現行のジルカロイ被覆燃料棒に比べて耐熱性に優れた事故耐性燃料(ATF)は、水素爆発や炉心溶融など過酷事故の発生・拡大を抑える効果が期待できる。そのため、既に米国では商用炉を用いた照射試験が行われており、中国、ロシア、フランス、韓国なども開発に乗り出している。
短期的なATF概念として、燃料被覆管に「Crコーティング・ジルカロイ」、燃料ペレットに「酸化物ドープ・ウラニア」、長期的なATF概念として、燃料被覆管に「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」、「SiC/SiC複合材料」、燃料ペレットに「窒化ウラン(UN)」、「ケイ化ウラン(U3Si2)」があげられている。
海外におけるATFの開発動向
2024年12月には、東京大学および日本原子力研究開発機構(JAEA)主催の「事故耐性燃料開発に関するワークショップ」が開催され、世界各国で開発されているATF概念が紹介された。(Simone Massara, Technical Meeting on the Licensing of Advanced Nuclear Fuels for Water Cooled Reactors, October 2021)
短期的なATF概念として、燃料被覆管に「Crコーティング・ジルカロイ」、燃料ペレットに「酸化物ドープ・ウラニア」、長期的なATF概念として、燃料被覆管に「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」、「SiC/SiC複合材料」、燃料ペレットに「窒化ウラン(UN)」、「ケイ化ウラン(U3Si2)」があげられている。

先行する米国のATF開発動向
2024年6月、米国原子力規制委員会(US NRC)では、短期的なATF概念として燃料被覆管に「Crコーティング・ジルカロイ」、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」、燃料ペレットに「酸化物ドープ・ウラニア」をあげて発電コストを低減するために、燃料の濃縮度と燃焼の増加が検討されている。
長期的なATF概念として産業界が提案するのは、燃料被覆管に「SiC/SiC複合材料」、燃料ペレットに「窒化ウラン(UN)」、「押し出し金属燃料」などをあげているが、NRCでの安全性評価のためには新たにデータ収集を行う必要があり、実装は何年も先のこととしている。
■「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」は、過去40年間ジルカロイの代替材料として、オークリッジ国立研究所とGlobal Nuclear Fuel–Americasにより開発されてきた。通常運転時の腐食性能向上と高温水蒸気酸化の改善が期待され、米国の発電用原子炉に挿荷されて照射試験が行われている。
■「SiC/SiC複合材料」は、SiC繊維の織物にSiCを含浸させてチューブを製造する技術が、Framatome、Westinghouse、General Atomicsにより開発されてきた。耐熱性(昇華温度:2545℃)が極めて高く、高温水蒸気酸化の改善が期待される。製造面ではSiCチューブの端部封止が開発課題である。
■「窒化ウラン(UN)」は、Westinghouseとアイダホ国立研究所が開発しており、ウラン密度の増加による高出力化、高熱伝導率による燃料中心温度の低下が期待される。もともと、「ケイ化ウラン(U3Si2)」の開発を進めていたが、出力増加に適さないとして窒化ウランに方針転換した。
■「押し出し金属燃料」は、Lightbridgeによりジルカロイ被覆管内にジルコニウム-ウラン母相の押し出し金属を組み込む新燃料が開発されてきた。高出力化、高熱伝導率による燃料中心温度の低下、放射性物質の保持性能の向上が期待されるが、ウラン密度が低いため最大19.8%のU-235濃縮が必要となる。

2024年2月、米国GEベルノバは、傘下のグローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)が、ATF開発プログラムで実施した成果として、ウラン235の濃縮度8%までの燃料製造、輸送、挙動解析でNRCから認可を取得した。
現在、運転中の商業炉では濃縮度約4.8%までの低濃縮ウランが使用されている。濃縮度10%までの高濃縮度燃料(LEU+)では、既設原子炉の他、先進炉や小型モジュール炉(SMR)を含む次世代原子炉で、出力増強等による経済性向上が期待できる。
2024年7月、米国General Atomics Electromagnetic Systems(GA-EMS)は、米国エネルギー省(DOE)と契約して、PWR用に設計されたATF燃料被覆管「SiC/SiC複合材料」の製造技術を開発したと発表。
化学気相浸透法(CVI)による「SiGA®クラッディング技術」では、6インチ(約15cm)から3フィート(約91cm)の短い長さの試験体で特性評価を実施した後に、高さ10mの大型CVI装置により、12フィート(約3.66m)の長さのATF燃料被覆管の製造プロセス開発を進めてきた。

2024年8月、米ウェスチングハウスは、米原子力規制委員会(NRC)からATFであるEncore燃料の燃焼度制限引上げの承認を取得した。米国のPWRは現在18か月サイクルで運転されており、この高燃焼度燃料によって供給バッチサイズを小さくすることが可能で、燃料サイクルの経済性が改善される。
米国で初めて62,000MWd/tの燃焼度制限を超えた燃料装荷が可能となり、将来的には24か月サイクル運転が期待される。Encore燃料のSiC被覆管は融点が極めて高く(2,800℃以上)、水との反応が少ないため過酷事故条件下で画期的な安全性を発揮する。
2024年10月、仏フラマトムは、同社の改良型事故耐性燃料(Enhanced Accident Tolerant Fuel: E-ATF)を使用した燃料集合体(LFA)が、米国A.W.ボーグル原子力発電所の2号機(PWR、122.9万kWe)で18か月間の運転サイクルの最終の3回目を完了し、優れた性能を示したと公表した。
LFAは、米国エネルギー省(DOE)の資金援助を受け、ワシントン州リッチランドにあるフラマトムの燃料製造施設でPWR用に製造された。同社製の最新鋭ジルカロイ合金製被覆管「M5」に先進的なクロムコーティングを施し、クロミア添加燃料ペレットを使用した4本の先行試験用の燃料棒が含まれる。
2024年12月、米国General Atomics(GA)は、アイダホ国立研究所(INL)でATF燃料被覆管「SiC/SiC複合材料」の非燃料サンプルで、初のPWR環境での放射線照射試験を完了した。耐熱性に優れた「SiGA®クラッディング」は、完全SiC接合プロセスで端部封止され、動作温度サイクルで優れた安定性が確認されている。
INLの先進試験炉では120日間の照射サイクル試験を完了し、試験に供した無燃料SiGA®ロッドレットのセットに構造的損傷、気密性、大幅な質量変化などの初期劣化は認められなかった。今後、追加の照射試験がINL、オークリッジ国立研究所(ORNL)、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究用原子炉で行われる。
GAでは無燃料の他、非ウラン燃料、ウラン燃料のSiGA®ロッドレットの照射実験も、INL、ORNL、MITの研究用原子炉で進めている。今後、全長12フィートのSiGA®ロッドレットの照射実験を商業用原子炉で行い、原子力規制委員会(NRC)のライセンス取得をめざす。2030年半ばの原子力艦隊への適用を念頭に置いている。
EUにおけるATF研究開発
2017年10月~2023年12月、欧州連合が資金提供する「HORIZON 2020」プログラムの「 IL TROVATORE)」プロジェクトにおいてATF研究開発が進められた。現有の軽水炉で使用するためのATF被覆管材料を特定し、放射線照射を伴うPWR環境での実用性を検証するのが目的である。
プロジェクトでは燃料被覆管「SiC/SiC複合材料」、「コーティング・ジルカロイ」、「表面改質ジルカロイ」、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」の開発が進められた。
特徴的は、ジルカロイのコーティングに3元素系の窒化物・炭化物(MAX相)、ドープされた酸化物、工業用Crコーティング、表面改質に強力なパルス電子ビーム照射(GESAプロセス)を選択した点である。
現在は、2022年9月~2026年2月の計画で後継の「Horizon Scorpion」プロジェクトが進められている。「Horizon Scorpion」は、EU、英国、米国、日本、スイスなど16のパートナーが参加する国際共同プロジェクトで、革新的と考えられる長期的なATF概念の「SiC/SiC複合材料」の性能最適化に注力している。
すなわち、「SiC/SiC複合材料」の水熱腐食と放射線膨潤を制限するとともに、放射線照射下および高温酸化環境での安定性を向上させるために繊維/マトリックス界面の最適化を進めている。
その他、2023年に発行された国際原子力機関(IAEA)の技術資料(IAEA TECDOC SERIES、Status of Knowledge for the Qualification and Licensing of Advanced Nuclear Fuels for Water Cooled Reactors、IAEA-TECDOC-2032)では、各国のATF概念の研究開発の現状がまとめられている。
対象としているATF概念は、燃料被覆管向けの「Cr(CrAl)コーティング・ジルカロイ」、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」、「SiC/SiC複合材料」、燃料ペレットむけの「酸化物(Cr2O3,Al2O3・Cr2O3)ドープ・ウラニア」、「高密度燃料」である。
その他の国々の動向
2024年8月、ロシア国営原子力企業のロスアトムは、ロシアのウドムルト共和国のグラゾフにあるロスアトムの燃料部門傘下のチェペツク機械工場において、スプレープロセスによるCrコーティング燃料被覆管の商業規模のパイロット生産を開始した。今後、燃料集合体を装荷してパイロット運転をする。
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