定例であるが、今夏は早くも6月に異例の暑さが到来したのである。近年は異常気象が頻発する傾向にあり、異常事態に対応できる仕組みを作っておく必要が痛感される。

 電力会社は、①運転中の火力発電所や自家発電所の出力増加、②補修点検中の発電所の再稼働、③東北エリアや中部エリアからの電力融通を実施した。しかし、これらの施策では十分でないと判断し、国による東京エリアへの電力需給ひっ迫注意報の発令(6月26日~6月30日まで継続)に至った。

 その後、休止火力発電所の運転再開等により、7月の東京エリアを含む東北から九州エリア全域の予備率は3.7%に改善された。(最低限必要な予備率は3%とされる)

 2022年6月の電力需要ひっ迫の原因は、異常気象による電力需要の増大と、多くの火力発電所が補修点検のため停止していたことにある。原発の再稼働とは全く無関係の事象であったが、政府は国民に原発の再稼働が必要であることを意識付けるために強引に結びつけた。

電力需要ひっ迫の本当の原因

  2022年8月、今夏は異常気象による気温上昇と、たまたま補修点検による火力発電所の停止時期が重なったのが電力需要ひっ迫の原因とされたが、本当の原因は、太陽光発電や風力発電など出力変動の大きい再生可能エネルギーの急増があげられる。 
 出力変動が大きい再生可能エネルギーの急増に対し、その出力変動分を主に火力発電によって調整していたためで、この時点では政府は再生可能エネルギーの急増の問題には触れていない。

 出力変動が大きい再エネ導入に際しては、電力貯蔵システムの導入系統連系のための送電網拡充が不可欠である。この対策を政府は怠り、既存の火力発電と揚水発電による出力変動調整を行い、オーバーフローした再生可能エネルギーを電力会社は買い取らない「出力抑制」で対応していた。

 再生可能エネルギーが急増した分だけ出力変動調整用の火力発電を必要とする矛盾が、電力需要ひっ迫を引き起こしたのである。定格出力で高い効率を出すよう設計された火力発電機器を使って、低効率となる出力変動運転や出番待ちの待機運転を行う現状から、早急に脱する必要があった。

 しかし、発電した再生可能エネルギーを捨てる「出力抑制」は、2018年度に再エネ導入率の高い九州電力で始まり、2023年度には東京電力HDを除く大手電力会社で実施され、2025年度には全電力会社において「出力制御」が常態化する事態に追い込まれた。

 政府が重い腰を上げたのは、「2022年1月の電気事業法改正による大規模系統用蓄電池の普及支援」と、「2023年2月の揚水発電所の維持・更新の支援」である。しかし、あまりに遅すぎた。

 では「原発再稼働」は電力需要ひっ迫対策となるのか?答えは「NO」である。
 現状の原発は出力変動対応が苦手であり、火力発電のように再エネの出力変動対策に直接使うことはできない。原子力の増設だけでは調整力が不足するのは明らかである。
 出力変動の激しい太陽光発電や風力発電の導入・拡大のためには、遅れている電力貯蔵システムや電力会社間での需給調整のための送電網の拡充を並行して進める必要がある。再生可能エネルギーにきちんと向かい合う姿勢が見えてこない。

将来の電力安定供給の対策は?

 電力需要のひっ迫は、年間を通して数日、あるいは一日を通して数時間の単位で起きる問題である。このピーク需要に合わせて全発電設備を整えると、年間あるいは一日を通して休止する発電設備が増えるため得策ではない。

 これまで、電力需要の変化は主に火力発電の出力変動で対応してきた。また、出力変動の苦手な原子力発電や大型石炭火力発電については一定出力で運転し、需要の少ない夜間に揚水発電を使って蓄電を行い、昼間のピーク需要対策に使われてきた。

 遅ればせながら、政府は「2022年1月の電気事業法改正による大規模系統用蓄電池の普及支援」と「2023年2月の揚水発電所の維持・更新の支援」を始めたが、再生可能エネルギーの急増により、現有の電力貯蔵システムである揚水発電だけでは十分に対処できないのが現状である。

 一方、2020年7月、経済産業省は石炭火力発電所140基を対象に、非効率発電所のうち100基程度を2030年までに段階的に休廃止する考えを示した。これはカーボンニュートラルをめざす一環である。
 この方針は明らかに電力需要のひっ迫を助長するため、政府はますます「既存原発の再稼働」を加速せざるを得ない状況に追い込まれた。

図3 一日の電力需要の変化に対応した電源の組合せの従来例

 ところで、電力ひっ迫に対する直近の対策として、電力需要者側が保有するエネルギーリソースを使い電力会社の供給状況に応じて、節電(下げDR)などの電力調整を行うことで対価を得るデマンド・レスポンス(DR:Demand Response)の仕組みが有効とされている。

図4 デマンド・レスポンスの種類

 東京電力管内ではエネルックス・ジャパンエナジープールジャパンなどがDR事業を展開している。電力ひっ迫時に節電要請が出された時に、蓄電池を使って対価に応じて電力調整を行う事業である。
 最近になり系統用蓄電池を導入する企業が増えているが、未だ十分なレベルには達していない

 一方、デマンド・レスポンス(DR)はピーク需要対策として有効であるが、その延長上には仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)の概念がある。
 この仮想発電所(VPP)は、需要家側が保有するエネルギーリソース、太陽光発電などの発電設備、電気自動車などの小型蓄電設備を統合して制御し、発電所と同等の機能を提供するシステムである。2016年頃から、国内電力会社を始め多くの企業により実証試験が行われたが、実用化はまだ先である。

 将来的に、大電力消費を必要とする半導体製造工場やデータセンターを抱える企業は、GX推進のために大手電力会社からの買電を可能な限り下げ、自社で再生可能エネルギー電源と電力貯蔵違システムを保有し、仮想発電所(VPP)の構築をめざすことが期待される。
 将来の電力需要増大に対して、政府は電力会社に100%依存する現在の「電力需要のひっ迫対策」から抜け出すことを考える必要がある。

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