EVトラックは売れるのか?(Ⅰ)

自動車

 物流大手の脱炭素化に向けたEVトラック採用の動きが活発化し、2022~2023年に主要な国内メーカーが小型EVトラックの市場投入を本格化させている。
 世界で初めて小型EVトラック「eCanter」を発表した三菱ふそうトラック・バスは、全面改良して28型式(海外市場モデルは約80型式)のラインナップを実現、日野自動車は超低床・前輪駆動の小型EVトラック「日野デュトロ Z EV」を発売、いすゞ自動車は小型EVトラック「ELF-EV」を発表した。

物流大手のEVトラック導入

 2021年4月、佐川急便は、中国の広西汽車集団から小型EVトラックを7200台導入すると発表した。2020年6月からベンチャーのASF(株)と共同で企画開発を進めており、2022年9月から導入を開始、価格は130~150万円台、2030年度までに段階的に切り替える計画である。

 2021年10月、物流大手のSBSホールディングスが、中国のEVトラック1万台を導入すると発表した。スタートアップのフォロフライ(株)が中国の東風汽車から輸入・販売するBEトラック(最大積載量:1トン級)について、航続距離の短いラストワンマイル事業での導入を決定した。
 1号車の導入以降、SBSグループはフォロフライに実用化に向けた仕様変更をフィードバックし、2023年5月にプロトタイプが完成して導入が本格化する。フォロフライEVは平均200~220㎞の連続航送を達成し、ファブレス生産方式で車両単価はディーゼル車並み(約380万円)としている。

 2022年7月、ヤマトホールディングスは、日野自動車の小型EVトラック「日野デュトロZEV」(最大積載量:1トン)を500台導入すると発表した。8月から首都圏を中心に順次導入し、ラストワンマイル配送に利用する。ヤマトHDは配送車のEV化を進めており、2030年までに2万台導入する計画。

 以上のように、物流大手の脱炭素化に向けたEVトラック採用の動きが活発化し、2022~2023年には主要な国内メーカーが小型EVトラックの市場投入を本格化させている。

国内メーカーの動向

三菱ふそうトラック・バス

 2017年、世界で初めて量産化された小型EVトラック「eCanter」を世界市場へ向けて発表した。
 2023年3月、全面改良した新型「eCanter」の受注を開始した。中国・寧徳時代新能源科技(CATL)製モジュール式リチウムイオン電池(41kWh)を搭し、ラストワンマイル輸送から長距離輸送まで用途に応じた航続距離が選べ、モーターを後軸に統合した自社開発のeアクスルに特長がある。

 総重量5~8トン級(海外モデルは4~8トン級)の車種を揃え、キャビン(乗員室)幅を標準幅・広幅・拡幅の3種類、ホイールベース(車輪間隔)は2.5m・2.8m・3.4m・3.85m・4.75mの5種類とし、28型式(海外市場モデルは約80型式)をラインナップした。価格は1370~2005万円(税込)。

 ホイールベースの長さに応じて蓄電池モジュールを1 ~ 3 個まで搭載できる。航続距離は電池モジュール1個搭載の標準幅キャブで116km、2個搭載で約236km、3個搭載の広幅キャブと拡幅キャブで324kmである。普通充電と急速充電に対応している。

図1 三菱ふそうトラック・バスの新形の小型EVトラック「eCanter」

日野自動車

 2022年6月、超低床・前輪駆動の小型EVトラック「日野デュトロ Z(ズィー) EV」を発売した。荷室に直接移動可能なウォークスルーバン型、用途に応じた荷台を架装できるキャブシャシ型がある。
 ウォークスルーバン型では、総重量:3.49トン、最大積載量:1トン、リチウムイオン電池(容量:40kWh)、航続距離:150kmである。普通充電と急速充電(CHAdeMO方式)に対応している。

 しかし、2022年8月、エンジン性能試験を巡る不正により、商用車の電動化を目指すコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー(CJPT)から除名され、EVトラック、EVバスなどの拡販が大きく遅れる可能性がある。

図2 日野自動車の小型EVトラック「日野デュトロ Z EV」

いすゞ自動車

 2023年3月、いすゞ自動車は小型EVトラック「ELF-EV」の量産を、今年夏から発売すると発表した。韓国LG Energy Solution製リチウムイオン電池(容量:40~100kWh)を搭載し、短距離の宅配などでの使用を想定している。蓄電池の温度管理を自動で行い寒冷地での走行も可能としている。

 普通免許で運転可能な総重量3.5トン車がLIB2個搭載(40kWh)、5トン限定準中型免許で運転可能な総重量5トン車がLIB3個搭載(60kWh)、準中型免許や8トン限定中型免許で運転可能な総重量7.5トン車がLIB5個搭載(100kWh)、普通充電と急速充電にも対応し、航続距離:最大170kmである。

図3 いすゞ自動車の小型EVトラック「ELF-EV」

HW ELECTRO(株)

 スタートアップ企業のHW ELECTROは、2021年7月に小型商用EVトラックを発売した。最大積載量:0.4~0.65トンの「ELEMO(エルモ)200」(容量:26kWh)は普通充電で満充電まで約8時間、航続距離:200km、ボックスタイプで347.6万円(税込)である。
 また、最大積載量:0.35トンの「ELEMO-K」(蓄電池容量:13kWh)は満充電まで約6時間、航続距離:120km、両側スライドドアタイプで325.6万円(税込)である。

図4 HW ELECTROの小型EVトラック
ボックスタイプ「ELEMO 200」

中国のEVトラック事情

 2021年、中国の新エネルギー車両(NEV:New Energy Vehicle)販売台数は、前年比で2.5倍の350万台以上に急増し、世界合計の半分以上を占めた。(NEVとはBEV、FCEV、PHEVの3車種)この中でNEV大型トラック販売台数は1万台以上となり、前年比で4倍に成長した。

 急成長の要因は、新エネルギートラクター(トレーラー型牽引トラック)の需要増加と、2022年末でのNEV補助金の終了である。新エネルギートラクターは充電ネットワークだけに頼らず、充電とバッテリー交換の両方が可能なモデルで、運行ルートが一定で長距離運行がない用途で人気が高い。

 2021年のNEV大型トラック部門では、大型EVトラックが92.36%を占め、大型FCEVトラックは7.46%(約800台)、ディーゼルハイブリッド大型トラックは0.18%であった。

 主要メーカーとしては、三一重工(Sany)、鄭州宇通客車(Yutong)、漢馬科技集団(Hanmag Technology)で、それぞれ1000台以上を売り上げ、3社で約40%のシェアを占めた。人気のSany EV550トラクターは蓄電池交換が可能で、航続距離は200km、電費は170 kWh/100 kmである。

 大型EVトラックは大きな駆動力が必要なため、高出力モーターと大容量蓄電池を搭載する必要がある。そのため(エンジン車に比べて)車両の製造コストが高くなり、初期投資が大きい。また、車載電池が大きければ車両の重量が増え、貨物の積載量が減ってしまう。大容量の電池は充電時間も長くなる。車両の積載効率と運用効率が追求される商用車において、大型EVトラックは多くの点で不利と見なされてきた。

だが電池交換式の大型EVトラックなら、用途次第ではEVの長所を活かしつつ、短所をカバーすることが可能だ。と言うのも、電池交換式はトラック本体と電池モジュールを別々に販売できるからだ。

トラック本体には電池が搭載されていないので、ユーザーの導入コストを低減できる。その一方、電池モジュールはリース方式で導入すれば、ランニングコストの電気代は(ディーゼルエンジン用の)軽油代よりも安い。さらに、電池モジュールは短時間で交換できるように設計されているため、充電時間の長さの問題も解決する。

「短距離輸送に(特化して)使う場合、電池交換式の大型EVトラックを導入して5年間運用した時の総コストはディーゼル車を下回る」。大型EVトラックの交換電池サービスを手がける企業の担当者は、そう説明する。

売れないEVトラック問題

 日経クロステックが「導入台数は世界でわずか450台程度、しかも5年間で」と報じた。これは、三菱ふそうトラック・バスが開発した小型EVトラック「eCanter」のリース販売実績で、2017年7月に生産を開始し、2022年9月時点までの数字である。
 EVトラックが売れない理由は容易に推察できる。顧客である物流・輸送会社の利益が減る可能性があるからで、EVトラックはエンジンを搭載する通常のトラックと比べて価格は高く、車両は重くなる。これは搭載する蓄電池の価格と重量によるところが大きいと結論付けている。

 誠に正しい推察である。そのため物流大手は、安価な中国製EVトラックの導入に手を出している。しかし、何のためにEVトラックを開発し、事業化を進めているのか?日本のEVトラックは世界のメーカーに比べて、周回遅れで販売を開始したのである。少し過去を振り返って考えてみよう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました