電動バスは売れるのか?(Ⅰ)

自動車

 バスなどの大型商用車には電動バス(EVバス)よりも燃料電池バス(FCバス)が適しているとして、経済産業省などが2017年に発表した水素基本戦略では「FCバスは2020年度までに100 台程度、2030 年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。

 しかし、世界市場はFCバスではなく、電動バス(EVバス)が席巻している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年に販売されたEVバスは約9万台で中国と欧州が先行している。2030年には300万~500万台に増加し、バス全体の16%ほどを占めると予想している。

EVバスの普及動向

二つの失敗

 バスなどの大型商用車には電動バス(EVバス)よりも燃料電池バス(FCバス)が適しているとして、経済産業省などが2017年に発表した水素基本戦略では「FCバスは2020年度までに100 台程度、2030 年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。『未来予測の第一の失敗である。』

 しかし、世界市場はFCバスではなく、電動バス(EVバス)が席巻している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年に販売されたEVバスは約9万台で中国と欧州が先行している。2030年には300万~500万台に増加し、バス全体の16%ほどを占めると予想している。

 日本自動車輸送技術協会による2023年度の国内のEVバス導入補助金は、ハイブリッド車を除くと補助対象15機種のうち10機種が中国製EVバスである。日本製はEVモーターズジャパンの5機種(但し、中国で製造)で、トヨタ・日野・いすゞ自動車はハイブリッド車が対象に登録されているのみ。

 トヨタ・日野・いすゞ自動車がEVバス導入補助金の対象機種を登録できず、生産量が限られる新興のEVモーターズジャパンのみに頼っている状況では、国産EVバスの普及は望めない。その結果、国内では中国製EVバスを選ばざるを得ない状況が続いている。『未来予測の第二の失敗である。』

国土交通省のやる気は?

 現在、国土交通省自動車局の示す「電動バス導入ガイドライン」は、2018年12月に作成された内容のままで、「地域交通グリーン化事業を平成23年度に創設以降、これまで計30台の導入支援を実施」と胸を張っているだけで、本当にEVバスを普及させる気があるのか疑問である。

 そのため、2023年5月にジャパンバスネットは国土交通省の「電動バス導入ガイドライン」により、国内で導入されているEVバスには、次のようなものがあると紹介している。

表1 国内で導入されている代表的なEVバス(2018年時点での状況

 日野ポンチョEVは、2011年に日野自動車が製造したEVバスで、現在も国内の路線バスなどで稼働している。日野ポンチョEVの導入事例として、東京都羽村市(2011年導入)や東京都港区(2017年導入)のコミュニティバスがあげられる。

 また、中型路線バスのいすゞエルガミオは宮城県気仙沼市(2013年東日本旅客鉄道が導入)、大型路線バスはいすゞエルガ(改)は三重県伊勢市(2013年三重交通が導入)で、EVバスに改造されて国内路線を運行している。『過去を振り返ることは重要な場合もあるが、今はその時ではない。』

 2020年代に入り、中国メーカーのEVバスが低価格を武器にシェアを急速に伸ばしている。中国BYDの小型BEバス「J6」は1950万円、大型BEバス「K8」は3850万円で、国内のディーゼルバスと同等の価格であるが、国土交通省によると国内メーカーのEVバスは6000万円~1億円である。
 また、中国メーカーはEVバスの導入時に必要な充電ステーションの設置や、車両のメンテナンスなどをパッケージ化し、ワンストップでのサービスを提供している。

主要メーカーの動向

比亜迪(BYD)

 製造・供給で優位に立つのは比亜迪(BYD)などの中国メーカーで、低価格と技術力で圧倒している。2019年3月、国内バス市場に中国の大手EVメーカーであるBYDの日本法人ビーワイディージャパンが、安価なリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した4車種を市場投入した。

 BYDは世界でEVバス5万台以上を普及させ、シェア拡大中である。小型バス「J6」(全長:6.99m、乗車定員:31名、航続距離≥150km、電池容量:105.6kWh)から、大型バス「K8」(全長:10.5m、乗車定員:81名、航続距離:220km、電池容量:287kWh)まで4車種をラインアップしている。

 2021年12月、京都市では京阪バスが市内循環バスに4台のBYD製EVバスを導入した。2022年4月、大阪府でも阪急バスが2台のBYD製EVバスを導入した。大手日本メーカーはEVバスを量産化できず、自治体などが脱炭素化に向けて中国製を選ばざるを得ない状況が続いている。 

図1 BYDの大型EVバス「K8」

 2023年2月、日本で販売するBYD製EVバスの部品に六価クロムを使用していると発表。運行中などに人体や環境への影響はないとし、乗客らのさらなる安全や安心のため、2023年末に発売を予定するEVバスの「J6」と「K8」の新型モデルでは、六価クロムの使用をやめると発表した。

いすゞ自動車と日野自動車

 2021年6月、日野自動車はBYDから小型EVバス「J6」についてOEM供給を受け、小型EVバス「ポンチョ Z EV」の販売を2022年に行うと公表した。自前の開発を待たずに、BEバスを市場投入するだけの需要の高まりを認識したのであろう。

図2 日野自動車の小型EVバス「ポンチョ Z EV」

 2022年2月、いすゞ・日野自動車は大型EVバスの生産を2024年に始めると発表。いすゞ自動車が車両開発、両社が折半出資するジェイ・バスが生産する。いすゞ自動車の大型路線バス「エルガ」、日野自動車の「ブルーリボン」についてEVバスのラインアップを進める計画である。
 一方で、同日、このBEバスをベースにして、いすゞ自動車と日野自動車は、トヨタ自動車のFCVシステムを活用したFCバスの開発を検討することも発表した。

 2022年3月、いすゞ・日野・トヨタ自動車は、3社で立ち上げたCommercial Japan Partnership Technologiesとも連携し、EVバスのラインアップを拡充し、車両コストの低減に取り組むと発表。

 2023年2月、日野自動車が小型EVバス「ポンチョ Z EV」の発売を凍結した。OEM供給する中国BYDが、六価クロムを使用していたとの報道が原因である。
 六価クロムめっきは防錆ぼうせいの目的で鋼板の表面処理に使われるが、毒性が強いため日本自動車工業会(JAMA)は2008年から使用を禁止してきた。欧州連合(EU)のRoHS(特定有害物質の使用制限)指令でも電気・電子機器への使用が禁じられている。

EVモーターズ・ジャパン

 2019年4月、北九州市で創業したスタートアップのEVモーターズ・ジャパンは小型EVバス「F8 series-4 Mini Bus」(全長:6.99m、定員:29名、航続距離:290km、基準価格:780.0万円)を2021年春に発売した。しかし、製造は中国企業に委託している。

 2020年夏に大型EV路線バス「F8 series2-City Bus」(全長:8.8m/10.5m、定員:48人 /78人、航続距離:280km/280km、基準価格:1537.1/1322.6万円)、同年冬には大型EV観光バス「F8 series-6 Coach」(8.8m、35人、280km、1525.4万円)をラインアップした。

 2022年10月、EVバス組み立て工場を北九州市に建設すると発表した。40億円程度を投資して2023年1月に着工し、年末までの稼働を目指す。現在は中国企業に製造委託し、完成車を輸入しているが、日本向けに国内での組み立てを目指す。
 生産能力は2023年は数台、2024年中に200台規模に引き上げ、2025年以降に1500台に高める。

 2023年1月、伊予鉄バスへ、国内企業が開発・製造を実施した初の大型EV路線バスを納車した。松山市駅~川内・さくらの湯 間を運行する。同年2月、那覇バスへ大型EV路線バスを納車した。

 2023年8月、関西電力はEVモーターズ・ジャパンと販売代理店契約を結んだと発表。関西電力グループが手掛ける車両整備やリース事業、充電効率化システムの知見を生かし、2022年には、関電グループが出資して資本業務提携を結んでいる。

図3 2022年夏に発売された大型EV路線バス(F8 series2-City Bus)

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