EVトラックは売れるのか?(Ⅱ)

自動車

 国内でもトラック規制が始まり、EVトラック需要は高まるため間違いなく売れる。実際に、2021年から国内物流大手のEVトラック導入が始まったことからも明らかである。ラストワンマイル輸送でのEVトラック導入に始まり、用途に応じて中・長距離輸送、FCEVトラックにまで市場は拡大する。

 日本はトラック規制が遅れたこともあり、ダイムラー・トラック傘下の三菱ふそうトラック・バスを除けば、EVトラックのラインアップは圧倒的に遅れている。今後、海外トラックメーカーとのEVトラック、FCEVトラックの技術提携や製品輸入が進むであろう。国内トラックメーカーの奮起を期待したい。

トラックのCO2排出量規制

欧米でのトラック規制

 欧州(EU)における1990年の運輸部門のCO2排出量はEU全体の15%であったが、2018年には25%に拡大した。トラックやバスなどの大型車の排出量はEU全体の6%を占める。そのため、EUは大型トラックのCO2排出量を2030年までに2019年比で30%削減する方針を示した。
 一方で、米国カリフォルニア州は、2045年までに全てのトラックをBEVあるいはFCEV(燃料電池車)にする規制を導入した。

 2023年2月、EUの欧州委員会は、トラックやバスといった大型車の新しい排出規制案を公表した。2030年以降に新車販売される大型車はCO2の排出を2019年比で従来の30→45%削減へ、2035年は65%削減、2040年以降は90%削減とする内容で、今後、欧州議会での議論を経て成立を目指す。
 都市部を走る市バスは、2030年以降に導入する場合は全てゼロエミッション車にするよう提案された。市内を走るバスのEV化は普及しつつあるが、長距離を走るトラックはFCEV化が主流になるとみられる。メーカーは対応を迫られるが、政府も水素ステーションの整備などを進める必要がある。

 これらの規制に対応して、世界最大の商用自動車メーカーであるダイムラー・トラックは、CO2ニュートラルな輸送の実現を掲げて、2030年までに全セグメントでCO2ニュートラルモデル(EVトラック、FCEVトラック)を提供し、EU30か国での販売率を最大60%とすることを目標としている。
 また、2039年までに欧州、日本、北米の主要3市場で、全ての新型車両の走行時にCO2ニュートラル化を目標とし、2050年までに公道でのCO2ニュートラルな輸送の実現を掲げている。

 また、EUでダイムラーのトラック部門と市場を二分するボルボ・トラックスは、2030年に欧州で販売するトラックの半分をEVトラックに、VW傘下のスカニアは2030年までに販売するトラックの半分をEVトラックにする目標を掲げている。

日本でのトラック規制

 2020年における日本の運輸部門のCO2排出量の割合は、日本全体の17.7%で、うち貨物自動車は運輸部門全体の39.2%を占める。貨物自動車のCO2排出量は、日本全体の6.9%である。そこで、2021年6月に、2020年12月に策定した「グリーン成長戦略」の見直し案が示されて決定された。
 日本のトラック規制は2021年6月に初めて具体的に設定されたが、欧米に比べて圧倒的に遅れた。

 すなわち、トラックやバスの商用車に関し、8トン未満の小型商用車は2030年までに新車販売の20~30%をBEV、HEV、FCEVに置き換えていく目標を新たに設定し、2040年までの段階で、新車の全てを電動車か、合成燃料など脱炭素燃料を用いる車両のいずれかに切り替える方向性を示した。
 また、8トン以上の大型商用車は電動車の開発・利用促進に向け技術実証を進め、2020年代に5000台の先行導入を目指すと明記した。また、水素や合成燃料などの価格低減に向けた技術開発・普及の取り組みの進捗状況を考慮し、2040年時点の電動車の普及目標を2030年までにまとめる方針を示した。
 このほか、2030年までにBEV用の充電スタンドを現状から5倍の15万基FCEV用水素供給設備は6倍の1000基程度まで増設することも明記した。

 これを受け、2022年4月、全日本トラック協会は「トラック運送業界の環境ビジョン2030」を発表。メイン目標「トラック運送業界全体の2030 年のCO2 排出原単位を2005 年度比で31%削減」、サブ目標「総重量8トン以下の車両について2030年における電動車の保有台数を10%とする」を掲げた。

 日本はトラック規制が遅れたこともあり、ダイムラー・トラック傘下の三菱ふそうトラック・バスを除けば、トラックメーカーのEV化は圧倒的に遅れている。今後、海外トラックメーカーとのEVトラック、FCEVトラックの技術提携や製品輸入が進むであろう。

海外メーカーの動向

ドイツのダイムラー・トラック(Daimler Truck Holding )

 ドイツ・シュトゥットガルトに本社を置き、傘下にはドイツのメルセデス・ベンツ・トラック米国フレイトライナー米国ウェスタン・スター・トラックス 、三菱ふそうトラック・バスなどを有する。

 2018年から現在までに8機種の量産型EVトラックを市場投入している。
 2021年に生産開始のメルセデス・ベンツ製の大型EVトラック「eアクトロス300/400」は、容量300kWhの高電圧蓄電池で航続距離300kmの「300」、容量400kWhで航続距離400kmの「400」である。2022年に生産開始の低床キャブ大型EVトラック「eエコニック」も、基本的に同様の仕様である。
 その他、メルセデス・ベンツから航続距離500kmを実現する大型EVトラック「eアクトロス ロングホール(eActros LongHaul)」、中型EVトラックeアテゴ(eAtego)」、三菱ふそうブランドからは小型EVトラックeキャンター(eCanter)」の欧州仕様などが市販されている。

図7 メルセデス・ベンツ製の大型EVトラック「eアクトロス300/400」 

 ダイムラートラックは「デュアルアプローチ」として、EVトラックと共に水素を燃料とするFCEVトッラク開発も進めている。試作FCEVトラック「GenH2」の公道試験も実施し、航続距離1000km以上を目指している。特に、長距離の重量物輸送において期待され、2020年代後半の量産化を計画する。

スウェーデンのボルボ・トラックス(Volvo Trucks)

 EVトラックは、スウェーデン・ヨーテボリにあるトゥーべ工場で製造されている。2023年にはベルギーのゲント工場が続き、蓄電池はゲントに新設された蓄電池組み立て工場から供給される。大型EVトラックを約1000台、EVトラック全体では2600台以上を販売し、欧州市場で急速に伸びている。

 EVトラックは6車種を市場投入している。現在、同社の主力である44トン級の大型トラックの電動化バージョン「FHエレクトリック」「FMエレクトリック」「FMXエレクトリック」「FEエレクトリック」の量産を開始している。最大航続距離は440kmである。
 電気モーターとトランスミッションを統合してコンパクト化したeアクスルを開発しており、より多くの蓄電池の搭載を可能としている。

図6 ボルボ・トラックスの大型EVトラック「FMエレクトリック」

 2020年12月、米国バージニア州ダブリンのニューリバーバレー組立工場での、大型EVトラック「VNRエレクトリック」の製造を発表した。蓄電池(250kW)を搭載し、6蓄電池仕様の充電時間は90分、4蓄電池仕様の場合は60分で蓄電池容量の80%を充電できる。航続距離:最大440kmである。
 車両総重量15トンの1軸ストレートトラック、連結車両総重量33トンの4×2、41トンの6×2の3種類で、電気モーターは定格出力400kW、低速操縦性が高く効率的に加速できるEV用2速変速機を備える。

 ボルボ・トラックスはゼロエミッションに向けて、EVトラックFCEVトラック、そしてバイオガスやグリーン水素、HVO(水素化植物油)で動作するエンジントラックの3つの戦略を持つ。気候変動問題への対応策は、国や地域のインフラによって異なるためとしている。

米国ニコラ(Nikola)

 2015年設立のニコラ(Nikola)コーポレーションは、米国アリゾナ州フェニックスに本社を置き、 2020年9月にはGMと戦略的提携を締結し、燃料電池技術を含めてGMの次世代EVパワートレインの供給を受け、アリゾナ州クーリッジの工場でEVトラックの開発・製造を進めてきた。

 2021年12月、市販EVトラック「Tre(トレ)」の第一号車を、南カリフォルニアの港湾トラック企業、トータル・トランスポーテーション・サービスに納入した。2022年は300〜500台のトレを納入し、2023年も生産量は増加するとしている。
 「トレ」には、リチウムイオン電池(容量:753kWh)を搭載しており、80%充電には2時間を要し、航続距離:563km、最高速度:120km/hである。

 2022年8月、リチウムイオン電池を製造するロメオ・パワーの買収を発表した。

図5 米国ニコラの大型EVトラック「トレ」

 一方、トレの燃料電池バージョンFCEVトラック「Nikola One」も市販する計画で、リチウムイオン電池(容量:320kWh)と燃料電池を搭載し、最長1930kmの連続走行を可能としている。車体重量はディーゼルトラックに比べて約900kgほど軽く、その分、荷物を多く積むことができます。
 燃料電池で蓄電池を自動的に充電するため、燃料電池を停止しても満充電であれば160~320kmを走行できる。蓄電池は、テスラと同様の汎用「18650サイズ」のバッテリーセルを多数連結している。

米国テスラ(Tesla)

 2023年4月、大型EVトラック「Semi(セミ)」や低価格帯の車種で価格の安いLFP(リン酸鉄)系蓄電池の導入を拡大すると発表した。2022年12月には、ニッケル系蓄電池を搭載し、航続距離800kmの長いセミの販売を開始し、航続距離480kmの車種の市場投入計画を明らかにしている。

 現在、米国内で販売しているモデル3とモデルYの大半はニッケル系蓄電池を搭載しているが、基本計画では航続距離の短い大型トラック「セミ・ライト」に、低コストで発火リスクは小さいが、単位重量当たりのエネルギー容量の引くLFP蓄電池を導入する方針を示した。

図6 米国テスラの大型EVトラック「Semi」

中国のEVトラック事情

 2021年、中国の新エネルギー車(NEV)販売台数は、前年比で2.5倍の350万台以上に伸び、世界合計の半分以上を占めた。その中で初めてNEV大型トラックが1万台以上売られ、前年比で4倍に急拡大した。(NEVは、BEV、FCEV、PHEVの3機種を指し、HEVは含まれない。)

 大型トラック部門において、大型EVトラックは92.36%を占め、大型FCEVトラックは7.46%のシェア、ディーゼルハイブリッド大型トラックは0.18%のシェアであった。

 2021年のNEV大型トラック急増の原因は、蓄電池交換式の新エネルギートラクター(トレーラー型牽引トラック)の需要増加2022年末でのNEV補助金の終了である。一定の運行ルートで構築された充電ネットワークだけに頼らず、充電と蓄電池交換の両方が可能なモデルが人気を集めた。

 蓄電池交換式はトラック本体と蓄電池を別々に購入できるため、初期導入コストを低減できる。蓄電池をリース方式で導入すれば、ランニングコストはディーゼルエンジンの軽油費よりも安く、蓄電池交換に要する時間は充電時間に比べて圧倒的に短時間である。

 NEV大型トラック市場の主要メーカーは三一重工(Sany)、鄭州宇通客車(Yutong)、漢馬科技集団(Hanma Technology)で、それぞれ1000台以上を売り上げ、3社合計で約40%のシェアを占めた。人気のSany EV550トラクターは蓄電池交換式で、航続距離200km、電費170 kWh/100 kmである。 

 一方、大型FCEVトラックは、中国が燃料電池車シティ・クラスター計画を2021年に始めたことに起因し、2020年の18台から2021年の約800台まで急増している。また、大型FCEVトラックを製造販売する企業も、2020年の5社から11社に急増している。
 2021年に出てきた南京金龍(Nanjing Kinglong)のは、売り上げの半分を大型FCEVトラックが占め、売られた車両は山東省、河北省、広東省、内モンゴル自治区、湖南省での実験版シティ・クラスター内や北京、上海などを走行している。

結論:EVトラックは売れる

 国内でもトラック規制が始まり、EVトラック需要は高まるため間違いなく売れる。実際に、2021年から国内物流大手のEVトラック導入が始まったことからも明らかである。ラストワンマイル輸送でのEVトラック導入に始まり、用途に応じて中・長距離輸送、FCEVトラックにまで市場は拡大する。

 問題はEVトラックの価格である。安価な蓄電池をベースとした低コストの中国製EVトラックが導入されて実績を積むと、出遅れた国内メーカーは太刀打ちできずに敗退することは目に見えている。政府は法規制とともに、国内産業育成のための支援をタイムリーに発動する必要がある。

 また、欧米メーカーは長距離輸送用のFCEVトラックもスコープに入れて、用途に応じて選択可能なゼロエミッション・トラックのラインアップを進めている。日本はFCEV(乗用車)の開発で先行したが、FCEVトラックは実証試験に留まっている。海外からの技術導入・製品輸入となるのは悔しい。

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