次世代原子力(新型炉)の開発現状(Ⅳ)

原子力

 マイクロ炉に関してはウルトラ・セーフ・ニュークリアの小型高温ガス炉「MMR」がカナダでの初号基設置に向け、BWXテクノロジーズの超小型高温ガス炉「BANR」は米国防総省(DOD)「プロジェクトPele」でアイダホ国立研究所内設置に向けて開発が加速されている。
 また、テラパワーとGE日立・ニュクリアエナジーは、商業用発電・エネルギー貯蔵システム「Natrium」の開発を日米協力により着実に進めている。

米国の新型炉開発動向(2)

ウルトラ・セーフ・ニュークリアの「MMR」

 Ultra Safe Nuclear(USNC、ウルトラ・セーフ・ニュークリア)が開発を進める小型モジュール式の高温ガス炉「MMR(Micro Modular Reactor)」(熱出力1.5万kW、電気出力:0.5万kW)は、用途に応じて電力と高温熱(炉心出口温度:630℃)の供給を可能とし、TRISOを燃料に用い20年間にわたり燃料交換の必要がない。
 一次冷却材にヘリウムガス、外部電源や人為的な介入なしに作動する重力駆動冷却システムや、事故時に放射性物質の放出を防ぐ格納システムなどの受動的安全システムが組み込まれている。

 2020年12月、米国原子力規制委員会(NRC)が、USNCの「MMR」の設計認証申請を承認した。2021年6月、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)が、学内で将来的に「MMR」を建設するため、原子力規制委員会(NRC)に意向表明書(LOI)を提出した。

 一方、2019年3月、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)とUSNCの合弁企業グローバル・ファースト・パワー(GFP)が、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトにおける「MMR」の初号基建設に関して、カナダ原子力安全委員会(CNSC)にサイト準備許可(LTPS)を申請した。
 
 2022年8月、USNCは、「MMR」で使用するTRISO燃料粒子と、セラミック・マイクロカプセル(FCM:Fully Ceramic Microencapsulated)燃料のパイロット製造施設を、テネシー州オークリッジで開所した。
 1960年代に米国と英国で開発されたTRISO燃料粒子は、ウラン酸化物の核に黒鉛やセラミックスを4重被覆しているが、2000年以降にDOE傘下の国立研究所が改良を重ね、USNCが特許を持つFCM燃料」は黒鉛マトリックスの代わりに炭化ケイ素(SiC)マトリックスを使用した。 

図7 「MMR」の完成予想図 出典:Ultra Safe Nuclear

BWXテクノロジーズの「BANR」

 米国防総省(DOD)は「プロジェクトPele」による先進的な可搬式超小型炉(マイクロリアクター)の実証に向け、X-エナジーと共にBWX Technologies(BWXT)を選定した。米国航空宇宙局(NASA)も月面での原子炉設置に向けて設計案を募るなど、マイクロリアクターの活用範囲が広がりつつある。

 2022年6月、DODが「プロジェクトPele」で、最終的に小型高温ガス炉「BANR」(熱出力:5万kW、電気出力:1000~5000kW、炉心出口温度:800℃)を選定した。2024年までにアイダホ国立研究所内に設置し、HALEU燃料のTRISO燃料粒子を使用し、燃料交換間隔5年を想定している。

 原型炉は、市販の輸送用コンテナを使い、鉄道やトラック、船舶、航空機等で安全かつ速やかに運搬するため、長さ約6mの機器を内蔵した複数モジュールでの構成とする。組立開始から72時間以内に稼働でき、撤収では7日以内の停止後に冷却・接続切断・分解・輸送機器への積載を可能にする。

図8 BWXTの小型高温ガス炉「BANR」の概念図 出典:BWX Technologies

テラパワーとGE日立・ニュクリアエナジーの「Natrium」

 一方、高速炉に関しては、1951年12月に米国で世界初となる高速実験炉EBR-1(電気出力:100kW)が稼働した。その後、原型炉「CRBR」の設計・製作が進められたが、建設費高騰により計画が中止された。1978年10月、実証炉の設計研究が開始されたが、その後に進捗はなく高速炉開発から撤退した

 2019年6月、GE日立・ニュクリアエナジーが、小型モジュール式高速炉「PRISM」をベースに設計したナトリウム冷却高速炉「多目的試験炉(VTR:Versatile Test Reactor)」の建設で、日米政府間で研究協力の覚書を締結し、安全に関する研究開発などの協力が進められた。 

 TerraPower(テラパワー)とGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)は、小型モジュール式高速炉「PRISM」を基に「Natrium」(電気出力:34.5万kW、炉心出口温度:540℃)の共同開発をめざす。テラパワー開発の溶融塩蓄熱システム(容量:100万kWh)と組み合わせ、ピーク時出力:50万kW×5.5時間以上稼働する。
 現在、急速に普及している再生可能エネルギーの出力変動を、「Natrium」で調整するのが狙いである。

 2020年8月、テラパワーとGEHは、商業用発電・エネルギー貯蔵システムの開発を発表した。原子炉を小型化し、非原子力の機械・電気機器を原子炉建屋外に設置、設備の大半を原子力グレード規格から一般的な工業規格に変更して低コスト化を進め、2028年の実用化をめざす。

 2021年11月、実証炉「Natrium」(出力:34.5万kW)をワイオミング州ケンメラーの石炭火力発電所跡地に建設することで、同州を含む西部6州に電力を供給するパシフィコープと合意した。2023年3月、パシフィコープは2基の「Natrium」を、ユタ州で2033年までに建設する方針を示した。

 一方、2022年1月には、「Natrium」開発を進めているテラパワーと、日本原子力研究開発機構、三菱重工業、三菱 FBR システムズは技術協力で合意した。 
 

図9 高速炉発電(左下)と溶融塩蓄熱システム(右上)の完成予想図
出典:テラパワー

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