HEV, PHEVの駆動機構(Ⅲ)

自動車

駆動システムの発展の流れ

 図13には、最近の自動車の駆動システムの発展の流れを示す。

 現行のガソリン・軽油燃料で走るエンジン車の駆動システムは、タンクに貯めた燃料をエンジンに供給し、駆動したエンジンで車軸を回転させて走行する。この内燃式のレシプロ・エンジン自体は複雑な構造であるが、駆動システムとしては単純である。

図13 低環境負荷/燃費変革に向けた自動車の発展

ハイブリッド車の分類

 当初、エンジンのみで駆動するエンジン車の燃費改善を目的に開発されたのがハイブリッド車であり、HV(Hybrid Vehicle)あるいはHEV(Hybrid Electric Vehicle)の略称で呼ばれている。以下ではHEVの略称を用いる。

 HEVではエンジンを使って発電し、その電気を大型蓄電池に貯め、モーターで車軸を回転させて走行する。一般にシステム電圧は200V以上と高電圧が採用されている。

 HEVでは2つの動力源であるエンジンとモーターの使い方により、図14に示すように (a)シリーズ方式、(b)シリーズ・パラレル(スプリット)方式、(c)パラレル方式の3種類に分類されている。

図14 ハイブリッド車の分類とその構成

 シリーズ方式は、エンジンで発電した電力を蓄電池に蓄え、その電力でモーターを駆動させる。エンジンは発電にのみ使われ、車の駆動はモーターのみのため、走行感覚は電気自動車BEVと変わらない。充電に必要な時だけエンジンを使うため、エンジン車よりも低燃費である。
 日産自動車のノートやセレナなどの「e-POWER」に採用されている。

 シリーズ・パラレル方式スプリット方式とも呼ばれ、エンジンのほかに走行用モーターと発電用モーターを搭載している。発進時や低速時はモーターのみで走行し、高負荷時や高速走行時にはエンジンも始動させる。パラレル方式よりもエンジン駆動を抑制することができるため低燃費である。
 トヨタ自動車のプリウスや本田技研工業のフィットに採用されている。

 パラレル方式は、エンジン駆動が主体のシステムで、発進時や低速時などに補助的にモーターを駆動させて燃料の消費を抑える。蓄電池に電気がなくなるとモーターが発電機として充電を開始するため、動力源はエンジンのみとなる。構造が簡単でシステム重量が軽く、低コストである。
 本田技研工業(株)フリードの「SPORT HYBRID i-DCD」や、(株)スバル XVの「e-BOXER」などに採用されている。

 最近はHEVの低コスト化を目指す流れから、パラレル方式を発展させてエンジンを主体とし、モーターを完全に補助とするマイルドハイブリッド車が商品化されている。そのため、従来のハイブリッド車はストロングハイブリッド車(あるいはフルハイブリッド車)とも呼ばれている。

 ストロングハイブリッド車は、エンジンのみあるいはモーターのみでの駆動が可能であるが、マイルドハイブリッド車はモーターのみでの駆動はできない。このマイルドハイブリッド車は使用するモーターにより、交流モーター方式と直流モーター方式に分類される。

 交流モーター式は基本的にはストロングハイブリッド車と同じシステム構成で、走行および回生ブレーキに使用するモーターにハイブリッド用の小型蓄電池とハイブリッドカー専用の交流モーターが搭載され、システム電圧は100~200V以上である。
 ハイブリッド用の小型蓄電池は直流電圧なので、蓄電池とモーター間には交流変換器とモーター制御用のインバータが必要である。

 直流モーター式は直流電流で駆動するためのインバータが不要で、システム電圧も12Vと低圧で、電装品用の鉛蓄電池とハイブリッド用の小型蓄電池の両方を活用するシステムである。
 スズキ「ワゴンR」、「スペーシア」や「ハスラー」、三菱自動車「eKワゴン」「eKスペース」、日産自動車「デイズ」「ルークス」などに採用されている。

 また、欧州を中心にシステム電圧を48Vとし、ハイブリッド用の中型蓄電池を搭載した48Vマイルドハイブリッド車が商品化され、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン(アウディ)、BMWなどが採用を進めている。

プラグインハイブリッド車(PHEV)

 プラグインハイブリッド車は外部からも充電が可能で二次電池の搭載量を大きくしたHEVのことで、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)あるいはPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)の略称で呼ばれる。以下ではPHEVの略称を用いる。

 バッテリー充電のためにエンジンを動かす必要がなく、エンジン駆動を抑制できるため低燃費である。走行時には外部からの電力を積極的に利用し、数十km程度の短距離走行は BEV 走行を行い、長距離になれば HEV 走行に移行する方式が一般的である。
 トヨタ自動車のRAV4 PHV、プリウスPHVや、三菱のアウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEVなどに採用されている。

 最近では、BEVの航続距離を伸ばす目的でレンジエクステンダーBEVが開発されている。しかし、基本的にはシリーズ方式のハイブリッド車である。レンジエクステンダーBEVは大型蓄電池を搭載しており、エンジンは補助的に使われている。

 以上の開発経緯から、ハイブリッド車はエンジン車から電気自動車(BEV)あるいは燃料電池自動車(FCEV)への過渡的な“つなぎ”の役割りであることは明らかである。しかし、予想以上に地球環境問題の深刻さが増しており、現状では究極の環境車に向けた開発に力点が移行している状況にある。

電気自動車(EV、BEV)

 電気自動車は、排気ガスを出さない環境に優しい車として開発が進められてきた。すなわち、蓄電池に貯めた電気でモーターを駆動し、車軸を回転させて走行する。EV(Electric Vehicle)と略称で呼ばれているが、ハイブリッド車も含めて電気を動力にして動く車両の総称として用いられる場合がある。

 図15には、広義の電気自動車(EV)の分類についてまとめる。広義の電気自動車(EV)には、電気のみで走る狭義の電気自動車であるBEV(Battery Electric Vehicle)に加えて、電気でも走るハイブリッド車(HEV)、燃料電池車(FCEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)も含まれる。

図15  広義の電気自動車(EV)の分類

 これら広義の電気自動車(EV)に共通するのはモーターを保有することである。減速時に生じるエネルギーを利用してモーターが発電(回生ブレーキ)し、蓄電池に充電できるために燃費が改善できる。図13からも明らかなように、BEVはHEVやPHEVに比べて駆動システムが単純である。

 BEVは航続距離が短く、充電に時間を要するなど、デメリットも挙げられていたが、現在は蓄電池性能が向上した結果、運用上はエンジン車と遜色ない。一般にBEV は乗用車タイプで 蓄電池容量:20 kWh程度を搭載しているが,HEV の代表車種であるプリウスの蓄電池容量:1.3 kWh 程度である。

 表1には、補助金の対象となっている代表的なBEVについて諸特性と価格を比較して示す。2009年に2車種であったBEVも、2020年には12車種となり、乗用車からバンまで幅広い用途で販売されている。近年は、自宅で充電可能なPHEVも増加し、BEVとPHEV合わせて37車種が補助金対象になっている。

表1 補助金の対象となっている代表的なBEV
出典:次世代自動車振興センター2020年6月)

燃料電池車(FCEV)

 燃料電池車も、排気ガスを出さない環境に優しい車として開発が進められてきた。すなわち、搭載された水素タンクから水素燃料の供給を受けて空気中の酸素と反応させる燃料電池を搭載して発電し、蓄電池に貯めた電力でモーターを駆動して車軸を回転させる。

 FCV(Fuel Cell Vehicle)あるいはFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)の略称で呼ばれている。以下ではFCEVの略称を用いる。FCEVは、BEVに水素タンクと燃料電池を搭載した車であり、走行中に排出するのは水(水蒸気)のみであり、CO2は排出しない。

 表2には、補助金の対象となっている代表的なFCEVについて諸特性と価格を比較して示す。

表2  補助金の対象となっている代表的なFCEV
出典:次世代自動車振興センター(2020年6月)

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