電気自動車用蓄電池の供給状況(Ⅴ)

自動車

 2020年代前半としてきたBEV用「全固体LIB」の量産時期が、2020年代後半にずれ込む可能性が出てきた。一方、テスラモーターズやフォルクスワーゲンはLIB製造プロセスの合理化を進め、製造設備への投資軽減、製造コスト削減、CO2排出量の削減を着実に進めている。蓄電池戦略の見直しが必要か?

次世代蓄電池『全固体電池』とは?

 リチウムイオン電池(LIB)を超える高容量の革新電池の開発が、2030年頃の実用化を目指して進められている。可能性がある蓄電池として「リチウム硫黄電池」、「金属負極電池」、「全固体電池」、「金属空気電池」などがあげられている。中でも、全固体電池への期待度は高い。

全固体電池とは?

 現行のLIBは、正極材料にコバルト酸リチウム(LiCoO2)やニッケル酸リチウム(LiNiO2)など、負極材料に炭素(黒鉛)が採用されており、エネルギー密度は250Wh/kg程度、500Wh/L程度である。

 一方、全固体電池である全固体リチウムイオン電池(全固体LIB)は、従来のLIBに使用されている液体電解質の代わりに、セラミックスなどの固体電解質を使用する。そのため全固体LIBでは電解液とセパレーターが不要となり、正極活物質や負極活物質に、より高容量な材料の適用が可能となる。

 全固体LIBは安全性や超急速充電(10分以下)性能が向上し、寒冷地でも性能が落ちにくいなどの特性を目指しており、単純に固体電解質に変えるだけではエネルギー密度は高くならない。そのため次のように、様々な正極材料と負極材料との組合せが検討されている。

  • 正極材料は既存のコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどに加え、高容量な硫黄を用いた「リチウム硫黄電池」やスピネル型リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物などの検討も進められている。
  • 負極材料には既存の炭素(黒鉛)が主流であるが、チタン酸リチウム、シリコン系などに加え、スズやアルミニウム、非常に高容量な金属リチウムなどを用いた「金属負極電池」の検討も進められている。
  • 固体電解質は、硫化物系、酸化物系、錯体水素化物系、高分子系について検討が進められている。最近、硫化物系固体電解質で有機電解液に匹敵するリチウムイオン導電率を示すLi10GeP2S12やLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が見出され、室温での加圧のみで電極と固体電解質の接合が可能なことから注目を集めている。

全固体電池の開発状況

 2018年9月、NEDO事業「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」の第1期(2013~2017年度)に続き、企業23社が参加する100億円規模の第2期(2018~2022年)の全固体電池開発プロジェクトが、技術研究組合「リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)」のもとで発足した。

 全固体電池の製品化では、2019年2月、日立造船(株)が硫化物系固体電解質を用いた全固体LIB「AS-LiB」をサンプル出荷し、少量生産を開始した。2021年3月、容量:1000mA/h、エネルギー密度:約 91Wh/L、動作温度:-40~+100℃を発表し、人工衛星など特殊環境下の需要を想定している。

 2021年5月、日本特殊陶業(株)が酸化物系固体電解質(Li7La3Zr2O12)を用いた全固体LIBを発表した。容量:0.5~10Wh、エネルギー密度:300Wh/Lで、動作温度:-30~105℃で(株)ispaceの民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」に参画し、2022年打ち上げの探査機に搭載の予定である。

 しかし、現時点で全固体電池開発の先頭を走るトヨタ自動車でも、BEV用に十分なエネルギー密度、出力密度、寿命が達成できたとの発表はなく、2020年代前半とされてきた全固体LIBの量産時期が、2020年代後半にずれ込む可能性も示されている。

 実際、日産自動車が2021年11月に示した全固体電池の量産時期は2028年で、本田技研工業が2022年1月に示した全固体電池の量産時期は2030年である。

LIB製造プロセスの合理化

 一方で、2010年に設立された米国新興電池メーカーの24M Technologies(24Mテクノロジーズ)により、乾式電極技術によるLIB製造プロセスの合理化が進められている。これにより、車載用蓄電池の製造設備への投資軽減と製造コスト削減が可能となる。

 一般的なLIB製造工程を図4に示す。正極材料や負極材料に液状のバインダーを混合してスラリー状にする。得られたスラリーを金属箔(集電箔)に塗布した後、乾燥させて溶剤回収し、圧延して均一厚さのシート状とし、所定の寸法に裁断して電極とする。
 その後に正極材料、セパレーター、負極材料を交互に積層し、組立てた後にタブを溶接して容器に封入し、電解液を注液して充放電検査を行う。このうち乾燥炉は長さ50~100mの巨大な装置であり、設備投資額が莫大で、CO2排出量が多くなる原因となっている。

図4 LIBの製造工程とドライ電極技術によるプロセス合理化
出典:日経クロステック

 一方、24Mテクノロジーズの乾式電極技術は、バインダーの代わりに電解液を正極材料や負極材料と混合することでスラリー状にする。これを金属箔に塗布してバインダーの液体成分を蒸発させることなく電極にすることで、乾燥工程を省略する。
 24Mテクノロジーズは流動性のあるスラリーを用いるため「半固体電池」と称している。これにより電池製造工程を1/3に短縮し、設備投資を60%以上削減できるとしている。

 2022年1月、VWが24Mテクノロジーズに25%出資した。VWは乾式電極技術を採用することで乾燥炉を省略し、設備面積を40%削減する。また、乾燥炉で使うエネルギーの節約により、2020年代後半の大規模量産によるCO2排出量を削減し、EUの2035年CO2排出量ゼロ規制に対応するとしている。

 テスラモーターズ゙も2022年稼働するベルリン電池工場に乾式電極技術を採用するとみられ、設備面積とエネルギー消費を1/10にできるとしている。テスラの乾式電極技術は24Mテクノロジーとは異なり、2019年に買収した米国マクスウェル・テクノロジーズの技術を基にしているようである。

また、日産自動車が出資する中国エンビジョンAESCも乾式電極技術を開発しており、2025~2026年ごろに建設を予定している電池工場への導入を目指している。

ナトリウムイオン電池

 2021年7月、中国CATL(Contemporary Amperex Technology Co Ltd、寧徳時代新能源科技)は、リチウムを使わないナトリウムイオン電池(NIB)を2023年までに市場投入すると公表している。

 開発した第1世代のNIBセルの重量エネルギー密度は160Wh/kgで、一般的なリチウムイオン電池(LIB)の240~270Wh/kg、リン酸鉄(LFP)系LIBの180~200Wh/kgに比べて低い値である。しかし、急速充放電性能は一般的なLIBより高く、15分で80%以上を充電できるとしている。

 また、-20℃の低温環境でも定格容量の90%を利用できるという。-40℃でも電池として動作することが確認されている。CATLはEV向け蓄電池をNIBとLIBの並列構造にする構想を示しており、極低温環境でもNIBが動作することで走行を可能とする狙いである。

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