動き始めたEVの低価格化(Ⅲ)

自動車

 米国・中国・韓国の大手EVメーカーは、ボリュームゾーンである大衆車の低価格化を推進しており、今後の競争激化が予測される。一方、国内では軽EVに注目が集まり、自動車メーカーは配送業のラストワンマイル向け商用軽EVの商品化を推進しており、2024年には各社の軽EVが出揃う状況にある。

軽EVの商品化

中国の上海汽車集団

 2021年に59.6万台を販売した上海汽車集団はEV比率が21%で、自社で大衆ブランド「栄威」などのEVを販売している。一方で、米国GM・上汽通用五菱汽車との合弁会社で安価(約50万円)な「武陵宏光MINI EV」を開発し、42.4万台(総販売量の71.2%)を販売する。
 ブレーキの簡素化、汎用半導体の活用など機能削減で低価格を実現、中国の地方都市を中心に販売。

ASFと中国の広西汽車集団

 2022年9月、広西汽車集団系が日本のEV設計企業ASFと組み、2023年に商用軽EVバン(積載重量:350kg)のリース販売を公表。ASFが設計・開発した電動機1基の後輪駆動車で、CATL製のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)蓄電池を搭載し、航続距離:244kmである。傘下の柳州五菱新能源汽車が生産する。
 日本での販売窓口はASFで、国内の物流企業へ販売する。また、日本ロードサービス(JRS)と提携し、国内200カ所以上のサービス拠点で保守・整備を請け負う。

 2023年5月、ASFが販売する商用軽EVバン「ASF 2.0」について、コスモ石油マーケティングは「コスモMyカーリース」での取り扱いを始めた。日本の補助金を適用すると150万円以下と低価格で、リース形式で販売する。自動ブレーキなど各種の予防安全機能も搭載している。
 現在、佐川急便とマツキヨココカラ&カンパニーが合計で約40台を導入している。佐川急便は現在運用しているガソリン車の商用軽(約7200台)を、すべて新型車に入れ替える計画である。

図5 商用軽バン電気自動車「ASF2.0」 出典:AFS

日産自動車

 2022年6月、日産自動車と三菱自動車が、軽EVの発売を発表した。日産自動車「サクラ」三菱自動車「eKクロスEV」は、蓄電池容量:20kWhを抑えて、航続距離:最大180km、価格:230~290万円台(国からの補助金は最大55万円)と低価格を実現した。

 2023年4月、国内メーカーのEV販売台数の順位は、2022年6月発売の日産自動車「サクラ」がトップで約3.3万台で、2位は「リーフ」で約1.3万台で、3位は三菱自動車「eKクロスEV」で約7700台が売れた。多様な顧客ニーズに合わせたラインアップが重要であることが再認識された。

図6 日産自動車の軽EV「サクラ」

三菱自動車

 2022年11月、ワンボックスタイプの商用軽EV「ミニキャブ・ミーブ」の一般販売の再開を発表した。2011年に発売後、2021年3月に終了したが、物流業界や自治体からの需要が増えたためとしている。
 駆動用蓄電池(容量:16kWh)と、小型・軽量・高効率な電動機など実績のある「アイ・ミーブ」のEVシステムを搭載し、航続距離:133km、価格は243.1万~245.3万円(税込)である。

図7 三菱自動車の「ミニキャブ・ミーブ」 CD 16.0kWh 2シーター

本田技研工業

 2023年10月、GMと進める量販価格帯のEV共同開発の中止を発表した。価格を抑えたEVを、2027年以降に世界で販売する予定だったが、両社が独自に手がける方が合理的と判断した。2024年に「プロローグ」を北米で販売する計画は変わらず、高級車や無人タクシーを含む連携は継続する。 

 2023年10月、ヤマト運輸と本田技研工業は、交換式電池による商用軽EV「MEV-VAN Concept(エムイーブイバン コンセプト)」による集配業務の実証実験を始めた。群馬県内に1台を導入し、順次増やす。モバイルパワーパック8本を搭載し、日中に太陽光で発電した電力を充電する。
 交換式電池は充電式に比べてインフラ整備が容易で、充電に伴う車両の待機時間の削減や電力使用ピークの緩和が可能となり、集配効率を高めることができる。2024年春に発売予定の「N-VAN e:」は、最大積載重量:300kg、航続距離:210km以上、価格はガソリン車と同水準の100万円台を目指している。

 交換式電池の搭載例:
■2022年10月、本田技研工業は、EVバイク向けに手動の電池交換ステーション「Honda Power Pack Exchanger e:」(全幅960×全高1820×奥行758mm)の販売を開始した。電池シェアリング事業のガチャコに納品され、1台目が東京都庁傍の西新宿第四駐車場で稼働を開始した。
建機メーカーのコマツと共同開発した電動小型ショベルに交換式電池が搭載されている。コマツは小規模な土木・建築工事や配管工事などでのニーズを見込んでいる。
交換式電池は中国やインドなど新興国で普及している。中国の新興EV大手、上海蔚来汽車(NIO)は充電設備の設置と並行し、電池を交換する拠点を増やしている。

図8 交換式電池による軽商用EV「MEV-VAN Concept」 
出典:ヤマト運輸

スズキ自動車

 2023年1月、2030年度までにEVなど電動車開発に2兆円(うち5000億円は電池関連)を投資すると発表した。資本提携するトヨタ自動車との協業を深めながら、EVでの出遅れの挽回を狙う。
 主力市場インドでは、2024年度からSUVや軽EVを6車種投入し、2030年度までにEV比率を15%に高める。2025年までに西部グジャラート州でEV工場、2026年までに蓄電池工場を稼働。
 日本では小型SUVや軽EVを6車種投入する。2023年度中にトヨタやダイハツと共同開発した商用の軽EV発売に加えて、乗用車のラインナップを強化する。欧州でも5車種を発売する。日本では新車販売の2割、欧州では8割をEVにする。二輪車では8車種を発売し、EV販売比率を25%まで高める。

ダイハツ工業

 2023年5月、スズキ自動車、ダイハツ工業、トヨタ自動車は、3社で共同開発してきた蓄電池EVシステムを搭載した商用軽EVバンのプロトタイプを公開した。航続距離は200km程度を見込み、車両はダイハツ工業で生産が行なわれ、各社が、それぞれ2023年度内に販売を予定する。
 その企画には、CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)も参画して、効率的なラストワンマイル輸送に最適な仕様を追求し、配送業などのユーザーのニーズに応える車両を目指している。

図9 G7サミット展示イベントで公開された商用軽EVバン

HW ELECTRO

 スタートアップのHW ELECTROは、2021年7月に小型商用EVトラック「ELEMO(エレモ)」を発売。米国に本拠を置く中国系自動車メーカーの杭州容大智造科技のEVをベースに開発した。
 最大積載量:0.4~0.65トンの「ELEMO(エルモ)200」(蓄電池容量:26kWh)は、普通充電で満充電まで約8時間、航続距離:200km、ボックスタイプで347.6万円(税込)である。

 また、最大積載量:350kgの「ELEMO-K(エルモ・ケー)」(蓄電池容量:13kWh)は満充電まで約6時間、航続距離:120km、両側スライドドアタイプで249.7万円(税込)である。
 現在、航続距離を200kmまで伸ばし、価格を200万円程度(税別)に抑えた新型商用軽EV「PUZZLE(パズル)」のコンセプト車を、「ジャパンモビリティショー2023」で公開。2025年春までの発売を目指す。

図10 HW ELECTROの小型EVトラック
ボックスタイプ「ELEMO 200」

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