電気自動車用蓄電池の供給状況(Ⅶ)

自動車

 欧米ではLIBリサイクルの専業企業が現れてEVメーカーとの提携が進められ、中国・韓国では車載用蓄電池メーカーとリサイクル専業企業の提携が進み圧倒的なリサイクル処理量を実現している。日本では使用済みLIBの回収システムが十分ではなく、リサイクル専業企業が技術開発を独自に進めている。

使用済み蓄電池のリサイクル

 2017年12月、米国は大統領令で希少金属の確保を指示し、コバルトなど35種類を重要鉱物に指定してリサイクルや資源発掘を進める方針を示した。2019年2月、米国DOEの予算でリサイクル研究拠点をイリノイ州に新設し、使用済みリチウムイオン電池から希少金属を取り出す技術開発を加速している。

 一方、欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は、車載用蓄電池に関して新たな「電池規則」の導入を進めている。蓄電池のライフサイクルでみたCO2排出量の削減を求めており、今後、低炭素・低コストに加えてリサイクルが容易なグリーン電池の開発が求められる。

 そのため、再生可能エネルギーの導入で先行する欧州域内で蓄電池を製造することが有利になる。地球温暖化への対策と同時に、BEVの心臓部である蓄電池関連のEU内産業を保護・強化する狙いである。

 2020年12月、欧州委員会が示した蓄電池規制案は、LIBに使う希少金属のリサイクル比率を2030年までにコバルトは12%、リチウムとニッケルはそれぞれ4%とした。2024年7月以降、蓄電池の「カーボンフットプリント」(CO2総排出量)の提示なしでは、EU域内での蓄電池やBEV販売が不可となる。

 また、CO2排出量が一定量以上の蓄電池の流通を制限するため、鉱石を採掘・精鉱する段階から蓄電池の製造工程を見直し、使用済み蓄電池のリサイクル技術も抜本的に変え、正極材料の生産とリサイクル時のCO2排出量をそれぞれ従来比で5割減らし、2030年には業界全体で8割減を目指している。

欧米での蓄電池リサイクル

 既に、欧米では多くの金属リサイクル企業が使用済み蓄電池のリサイクル事業を進めている。

 欧州では、ベルギーのホーボーケンにある素材メーカーUmicore(ユミコア)が、世界最大級のリチウムイオン電池、ニッケル水素電池の専用リサイクル施設(処理量:7000トン/年、EV蓄電池:約3万5000個相当)を保有している。売上高のうち約20%をリサイクル事業が占めている。
 ユミコアでは、乾式精錬と湿式精錬を組み合わせて、コバルト、ニッケル、銅の抽出と合わせ、スラグからリチウムとレアメタル(稀少金属)を回収している。

 2020年6月、スウェーデンのLIB製造のNorthvolt(ノースボルト)とアルミニウム製造のHydro(ハイドロ)が、車載用LIBをリサイクルするための合弁会社を設立した。ノルウェーにパイロット工場を立ち上げ、回収された使用済みLIBの破砕と分別を行い、電極材料とアルミニウムを回収する。
 2022年には、スウェーデンの工場敷地内に量産規模(処理量:8000トン/年、EV蓄電池:2万台以上)のリサイクル施設を設置する計画を発表している。

 ドイツのフォルクスワーゲンは、LIBリサイクルの自社技術構築を目指して、同社のSalzgitter工場のパイロットライン(処理量:1200トン/年)を2020年内に稼働する。長期的には各拠点に大規模設備を分散設置し、自社のリサイクルによりEVが搭載するLIBの97%の原料回収を目指すとしている。

 米国Retriev Technologies(リトリーブ・テクノロジーズ)は、2002年からカナダのブリティッシュコロンビア州トレイル工場(処理量::1200トン/年)でLIBリサイクルを行っており、コバルト、ニッケル、銅を回収している。2015年には米国のオハイオ工場を拡張している。

 2021年2月、丸紅とリトリーブ・テクノロジーズは、LIBのリサイクルに関する事業開発に係わる戦略的パートナーシップ契約を締結した。廃電池からコバルトやニッケルを精製し、電池材料分野向けに活用する事業を共同で開発する。

 2022年1月、テスラモーターズの米国ネバダ州スパークスのギガファクトリーで、パナソニックからスクラップや使用済み蓄電池を回収しているRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)が、パナソニックに正極用銅箔の供給を2022年に開始すると発表した。

 ネバダ州カーソンが拠点のレッドウッド・マテリアルズは、35億ドルを投じてギガファクトリー近くの新工場で2024年に負極材料、2025年までに正極材料の生産を開始し、100GWh/年の蓄電池製造に必要な量を生産し、原材料供給のみならず蓄電池の再生産も目指している。
 提携先はパナソニックの他に、フォード・モーター、フォルクスワーゲン、アウディ、トヨタ自動車、ボルボ、プロテラなどが相次いで発表している。

 2021年9月、フォード・モーターと韓国のSKイノベーションはテネシー州とケンタッキー州で2025年稼働に向けて電池工場を計画しており、同工場で使用済み蓄電池をリサイクルする仕組みをレッドウッドマテリアルズと立ち上げることを発表している。

 カナダ・ケベック州のLithion Recycling(リチオン・リサイクリング)も、使用済みLIBからレアメタルなどを約95%回収できる技術を保有し、EV用蓄電池を200トン/年処理できる試験プラントを持つが、2022年中にも処理能力を7500トン/年に増強して商業運転に移行すると発表している。

また、カナダではAmerican Manganese (アメリカン・マンガネーゼ)が、本来は低品質マンガン鉱を処理するために開発された技術を活用して、使用済み蓄電池に含まれるリチウムの他、コバルト、ニッケル、マンガン、そしてアルミニウムも100%の回収を目指している。

中国・韓国における蓄電池リサイクル

 中国には20社以上、韓国には少なくとも6社のリサイクル処理業者が存在する。国外からの使用済み電池の調達を含めて、2018年に中国で6.7万トン、韓国で1.8万トンが処理され、世界のリサイクル可能な電池在庫の88%に相当する。韓国で再生処理された正極材料のほぼ全量は中国で製品化されている。

 中国の大手LIBリサイクル企業は格林美(GEM)、湖南邦普循環科技(Hunan Brunp Recycling Technology)、Huayou Cobalt New Material、Highpower Technology、Guanghua Guanghua Sci-Techの5社が知られている。

 2015年、中国車載電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は、湖南邦普循環科技を傘下に収め、2018年に3万トンの使用済み蓄電池をリサイクル処理している。その湖南邦普循環科技は第二工場(8.5万トン/年)の増設計画を公表している。
 2021年10月、CATLは使用済み蓄電池のリサイクル工場を国内で新設すると発表した。総投資額は最大320億元で、自社向けにリン酸鉄リチウムなどの原料を回収し再利用できるようにする。

 2020年4月には、GEMと韓国EcoProが合弁会社を設立し、中国CATLの拠点である寧徳に4.8万トン/年のリサイクル工場設立を発表している。

日本における蓄電池リサイクル

 2015年から、本田技研工業はLIBリサイクルの処理費低減を目指し、高付加価値なニッケル水素電池や水素貯蔵設備などに活用する資源ダイレクトリサイクルを検討している。松田産業や日本重化学工業などと共同で、回収された正極材(Ni、Co)の水素吸蔵合金の基本性能を確認している。

 その後、2018年10月から日本自動車工業会に各自動車メーカーが参画し、EVに搭載されているLIBの共同回収を開始している。
 しかし、LiB共同回収システムにより回収されたEV電池は、2020年度はわずか3648台分であり、同年度のEV国内販売台数は約1万4000台であり、回収率は26%程度に留まっている。今後、リサイクル処理能力を高めると共に、使用済み蓄電池を回収する仕組みの整備が急務である。

 2019年4月、住友鉱山は使用済み蓄電池を砕いた電池粉を加熱し、乾式精錬により不純物を一括して分離した後、ニッケル、コバルト、銅を合金として選択的に回収する。その後に湿式精錬で合金を溶解・精製してニッケル、コバルト、銅を単離する技術を構築している。

 2010年からEV車載蓄電池のリユース・リサイクル事業に取り組んできたトヨタ自動車は、2019年7月に、中国CATLと新エネルギー車(NEV)向け蓄電池で包括提携した。蓄電池の供給だけでなく、新技術の開発やリユース・リサイクルなど幅広い分野での検討を始めている。

 2020年から、JX金属は日立市の事業所で車載用LIBを熱処理で無害化して電池粉を生成し、ニッケルとコバルトを硫酸で浸出後、溶媒抽出技術により硫酸コバルトと硫酸ニッケルを抽出する湿式精錬を進めてきた。2022年夏にも正極材料向けに硫酸コバルトの生産を開始する。

 2021年6月、DOWAホールディングスは秋田県大館市のグループ会社(エコシステム秋田)の焼却施設で大型車載用LIBを解体せずに不活性化する前工程を採用し、再資源化ラインで鉄、アルミニウム、銅、コバルト・ニッケル混合物などに分離回収し、再資源化することを公表している。
 2021年8月、車載用LIBのリサイクル事業および電池材料事業を推進するため、新会社「JX Metals Circular Solutions Europe」(JXCSE)をドイツ・フランクフルトに設立した。また、2022年6月には、フォルクスワーゲンとドイツでLIBリサイクルに向けた実証実験の開始を発表している。

 2021年12月には、日産自動車は2022年度に欧州、2025年度に米国に車載用蓄電池のリサイクル工場を新設すると発表した。住友商事と共同出資する子会社のフォーアールエナジーと蓄電池のリユース/リサイクルを行う。

 2022年1月、関東電化工業(株)の湿式精錬法を用いて LIB用電解液に再利用可能な高純度リチウム化合物を取り出す技術を確立した。2021年10月から、実用化に向けてトンレベルでの技術開発や実証試験を開始する。2022年をめどに、使用済みLIBを対象とした再資源化を事業化する。 

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