EVの基幹部品である「蓄電池」は、蓄電池メーカーとの連携が進められている。一方、「駆動装置」については、インバータ、モーター、ギア(減速機)の3要素を一体化した「eAxle(eアクスル)」メーカーが立ち上がり、EVの開発期間短縮を可能とし、EV事業への参入障壁を下げている。
eアクスルの構成
「eAxle(eアクスル)」の構造は、インバータ、モーター、トランスアクスル(トランスミッションとデファレンシャルギアを一体化した動力伝達機構)の3要素部品を一体化したものであり、モーター・メーカーを軸に、インバータ・メーカー、ギア・メーカーを巻き込み開発競争が始まっている。
多くの国内EVメーカーは、インバータ、モーター、トランスアクスルの3要素部品を個別に調達して調整を行っているが、eアクスルとして調達することにより3要素部品の相性を考慮する必要がなく、ワンストップで利用できるため開発期間が短縮でき、生産性が著しく向上する。
eアクスルの構成要素他の役割りを、次にまとめる。
Ⅰ.インバータ
インバータは、バッテリーから流れる直流電流を交流電流(三相交流)に変換し、アクセル操作に応じて、モーター出力を制御する。
Ⅱ.モーター
インバータからの交流電力を回転力に変換する。2022年6月時点、永久磁石型モーターを使用するのが主流である。
Ⅲ.トランスアクスル
トランスアクスルは、複数の歯車を組み合わせモーターの回転を適切に変速させるトランスミッションと、左右のタイヤに駆動力を分配するデファレンシャルギアで構成される。
トランスミッションは変速比が固定されたギア比の減速機が主流であるが、モーターの小型化や車両の高速巡行性能などを狙い、複数の変速比を持つ多段トランスミッションも検討されている。
Ⅳ.冷却機構
インバータとモーターは走行中に高熱を発するため、水冷や油冷などが施されている。
eアクスル事業化の動向
アイシンとブルーイーネクサス
国内では、デンソーとアイシンにより2019年4月に設立された「BluE Nexus(ブルーイーネクサス)」が知られている。2022年以降、出力:80~150kWのeアクスルの量産化を進めており、新型EVであるトヨタ自動車の「bZ4X」とSUBARU「ソルテラ」に採用されている。
2020年11月、アイシン精機は自社製「eアクスル」がトヨタ自動車のEV「レクサスUX300e」に採用されたと発表した。中国向けEV「C-HR」・「IZOA」に次いで3車種目で、小型・軽量の永久磁石式同期モーターを採用し、同出力(UX300eは150kW)のエンジンに比べて重量を約半分に抑えた。
2021年4月、アイシンはブルーイーネクサスに開発・販売機能を移したが、「UX300e」に納入したのは新会社設立前から手がけていたアイシン精機製で、ブルーイーネクサスではデンソー製インバーターを組み込んだeアクスルを国内外の完成車メーカーへ売り込む。
2022年9月には、アイシンは電動化新技術試乗会を開催し、eアクスルの開発状況を公表した。
・2022年から第1世代中型車向け、2023年からは小型車向けeアクスルの量産予定。
・2025年に第1世代を改良して高効率・小型化を実現し、ラインナップを拡充した第2世代の小型車~大型車向けeアクスルの量産を開始。
・2027年にモーターとトランスアクスルを刷新して超高効率・超小型化を図る第3世代eアクスルをリリースする計画。
アイシンのeアクスルは、トヨタ自動車が2022年7月に世界初公開した新型「クラウン」、2022年10月に発売した新型SUV「RX」の高性能仕様「RX500h Fスポーツ パフォーマンス」に搭載された。
NIDEC(日本電産)
2019年4月、eアクスル「トラクションモータシステム」の量産を開始し、中国では広州汽車集団グループとの合弁工場(広東省)や浙江省で建設中の旗艦工場など5工場、欧州では2022年9月にフランスで欧州ステランティスとの合弁工場に続き、セルビアでの生産計画を表明している。
小型軽量で出力:150kWタイプで重量87kgと、パワー密度で他社をリードする。量産開始から1年で中国自動車メーカー6車種のEVに採用され、約10万台に搭載。(2020年12月時点)
今後、ラインナップ(出力:50~200kW)を拡充し、2023年までに5種類の標準製品を量産化する。吉利汽車グループのプレミアムEVブランド「Zeekr 001」には、出力:200kWが採用されている。
2022年11月、新工場をメキシコに建設する方針を表明した。2024年3月期にも着工し、投資額は1000億円規模になる見通しである。現在は中国と欧州に7工場を有し、eアクスル生産能力は2026年3月期に合計570万台、メキシコの新工場などで130万台の能力を増強する。
2023年4月、ニデック(旧日本電産)が電動アクスルのコスト低減へ向け、部品の統合化をさらに進め、最大7部品を一体化した「X in 1」と呼ぶ電動アクスルを開発していることを公表。新開発の第3世代電動アクスルは、最高出力70kWの小型EV向けと併せて、2024年6月から中国に投入する。
現在量産する電動アクスルは、駆動用モーター、インバーター、減速機を一体化した「3 in 1」である。開発するのは6〜7部品を一体化した「6 in 1」「7 in 1」で、主要3部品にDC-DCコンバーター(直流電圧変換器)、車載充電器、配電ユニット(PDU)、顧客要望によりPTCヒーターを追加する。
2023年5月からは第二世代の最高出力150kWの製品を投入する。同出力の電動アクスルでは、インバーターに炭化ケイ素(SiC)製のパワー半導体を使い、電圧800ボルトに対応した製品も展開する。
日立Astemo
2022年9月、本田技研工業が2026年からグローバル展開を進める中大型EVに搭載するeアクスルを受注した。炭化ケイ素(SiC)を使用した高効率インバーターと、高度な巻き線技術を生かし高効率・低損失を実現したモーターを採用し、これをギアボックスと組み合わせて提供する。
2025年度までに研究開発費など3000億円を投じる計画で、eアクスルを拡販するほか、モーターやインバーターの単体供給も進める計画である。
三菱電機
2021年11月、eアクスル事業への参入を発表した。自社で手掛けていないギヤ機構については、他社との協業などで調達し、モーター巻線の高密度化や低損失な駆動制御技術、スイッチング素子へのSiC(シリコンカーバイド)の採用などを進める計画である。
電池電圧を800Vに高める潮流に沿った製品開発も検討している。現状は400V前後であり、電圧を2倍近くに高めることで充電時間を短縮し、モーターやインバーターを小型化できる。
ジャトコ
2022年5月、日産自動車や三菱自動車と縁の深いトランスミッション系サプライヤーであるジヤトコも、eアスクルの生産を始めると発表した。2021年11月、日産自動車のe-パワートレイン(EV向けパワートレイン)開発のパートナーとなっている。
独自技術を投入した開発中のユニット2タイプを公表している。いずれも中型車向けで、供給電圧:300~400V、モーターの最大回転数:1万6000rpm、最大出力:100~150kWである。
明電舎
2023年度に市場投入し、2025年以降の拡販を目指し、生産体制を構築している。名古屋事業所でモーターとインバーターの一体機の生産能力は17万台/年である。また、中国・杭州市のEV関連部品工場を拡張し、2023年には生産能力が10万台/年のラインを稼働する計画である。
マレリ
埼玉県のマレリはベルギーのギアメーカーと協業し、2023年をめどにeアクスルの生産開始を発表している。2025年には100万台規模の生産を目指しており、2023年を目途にフランス、2024年を目途に中国で量産を開始する。
ドイツ・ボッシュ
2011年頃から減速機メーカーと組み、モーターと減速機を一体化してEV向けに供給してきた。2019年にはインバーターも一体化したeアクスルを市場投入した。EVへの搭載では前輪駆動、後輪駆動共に対応可能で、出力:150kWの重量は約90kgと小型軽量化を達成している。
最高出力:50~300kW、最大トルク:1000~6000Nmの間でカスタマイズが可能で、SUVをはじめとした大型車両への対応も可能である。既に、世界中で、ボッシュ製eアクスルを搭載したEVが50万台以上走行している。
アメリカンアクスル&マニュファクチャリング
American Axle & Manufacturing Holdings, Inc.(AAM、アメリカンアクスル&マニュファクチャリング)では、ジャガー初のBEVであるSUVタイプの4WD「I-PACE(アイペイス)」向けにエレクトリック・ドライブ・ユニット(インバーターは別体式)を公開している。
最高出力:294kWで4.8秒で100km/hに加速できる。また、インバーター一体式の商用車向けユニット「e-Beam」も公表している。
フランス・ヴァレオ
小型車向けの最大出力:13.5kW「48V eAccess(eアクセス)」、最大出力:60kWまで対応する「スマートeDrive」、最大出力:100~120kW対応の「高電圧eAxle100kW」のラインナップを公開している。48V eAccessはマイルドハイブリッド車向けに開発され、海外メーカーでの採用実績も多い。
カナダ・マグナインターナショナル
2021年5月、カナダのマグナ・インターナショナルは、韓国LG電子と電動駆動部品の合弁会社を設立すると公表した。
中国メーカー
既に、8部品を一体化した「8 in 1」の電動アクスルを内製し、EV「ATTO 3(アットスリー)」などで実用化済みだ。主要3部品と車両コントローラー、電池管理システム(BMS)、DC-DCコンバーター、車載充電器、PDUを1つのモジュールに集約している。
中国の華為技術(ファーウェイ)も、主要3部品のほか、車載充電器とDC-DCコンバーター、2つのPDU、3つのBMSを一体化した電動アクスルを用意する。
コメント