動き始めたEVの低価格化(Ⅱ)

自動車

自動車メーカーの動向

 米国・中国・韓国の大手EVメーカーは、ボリュームゾーンである大衆車の低価格化を推進しており、今後の競争激化が予測される。一方、国内では軽EVに注目が集まり、自動車メーカーは配送業のラストワンマイル向け商用軽EVの商品化を推進しており、2024年には各社の軽EVが出揃う状況にある。

大衆車EVの低価格化

米国テスラモーターズ

 2023年8月、上位車種のセダン「モデルS」と多目的スポーツ車(SUV)「モデルX」に、航続距離の短い廉価仕様を導入して米国で発売した。「モデルS」は標準仕様では8万8490ドル(約1330万円)、航続距離:約650km。廉価版「スタンダードレンジ」は7万8490ドル(約1180万円)で、航続距離:約515kmである。
 バッテリーやモーターは標準仕様と同じで最高速度は変わらず、ソフトウエアで航続距離などを制限している。2022年頃から主力車種の「モデル3」スタンダードレンジ(RWD)の価格設定を420万~580万円で見直しており、競合に比べ割高だった価格設定を下げ、販売台数の拡大を優先している。

 一方、「モデル2」とも呼ばれている”25000ドル(約375万円)EV”については、ベルリン郊外の工場で生産する可能性を示しているものの、発売は2025年以降となる。

中国の比亜迪(BYD)

 世界シェア3位の車載用蓄電池メーカーであるBYDは、安価なリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)を改良したブレードバッテリーを開発し、低価格EVを実現させている。

 2023年1月、ミドルサイズe-SUV「ATTO 3(アットスリー)」を、440万円(税込)で国内発売を開始した。ブレードバッテリー(LFP容量:58.56kWh)を搭載したEV専用プラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用し、電動機出力:150kW/310Nm、航続距離:485kmである。

 2023年9月、5ドアハッチバックタイプの小型EV「DOLPHIN(ドルフィン)」の日本販売を開始、EV専用のプラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用し、LFP容量:44.9/58.56kWh、電動機出力:70kW/180Nm、航続距離:400/476kmである。価格:363/420万円(税込)。2023年下半期にe-Sedan「SEAL」の日本販売を予定。

図3 BYDの「 DOLPHIN Long Range(ドルフィン ロングレンジ)」 出典:BYD

韓国の現代自動車

 2022年5月、EV販売台数で世界第3位の現代自動車は、日本市場への再参入を発表した。日本が環境規制強化やZEV購入を後押しする政策を表明したためである。2001年に日本の乗用車市場に参入したが、販売が振るわず2009年に撤退した経緯がある。

 投入したクロスオーバーSUV型「IONIQ 5」は、479万円(税込)からで、蓄電池容量:58kWhで、電動機最高出力:125kW、航続距離:498kmである。コンパクトSUV型「KONA」は399.3万円(税込)からで、蓄電池容量:48.6kWhで、電動機最高出力:33kW、航続距離:456kmである。

図4 現代自動車の「KONA Casual(コナ・カジュアル) 出典:現代自動車

フランスのルノー

 現在欧州市場で一番安価なEVは、ルノーのサブブランドであるダチア「スプリング」で蓄電池容量:26.8kWh、航続距離:230km、価格は20,800ユーロ(約345万円)である。フランス政府のエコロジー補助金5,000ユーロが適応されて実際は15,800ユーロ(約260万円)となる。
 ダチアスプリングは、中国で生産される全長3.7m強のスモールEVで、2021年春に欧州に導入された。安価で機能的なSUVスタイルでEV販売台数トップ10に入るが、安全性には不安がある。

 2023年11月、自動車大手で初めてEV事業を分社化し、今回、新会社「アンペア」の事業戦略を発表した。成長が見込めるEV分野を切り分けて上場し、資金調達を容易として研究開発に集中投資する狙い。2024年上半期の上場を予定しており、先行する米国テスラや中国勢に対抗する。

 フランスに生産拠点を置き、2024年に「セニック」「“5”(サンク)」、2025年にSUV「“4”(キャトル)」、2026年に2万ユーロ(約330万円)以下の安価な小型EV「トゥインゴ」を発売し、2027~28年に、現在のガソリン車と変わらない価格の新型EVを実現する。開発は米国グーグルやクアルコムと連携する。

 ルノーが過半、日産自動車は最大6億ユーロ(約980億円)、三菱自動車は最大2億ユーロ(約330億円)をアンペアに出資し、3社連合でEV開発を加速させる。日産自動車の欧州向け次期EVの小型車「マイクラ」(日本名マーチ)は生産をアンペアが行う。また、三菱自動車も欧州市場向けEVのOEM供給を受ける。

図4 安価な小型EV「トゥインゴE-TECHエレクトリック」(2026年発売)
出典:スマートモビリティーJP

フランスのステランティス

 2024年春、傘下のシトロエンは「e-C3」の発売を発表している。既にインドで発売されてるが、欧州モデルは44kWhのLFP(リン酸鉄リチウムイオン)蓄電池を搭載し、航続距離:320kmで、価格は2.33万ユーロ(約385万円)で、スロヴァキアの工場で生産する予定。
 現状、35,000ユーロ(約580万円)以上するプジョーe-208/e-2008やフィアット500e、オペルモッカEVと比べても格段に安い設定設定である。

 また、2020年に発売されたフィアット「500e」は、2023年にSUV版「600e」が追加された。 フィアットはパンダの後継車といわれるEVを、2024年7月に発表する予定。

ドイツのフォルクスワーゲン

 2023年10月、ドイツ東部ザクセン州の2工場で約2週間のEV減産を行い、11月には、中東欧で稼働を予定していた蓄電池のメガファクトリーの建設を延期し、EV主力工場ツヴィッカウの生産ラインの一つを3シフトから2シフトに減らすことを発表した。
 フォルクスワーゲンが計画する25,000ユーロ(約415万円)のEV「ID.2」は、2026年導入の予定である。

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