高速炉、核燃料サイクル
なぜ、高速炉、核燃料サイクルの開発が必要なのであろうか?その理由は軽水炉の使用済み燃料を再利用することで、①高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を低減し、②余剰プルトニウムの削減ができるためである。また、使用済み燃料の再処理を繰り返すことで、③核燃料を増殖させることができる。
しかし、軽水炉サイクルの柱となる青森県六ケ所村の核燃料の再処理工場の操業が大幅に遅れている。1992年に建設を開始したが、許認可手続きと安全対策などで、2022年9月には26回目となる工事完成の延期を発表した。日本原燃は「2024年度のできるだけ早くに操業」と期限を設定している。
再処理工場の建設費は当初計画の4倍の3兆1000億円に膨らみ、建設開始から2040年ごろまでの総事業費は14兆4000億円に増大する見込みである。
また、高速炉では、使用済み燃料から再処理工場でプルトニウムを分離・回収して製造されるMOX燃料を高効率で燃やし増殖することができる。これをめざして1994年に初臨界を達成した原型炉「もんじゅ」であるが、トラブルが相次ぎ2016年に廃炉が決定した。
総事業費約1兆1313億円をかけて開発した「もんじゅ」は、運転実績がほとんどなく、現在、解体作業中であり2047年の廃炉完了までには、さらに3750億円を要する。
廃炉は第一段階(2018~2022年)で核燃料の取り出しと2次系Naの抜き取り、第二段階(2023年以降)に最も困難とされる1次系Na冷却材の取り出しなど、第三段階(未定)ではNa機器の解体・撤去、第四段階(~2047年度完了)で建物などの解体・撤去の手順で進められる。
英国、カナダ、ドイツ、フィンランド、スウェーデンなどは技術的な難易度、莫大な開発費用から、経済性が見出せないとし、使用済み核燃料を直接処分する方針を打ち出した。
一方、日本は当初の計画をはるかに超えた再処理工場への投資や、原型炉「もんじゅ」の失敗にも懲りずに、高速炉の実証炉開発を目指しており、将来的には再び高速増殖炉の開発を指向している。莫大な費用を要する「核燃料サイクル」の開発を再開するには、より確実な見通しが必要である。
核融合炉
これまでの核融合炉開発は、国際協力でフランスに建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)に代表されるトカマク型磁気閉じ込め核融合炉が、実用化に最も近いとして進められてきた。
2023年12月、日本政府と欧州連合(EU)は、核融合発電を次世代の脱炭素電源の一つと位置づけ、JT-60SAによる研究成果を核融合炉の設計・建設に活用するため、日欧が連携することを公表した。
JT-60SAは、実験データの共有などでITERを支援するため日欧が共同で建設し、10月には核融合反応を起こすための条件となるプラズマ生成に初めて成功した。核融合炉開発に関しては、米英が11月に協力協定に調印している。
しかし、最近では米国ローレンス・リバモア国立研究所が、大型レーザによる慣性閉じ込め核融合炉(レーザ核融合)、米国Helion Energyは逆転磁場配位型磁気閉じ込め核融合炉と、異なる炉型で成果を上げている。
また、Helion Energyは、2024年にも発電運転を始めて商用発電開始は2028年と設定し、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、2025年にも核融合炉を稼働させて2030年代初頭に商用発電を開始する計画を公表している。
すなわち、2010年代に入り地球温暖化問題への対応から各国でカーボンニュートラル宣言が相次ぎ、欧米では核融合炉開発を目指すベンチャー企業が続々と誕生し、投資活動が活性化している。加えて、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機が、この動きを加速している。
夢のエネルギー核融合の実現には、10年、20年先を見据えた研究開発が必須である。水素社会の実現と同様に、まだまだ長期間にわたる地道な努力と投資が必要である。今回を一過性の核融合ブームとしないためには、核融合のコア技術の多用途展開で長期開発の持続を図る必要がある。
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