水素エンジン車の開発動向(Ⅰ)

自動車

 水素エンジン車の基本構造はガソリンエンジン車と同じで、水素を燃料とする点が異なる。燃料電池を搭載し、水素を燃料として発電してモーターを回す燃料電池車(FCEV)とは全く異なり、既存の部品や技術を大幅に活用できるメリットがある。
 しかし、水素エンジン車では単に燃料のガソリンを水素に置き換えるだけでなく、幾つかの重要な開発課題が内在している。

水素エンジンとは?

 2021年5月、トヨタ自動車が、水素エンジンを搭載したカローラスポーツで耐久レースに参戦して以来、水素エンジン車(HICV:Hydrogen Internal Combustion engine Vehicle )の報道が過熱気味である。まずは、水素エンジンのメリットとデメリットについて、明らかにする。

図1 水素エンジンを搭載するトヨタ自動車の試作車「カローラスポーツ」

水素エンジンのメリット

 水素エンジン車の基本構造はガソリンエンジン車と同じで、水素を燃料とする点が異なる。燃料電池を搭載し、水素を燃料として発電してモーターを回す燃料電池車(FCEV)とは全く異なり、既存の部品や技術を大幅に活用できるメリットがある。

 水素をエンジンで燃やすアイデアは以前からあった。水素は燃やしても水しか排出しないため、1970年代に環境に優しい次世代車として開発が進められた。しかし、エンジン効率が悪いため、2000年代に入り高効率の燃料電池車(FCEV)が現れると、急速に開発意欲が薄れ

 その後、FCEVが伸び悩み、2020年代に入ると急速にBEVシフトが進み始め、再度、水素エンジン車が注目されている。「何故、低熱効率の水素エンジンが再び脚光を浴びるのであろうか?」顧客ニーズが多様化している現在、水素エンジン車を全方位戦略の一環とトヨタ自動車は位置付けている。

 FCEVが伸び悩んだ原因は、水素供給インフラ整備の遅れFCEVの低コスト化が進まないことである。水素供給インフラの遅れは、水素エンジン車でも大きな問題である。
 一方、水素エンジン車は既存の部品や技術が応用できるため低コストとなり、ハイブリッド化も組み合わせれば熱効率の点でもFCEVに競合できるという期待である。

水素エンジンのデメリット

 ガソリンに比べて、水素はエネルギー密度が低い。そのため、車載スペースの問題と航続距離をガソリン車並みにするため、高圧水素や液体水素を使う必要に迫られる。ガソリンタンクに比べて高価な水素タンクが必要で、水素供給システムなど周辺部品も高コスト要因となる。

 新型MIRAI(FCEV)の高圧タンク容量を5.6kg→7.34kgに増強してカローラスポーツに搭載されたが、耐久レースではテスト走行の状態で約50kmごとに水素充填のピットインが行われた。新型MIRAIの航続距離は750~850kmであり、はるかにFCEVのほうが高効率である。

 加えて、高温で燃焼が行われる水素エンジンでは、NOの発生バックファイアの対策が不可欠である。バックファイアとは可燃範囲の広い水素と空気の混合気が、吸排気バルブなど高温部品に接触して自着火することである。また、原子状水素が鋼材に侵入して生じる水素脆化の対策も必要である。

 すなわち、水素エンジン車では単に燃料のガソリンを水素に置き換えるだけでなく、そのために幾つかの重要な開発課題が内在している。本当に、「水素エンジン車は低コスト化とFCEVと競合できる熱効率を達成することが可能なのか?」

エンジンの分類

 多くの熱機関の中で、現在、移動体用に実用化されているのは内燃機関であるレシプロエンジンロータリーエンジンガスタービンロケットエンジンである。

図2 熱機関(エンジン)の分類

レシプロエンジン

 自動車用エンジンとして多用されているのがレシプロエンジンで、天然ガスや都市ガスなどを使うガスエンジン、ガソリンを使うガソリンエンジン、重油・軽油などを使うディーゼルエンジンに分類される。水素エンジンはガスエンジンに分類される。

 その作動原理は、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気というサイクルを繰り返す。ガスエンジンは、シリンダー内部で燃料の爆発(膨張)を発生させ、その圧力でピストンを往復運動させ、その往復運動を回転エネルギーに変える。この基本動作は自動車のガソリンエンジンと全く同じである。

 水素エンジン開発における最大の技術課題は、バックファイア冷却損失による熱効率の低下NOの発生である。これらに関しては、従来から様々な研究開発が行われてきた。

 最近では2018年5月、産業技術総合研究所・川崎重工業などが、噴射した水素燃料を拡散する前に燃焼させる過濃混合気点火燃焼方式(PCC燃焼)と、排出ガスを吸入空気に還流させて燃焼温度を下げる排気再循環(EGR)を組み合わせ、高出力・高熱効率・低NO水素エンジン開発に成功した。

図3 レシプロエンジンの仕組み

ロータリーエンジン

 ロータリーエンジンの作動原理も、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気という同じサイクルを繰り返す。しかし、その基本動作はレシプロエンジンの往復運動に対して、ロータリーエンジンは回転運動という大きな相違点がある。

 すなわち、吸気孔から吸気室内に空気を吸入し、ローターハウジングに設置されたインジェクターで直接水素を噴射する。その混合気をローター回転で混ぜながら燃焼室に移動し、2本の点火プラグで着火する。燃焼ガスは排気室に移動して排出する。

 水素燃料を噴射する部屋と燃焼する部屋が異なるため、水素を噴射する部屋の壁温が低く、自着火を防げる。すなわち、バックファイアが発生しない。加えて、一般的なレシプロエンジンと比べて仕組みが単純で部品点数が少ないため、小型・軽量化が可能である。

図4 ロータリーエンジンの仕組み

ガスタービン

 ガスタービンは、航空機エンジンや発電用途に多用されている。小型・高出力のため米国の最新鋭戦車「M1 エイブラムス」の動力機関としても採用されており、最近ウクライナ問題で話題になった。

 ガスタービンの作動原理は、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気という同じサイクルが連続して行われる。しかし、その基本動作はレシプロエンジンの往復運動に対して、ガスタービンは回転運動という大きな相違点がある。

 すなわち、吸気口から吸引された空気は圧縮機で圧縮され、燃焼器内で燃料と混合後に着火し、急激に体積膨張した燃焼ガスが、静翼を通して動翼に吹き付けられてロータを回転させる。高温排ガスは排気口を通じて排気される。

 川崎重工業は、2018年に神戸市内で水素タービンで発電と共に熱供給を行い、病院やスポーツセンターなどに供給する実証実験に成功した。2021年にはドイツのエネルギー会社と水素専焼ガスタービンについて協議を始め、2024年に実証運転を始める計画である。

 現在、水素タービンを巡る開発競争は激しい。ドイツ・シーメンスは中小型の水素専焼ガスタービンの開発を進めており、米国GEは中小型の水素専焼ガスタービンを実用化している。三菱重工業も2025年に中小型水素専焼ガスタービンの商用化を目指している。 

図5 ガスタービン(ジェットエンジン)の仕組み

ロケットエンジン

 参考までに、ロケットエンジンは、使用燃料により液体燃料方式と固体燃料方式に分類される。液体燃料のロケットエンジンは、圧縮状態にある推進剤の燃料と酸化剤を、それぞれのタンクから燃焼室へ送給し、そこで燃焼させて急膨張した高温ガスを、ノズルから噴射することで推力を得る。
 小型ロケットにはタンクに高圧ガスを送り込み押し出して燃焼室に送る方式、大型ロケットではポンプで吸い出して燃焼室に送りこむ方式が採用されている。

図6 大型ロケットに採用されるポンプ方式ロケットエンジンの仕組み

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