電気自動車用蓄電池の供給状況(Ⅵ)

自動車

 車載用蓄電池のリユースは自動車・蓄電池メーカー、中古車販売業が中心的な役割を果たし、蓄電池の劣化状況を評価してセルを再アレンジする新事業が発足する。車載用蓄電池のリサイクルは電池解体や原材料抽出を専門とするリサイクル企業が主導し、蓄電池メーカーへの供給を行うと考えられる。

使用済み蓄電池のリユース 

欧州の蓄電池リユース

 2016年5月、米国の電力管理業Eatonと欧州日産自動車(Nissan Design Europe)は、共同開発した家庭用蓄電池「xStorage」(容量:4.2kWh)の欧州販売を発表した。設置を含めた価格は3200ポンドで一般的な家庭用蓄電池と比べて大幅に安く、「リーフ」などの使用済みEV蓄電池を活用している。

 2016年6月、BMWも家庭用蓄電池(容量:21.8kWh、33kWh)の概念を発表し、「i3モデル」や「MINI E」と同じ蓄電池パックを採用する。蓄電池共通化の利点は、開発費の抑制とEVの使用済み蓄電池を再利用できる。家庭用蓄電池の設置時には、新品と再利用品のいずれかを顧客が選択できる。

 2016年9月、ドイツのBMW、ボッシュ、スウェーデン・バッテンフォールの共同事業体は、100台超のEV用蓄電池を再利用した蓄電システム(容量2800kWh、出力:2000kW)を設置した。

 2016年9月、ドイツのダイムラー、Mobility House、GETECの合弁会社は、ドイツ西部リューネンにEVの使用済み蓄電池を再利用した大規模蓄電システム(容量:12.8MWh)を稼働させた。ダイムラーは2017年にハノーバーで、同様の定置用蓄電システム(蓄電容量:17.4 MWh)の運用を開始した。   
 2018年6月には、ダイムラーはドイツ西部エルフェリングセンにEVの使用済み蓄電池を利用した蓄電池システム(容量:9。8MWh)を稼働し、電力調整用に使用している。

 2017年3月、スウェーデンの電力会社バッテンファルは、BMWのEVの使用済み蓄電池を再利用した大規模蓄電システム(容量:22MWh)を英国の風力発電所(出力:230MW)に併設し、負荷変動抑制を行っている。

日本の蓄電池リユース

 2018年1月、中部電力とトヨタ自動車が、EVの使用済み蓄電池を再利用した大容量蓄電システムの構築とリサイクルの実証で合意した。トヨタ自動車がEVから回収した蓄電池を、中部電力が再生可能エネルギー導入の拡大に伴う需給調整や、周波数変動および配電系統の電圧変動への対応などに活用する。

 2020年には蓄電システム(出力:約10MW(蓄電池1万台相当))の導入を目指す。リユース蓄電池は、HVに使用されているニッケル水素電池と、EVやPHVで使用されるリチウムイオン電池を活用する。使用済み蓄電池からレアメタル(希少金属)を取り出し、電池原料とするリサイクルも検討する。

 2018年3月、日産自動車と住友商事(株)の合弁会社フォーアールエナジー(4R)が福島県浪江町にEVの使用済み蓄電池再利用の拠点工場を開設している。工場では旧型リーフで2250台/年の電池処理能力を有している。

 2021年から本格的なリーフの中古電池回収が始まり、約5000パック/年が見込まれる。リーフには48個のモジュールを1パックにして搭載している。各モジュールの劣化度合いは異なるため、4Rでは1モジュールを5分で解析し、1パックを解析するのに4時間を要する。

 容量が80%を超えるモジュールは、リーフ向けの交換用電池として日産自動車に販売し再利用する。80%以下のモジュールは、4Rが開発したシミュレーション技術で顧客の利用条件に合わせて寿命予測などを行い、電動フォークリフト、ゴルフカート、街灯向けなどの蓄電池として販売する。

 2018年4月、日本ベネックス、住友商事、富士電機は、リーフ24台分の使用済み蓄電池を20フィートコンテナに格納した蓄電システムを共同開発し、1号機(容量:400kWh、出力:400kW)を日本ベネックス本社工場に導入して運用を開始した。富士電機は同システムを商品化する計画を発表している。

 2018年9月、エネチェンジがバッテリーマネジメントシステム(BMS)技術を有する英国ブリルパワー(BrillPower)と事業提携契約を締結した。各セルの充電率や劣化度を監視しながら均一放電する制御技術で、使用済み蓄電池の寿命を最大60%伸ばし、充電容量を最大46%増加させることできる。 

 2020年12月に発売した2人乗り超小型EV「C+pod(シーポッド」に搭載する蓄電池を規格化(容量:9.06kWh )をトヨタ自動車が発表した。出力、容量、耐久性能などの下限を定めて高性能蓄電池との入れ替えを容易にし、数年単位のリース形式でEVを販売し、電池回収して劣化状況を検査する。

 C+podに搭載する蓄電池を家庭用蓄電池と同等の容量とし、電池回収して劣化が進んでいれば家庭蓄電池としてパナソニックに販売する。また、送配電網向けの大規模蓄電システムとして、中部電力などの電力会社への販売を想定している。

 2021年12月、日産自動車は2022年欧州、2025年米国に車載用蓄電池のリサイクル工場を1カ所ずつ新設すると発表した。住友商事と共同出資する子会社のフォーアールエナジーと、蓄電池のリユース/リサイクルを行う。電池の劣化度合いに応じて、EVの交換用電池や工場設備の非常電源などに組み直す。

 2022年9月、大阪ガスは蓄電池制御技術を持つNExT-e Solutionsと資本業務提携し、EVの使用済み蓄電池を活用した系統用蓄電池の事業化を発表した。2023年3月から、EVとフォークリフトから回収した使用済み蓄電池と新品蓄電池を用い、劣化状況が異なる蓄電池の組み合わせで検証試験を実施する。

蓄電池リユースに関する政府の動き

 2015年の自動車リサイクル法審議会合同WGで、リチウムイオン電池の適正処理のセーフティネット構築の必要性が示された。これを受けて日本自動車工業会は回収・リサイクルの仕組み構築を支援し、自動車再資源化協力機構を窓口に無償回収システムを構築し、2018年10月より運用を開始した。

 2019年7月には、企業、自治体、政府などの連携・情報共有により、電動車普及上の課題解決に向けた検討を深めていく場として、経済産業省主導で「電動車活用社会推進協議会」が立ち上げられ、車載用電池のリユースを促進するため、協議会の下に「車載用電池リユース促進WG」が設置された。

 さらに、2020年6月にはEV用蓄電池のリユースに不可欠となる残存性能を評価するための「電池性能見える化ガイドライン」が策定された。それに伴い使用済み蓄電池を再利用する市場を整備する検討が行われている。

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