EVに負けたFCVのその後(Ⅳ)

自動車

 国内のFCトラック開発は、「大型FCトラック」は①いすゞ自動車と本田技研工業、②日野自動車とトヨタ自動車、③ドイツのダイムラー・トラック傘下の三菱ふそうトラック・バスの3グループで進められている。
 2025年には、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合の最終調整に入り、親会社であるトヨタ自動車とダイムラートラックの協業が進むと報じられた。②③の統合である。
 一方で、「小型FCトラック」は、トヨタ自動車、いすゞ自動車、スズキ自動車、ダイハツ工業が出資するCJPTが
供給を開始している。

FCトラックの開発動向

いすゞ自動車と本田技研工業

 2022年1月、いすゞ自動車と本田技研工業は、25トンの大型FCトラックの公道試験を実施する。航続距離:600kmで、高速道路などで性能を調べる。低コスト化の取り組みは継続し、水素ステーション整備など条件がそろった段階で量産化する計画で、早ければ2030年の実用化をめざす。

 2023年5月、本田技研工業は、いすゞ自動車が2027年に開発予定の大型FCトラック向けに、FCシステムを開発・供給すると発表した。

図1 いすゞ自動車が2027年に開発予定の大型FCトラック 出典:本田技研工業

 一方、世界最大のトラック市場である中国でも、2023年1月から本田技研工業は東風汽車集団と共同で、湖北省においてFCトラックの走行実証実験を開始した。

 2024年5月、本田技研工業は、米国の「Advanced Clean Transportation(ACT)Expo」で、クラス8(車両重量:15トン以上)の大型FCトラックのコンセプト車を公開。ミシガン州ブラウンズタウンにある米国GMとの合弁生産拠点Fuel Cell System Manufacturingで量産する。
 FCシステムはGMと共同開発したもので、性能を向上させ、耐久性を倍増し、コストを2/3に削減した。3基のFCシステム(合計出力:240kW)、高電圧電池(容量:120kWh)、高圧水素タンク(700MPa、水素82kg充填)を搭載し、最高速度:113km/h(推定)、航続距離:約644km(推定)である。

 2024年12月、本田技研工業は、栃木県真岡市に次世代燃料電池システムの新工場を2027年度に稼働する。生産能力は3万基/年、FCVに加え、商用車、定置用発電機、建設機械での水素事業拡大をめざす。

三菱ふそうトラック・バス

 2019年10月、東京モーターショーで小型FCトラック「Vision F-CELL」を公開し、2020年に内外装に小変更を加えたコンセプトモデル「eキャンター F-CELL」を発表。2020年代後半までにFCトラック量産を開始する。
 「eキャンター F-CELL」は、小型EVトラック「eキャンター」をベースに、リチウムイオン電池(出力:110kW、容量:13.8kWh)と走行用モーター(最高出力:135kW)を共用し、中国Re-Fire製の燃料電池ユニット(出力:75kW)と70MPa級高圧水素ボンベ3本を搭載する。航続距離:300kmである。

図2 三菱ふそうの小型FCトラック「eCanter-F-CELL」

 2025年4月、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合の最終調整に入り、親会社であるトヨタ自動車とダイムラートラックの協業が本格始動すると報じられた。4社の枠組みにより、商用車事業の支援に加えて水素関連事業への協業が加速される。  

トヨタ自動車と関連企業

 2022年5月、いすゞ自動車、トヨタ自動車、日野自動車と、3社が出資するCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT)は、量販型の小型FCトラックを共同開発し、普及に向けた取組みの加速を発表。
 スーパーやコンビニでの物流を対象にするため、冷蔵・冷凍機能を備え、長時間・長距離走行、短時間での燃料供給などの条件を満たすにはFC化が有効とし、2023年1月以降の市場導入をめざす。
 しかし、2022年8月、エンジン性能試験を巡る不正により、日野自動車はCJPTから除名された。

図3 CJPTで開発を進める小型FCトラック 出典:トヨタ自動車

 2023年5月、トヨタ自動車、いすゞ自動車、スズキ自動車、ダイハツ工業が出資するCJPTが、東京都で商用電動車普及に向けた社会実装を始動すると発表。アサヒグループジャパン、西濃運輸、NEXT Logistics Japan、ヤマト運輸物流事業者などと協力し、充電・水素充填タイミングと配送計画の最適化を進める。
 2023年4月に東京都内の配送向け小型FCトラック約190台の導入、2023年度中に商用EV軽バン約70台、小型EVトラック約210台、2025年中に大型FCトラック約50台を、東京中心の幹線物流(関西-関東-東北)向けに導入を進める。

 2024年5月、日野自動車とトヨタ自動車は、「ジャパントラックショー2024」に共同開発した10トンFCトラック「日野プロフィア Z FCV」を公開した。車体総重量:25トン、航続距離:約600kmである。
 運転席下部にトヨタ製FCスタック、駆動系は後輪のシャフトと一体化したアクスルに集約、大容量高圧水素タンクを運転席後部とシャシーの左右に合計6本搭載した。 

図4 10トンFCトラック「日野プロフィアZ FCV」  出典:日野自動車

 一方、2023年5月、トヨタ・モーター・ノース・アメリカと米国大型トラックメーカーのパッカーは、FCトラックの開発と生産の協業拡大で合意した。
 トヨタ自動車のFCパワーシステムを搭載した「ケンワースT680」(ケンワース・トラック・カンパニー製)と、「ピータービルト579」(ピータービルト製)の開発・商品化で協力する。最初の納品は2024年を予定している。

図5 FCトラック「ケンワースT680」(左)と「ピータービルト579」(右)
出典:トヨタ・モーター・ノース・アメリカ

 2025年2月、トヨタ自動車は新型FCトラックを2026年末に投入する。CJPTが企画した小型トラックに、国内生産する新型FCシステムを搭載する。日本市場で700〜5000台/年の供給をめざす。
 2026年から本社工場(愛知県豊田市)などでFCシステムの製造を始める。車両サイズに応じてセル枚数を変えられ、現行品に比べて耐久性を2倍、燃費性能を2割向上させた。2028年には大型FCトラックの投入も予定。FCシステムは国内外に外販する予定で、2030年には10万台/年を製造する。

韓国の現代自動車

 2020年6月、大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」10台をスイスに向けて出荷した。2020年中に50台を出荷し、2025年までに1600台を出荷する計画を公表。
 FCスタック(出力:95kW×2基)、35MPa級大型水素タンク7基(水素約30kg)、モーター(最高出力:350kW)を搭載する。水素充填時間:8~20分で、航続距離:約400kmである。輸送ルートは山岳地帯を含み、スイスの水素供給インフラ体制を考慮して開発された。

*スイスでは大型商用車の重量や排気量、走行距離により大型車両通行税(LSVA)が課されるが、燃料電池車には適用されない。そのため、FCトラックの輸送コストはディーゼルエンジン車とほぼ同等である。また、スイスは水力発電のシェアが高く、グリーン水素が十分に供給できる。

 2023年5月、北米向け大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」の量産モデルを米国で公開。クラス8の6×4大型トレーラーで、車両総重量:最大37トンで、航続距離:720km以上である。
 これまで韓国、スイス、ドイツ、イスラエル、ニュージーランドの5カ国で展開し、全車両の合計走行距離は640万kmを超え、燃料電池システムの性能と信頼性、耐久性に関する実績は豊富である。

図6 長距離輸送に適した大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」
出典:現代自動車

欧州のダイムラー・トラックとボルボ・グループ

 2021年4月、ドイツのダイムラー・トラック(Daimler Trucks)と、スウェーデンのボルボ・グループ(Aktiebolaget Volvo)は、3月に燃料電池量産で設立した合弁会社セルセントリック(Cellcentric)の事業計画を発表。長距離FCVトラックで世界をリードするため、2025年までに欧州最大級の燃料電池工場を稼働させる。
 欧州トラックメーカー大手は、2025年までに大型車が利用できる水素補給ステーションを欧州中に300ヶ所、2030年までには1000ヶ所に設置することを要請している。

 2022年6月、スウェーデンのボルボ・グループ(Aktiebolaget Volvo)は、大型FCトラック(車両総重量:65トン以上)を開発して走行試験を開始。これまでにEVトラック、バイオ燃料トラックを開発し、FCトラックは3番目のカーボンニュートラル・トラックで、2020年代後半の市販をめざす。
 ボルボとドイツDaimler Trucksの合弁会社Cellcentric(セルセントリック)が供給する水素燃料電池(2基、総出力:300kW)を搭載し、航続距離:最大1000km、水素充填時間:15分未満である。

 2022年9月、ドイツのMAHLE(マーレ)はセルセントリックと、大型商用車向け燃料電池技術分野(主に平膜型加湿器の開発・量産)で協力する。
 平膜型加湿器は、大型商用車向け燃料電池システムのほか、非常用発電機としての定置型燃料電池システムにも使われる。従来は中空膜繊維が使用されていたが、マーレは加湿器内で層状に重ねられた薄い膜を使って効果的に加湿し、燃料電池の高効率化と耐用年数の向上を進める。

 2024年6月、ダイムラー・トラックと川崎重工業は、「ドイツ向け液化水素サプライチェーンの構築および欧州における液化水素ステーションの輸送網の構築に向けた協力の覚書」を締結した。
 FCトラックにおける液化水素の利用拡大をめざすもので、両社で液化水素サプライチェーン構築の検討に加え、液化水素ターミナル、大型および中規模の海上輸送、大規模な液体水素貯蔵の検討を進め、2030年代早期に欧州への液化水素サプライチェーンの確立をめざす。

 2024年7月、ダイムラートラックは、自社の顧客5社(Air Products、Amazon、Holcim、INEOS、Wiedmann & Winz)を対象に、液体水素を燃料とするFCトラック「Mercedes-Benz GenH2 Trucks」の試作機を引き渡し、公道での試験走行を開始した。
 「GenH2 Truck」は、長距離用ディーゼルトラックと同等の性能を有し、総重量:40トン、積載量:約25トンである。2023年9月、セルセントリック製の燃料電池システムと液体水素タンクにより、1回の充填で1047km以上の走行を達成し、液体水素燃料は長距離輸送に適していると重視している。

図7 液体水素燃料を搭載する「GenH2 truck」  出典:ダイムラー・トラック

 2025年4月、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合の最終調整に入り、親会社であるトヨタ自動車とダイムラートラックの協業が本格始動すると報じられた。4社の枠組みにより、商用車事業の支援に加えて水素関連事業への協業が加速される。

ドイツ・ボッシュと米国ニコラ

 2022年8月、ドイツ自動車部品大手ボッシュは、米国サウスカロライナ州の工場を拡張し、大型FCトラック向けFCスタックの生産を発表。投資額は2億ドルで、米国で初の燃料電池生産拠点で、2026年に稼働する。
 二コラ(NIKOLA)は、ボッシュのFCスタックを搭載した大型FCトラックを開発し、走行試験を進めている。

 2023年7月、ボッシュは、ドイツのフォイヤバッハ工場で、FCパワーモジュールの量産を開始。 パワーモジュール生産は中国重慶でも開始し、米国サウスカロライナ州アンダーソンの工場でスタック製造を始めている。

 2024年4月、二コラの昨年第4・四半期のFCトラック納車台数は35台で、今年の第1・四半期は40台に達したと発表。3月にはカリフォルニア州とカナダ・アルバータ州にFCトラック向け燃料補給ステーション開設し、水素燃料の生産・流通・販売を管理する「ハイラ(HYLA)」の稼働で、販売台数は今後さらに伸びると表明。

 2025年2月、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。2015年に設立され、EVやFCトラックメーカーとして注目を集めたが、経営を巡る混乱や米国でのEV普及の遅れを背景に業績が低迷し、資金繰りが悪化していた。

*2025年4月、米国パッカーグループは、トヨタ自動車のFCシステムを搭載した大型FCトラックを2025年に製造開始すると発表していたが、予定が延期され、製造開始時期は未定となっている。また、2025年2月には、FCVトラックの開発をリードしていた米国のニコラとハイゾンが共に経営破綻している。
 破綻の理由は、いずれもキャッシュフローの悪化を挙げており、米国ではトランプ政権によりゼロエミッション技術に逆風が吹いている。

国内でのFCトラック導入実証

 2023年2月、商用車の技術開発会社CJPTは、新型のFCトラックで郡山、いわき両市で各1台を導入して物流実験を行うと発表。2025年度までに両市で計約60台への増加をめざす。
 いすゞ自動車の「エルフ」をベースに、燃料電池や水素タンク(充填量:10.5kg)を搭載し、最大積載重量:約3トン、航続距離:約260kmである。実験には小売り大手が参画し、コンビニやスーパーへの商品配送や、地場の物流や建設会社による建築資材の運搬を行う。

 2023年5月、アサヒグループとNEXT Logistics Japan西濃運輸ヤマト運輸3陣営が、25トン級大型FCトラックの走行実証を開始すると発表。実証では車両性能に加え、複数のドライバーにより使い勝手や乗り心地も検証する。また、水素ステーションでの充填を含む運行状況も確認する。
 大型FCトラックは日野自動車「プロフィア」をベースに、「MIRAI」のFCスタックの出力と耐久性を改善し、水素タンク(充填量:50kg、使用圧力:70MPa)は6本搭載する。充填時間は20~30分で、航続距離:約600kmである。リチウムイオン電池に蓄えた電力で電動機を駆動する。

アサヒグループとNEXT Logistics Japanは、ビールや清涼飲料水の出荷について、茨城県守谷市→東京都大田区→相模原市→守谷市の輸送を5月から開始。
西濃運輸は、宅配便で扱う荷物について、東京支店(東京都江東区)→小田原支店→相模原支店→東京支店の輸送を6月から開始。
ヤマト運輸は、宅配便で扱う荷物について、羽田クロノゲートベース(東京都大田区)→群馬ベース(群馬県前橋市)→羽田クロノゲートベースの輸送を5月から開始。

図8 アサヒグループ、西濃輸送、ヤマト運輸による大型FCトラックの走行実証

 2023年10月、日本通運は、積載重量:2.95トンのFCトラックを2023年末までに20台導入する。既に、関東甲信越で6台導入しており、水素充塡設備が比較的多い湾岸エリアを中心に拡大する。1回10分の水素充塡で航続距離:260kmである。
 EVトラックも2023年9月末時点で5台保有しており、2024年1月までに11台に増やす予定。今後、インフラの整備状況や車両性能、使い勝手を確認した上で、EVトラックとFCトラックの方向性を検討する。

 2023年11月、日本郵便は、積載量:3トンのFCトラック2台を試験導入する。東京都内の一部の郵便局間での輸送に使い、1回5〜10分で10kgの水素充填で、航続距離:約260kmである。2023年度中に計5台に増やし、2025年以降には、積載量10トン程度の大型トラックも試験導入する。
 日本郵便はEVや電動バイクを一部で導入しているが、航続距離の短さが課題である。今回はFCトラック1台の1日当たりの走行距離は80km程度にとどめ、燃料の補給頻度など社会実装に向けた課題を見極める。

図9 日本郵便が導入したFCトラック 出典:日本郵便

 2024年4月、エネルギー関連企業など産官学でつくる大分県エネルギー産業企業会は、FCトラックの実証事業を開始。6月末まで、大分、別府、杵築、日出の4市町で週6日ほど走行させる。CJPTの小型FCトラックを使い、物流会社の東九州デイリーフーヅが食品を巡回配送し、燃費や走行性を確認する。
 トラックは、10.5kgの水素充填で、航続距離:約260kmである。燃料の一部は、ゼネコン大手の大林組が九重町で生産する地熱由来の水素を利用し、江藤産業の水素ステーションで供給する。

 2025年4月、トナミ運輸は、NEDO助成事業でFCトラック(積載量:約3トン)を京浜支店に1台導入し、支店周辺の集配業務に利用する。FCスタックはトヨタ自動車といすゞ自動車が共同開発したもので、京浜トラックターミナル内の水素ステーションで充塡し、航続距離:約260kmで

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