変動型再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電が増加した地域では、「再エネ制御」を防ぐためには「送配電網の増強」や「電力貯蔵システムの設置」が不可欠である。しかし、系統網の増強は設備投資が巨額であり、監督省庁による許認可の取得手続きに時間を要する。
そのため、短期的にはコストや手続きの面で有利な電力貯蔵システム、中でも「定置型蓄電池の導入」が2022年から国内でも急速に進められている。
進み始めた系統用蓄電所の動き
開所した系統用蓄電所
■2022年3月、住友商事はBSホールディングスを通じ、福島県浪江町に「バッテリーステーション浪江」を整備した。実証試験の後、2024年8月に稼働、2025年度に「需給調整市場」での取引をめざす。産業団地内に建屋(床面積:470m2)を設け、EVから回収した蓄電池(約350個)を収納し、出力:1500kWである。
■2022年8月、九州電力は、福岡県大牟田市で使用済みリチウムイオン電池を使った系統用蓄電所「大牟田蓄電所」(出力:1000kW、容量:3000kWh)の運転開始を発表。トヨタ自動車九州宮田工場の電動フォークリフトで使ったNExT-eS Solutions開発の電池パック108個で、NExT-e Solutionsと共同で蓄電所を運用する。
■2023年5月、ダイヘンはユーラスエナジーHDが2023年12月に稼働する福岡県田川市の系統用蓄電所「ユーラス白鳥バッテリーパーク」に、蓄電装置(出力:1500kW、容量:4580kWh)を納入した。蓄電池はGSユアサのリチウムイオン電池を調達し、出力調整など独自のシステムを組み込む。
■2023年7月、 NTT アノードエナジー、九州電力、三菱商事は、再エネ制御の低減に向け、福岡県田川郡香春町の「田川蓄電所」(出力:1400kW、容量:4200kWh)を開所し、本格的な運用を開始した。
■2023年8月、ENEOS傘下のエネオスパワーは、根岸製油所内に需要家併設蓄電池(出力:5MW、容量10MWh)を設置し、充放電の遠隔制御を開始した。米国テスラ製リチウムイオン電池「Megapack」を採用し、制御には同社が自社開発したAIによる最適運転制御アルゴリズムを活用する。
また、GSユアサ製の産業用リチウムイオン電池「LEPS-2-14」を採用し、室蘭事業所内に系統用蓄電池(出力:5万kW、容量8.8万kWh)を設置して2024年3月に商業運転を開始した。また、千葉県市原市の大阪国際石油精製千葉製油所内に系統用蓄電池(出力:10万kW、容量20.2万kW)を2025年度に稼働する。

■2023年9月、住友商事は北海道千歳市で系統用蓄電事業を開始する。総投資額約20億円(うち約7億円補助)で、「千歳第一蓄電所」(出力:6000kW、容量:23000kWh)に蓄電設備を設置した。
日産自動車との合弁会社フォーアールエナジーから700台分相当の新品と中古のEV用蓄電池を半分ずつ調達し、2024年4月に営業運転を開始した。写真奥の送電鉄塔を通じて電力系統へ直接送電される。

■2023年9月、ミツウロコグループHD子会社のミツウロコグリーンエネルギーは、老朽化で撤去した同社風力発電設備の跡地に既存の系統連系枠を設備変更し、「ミツウロコ愛知県田原蓄電所」の運用を開始。
米国テスラ製リチウムイオン蓄電池「Megapack」を採用し、出力:1500kW、容量:6000kWh。日本工営と共同開発した「電力制御統合セントラル(IPoCC:Integrated Power Control Central)」で運用する。
■2023年12月、ミツウロコグリーンエネルギーは、「ミツウロコ宮城県仙台蓄電所」の運用を開始した。
米国テスラ製リチウムイオン蓄電池「Megapack」を採用し、出力:1534kW、容量:6140kWh。日本工営と共同開発したIPoCCで運用する。施工は日本工営が担当した。
■2024年6月、西日本鉄道と自然電力の合同会社である西鉄自然電力は、福岡県宇美町の西鉄グループの旧バス車庫内に、系統用蓄電施設「バッテリーハブ宇美」(出力:1920kW、容量:4659kWh)を開所した。今後、西鉄グループが所有する遊休地などで、2025年度までに蓄電施設を計10カ所に増やす。
■2024年7月、東急建設は相模原工場内に系統用蓄電施設「相模原蓄電所」(出力:1999kW、容量:4064kWh)を設置し、運転を開始した。
■2024年10月、丸紅は、長野県伊那市に系統用蓄電施設「三峰川伊那蓄電所」(出力:2000kW、容量:8000kWh)を開所した。パワーエックス製リチウムイオン電池を設置し、自社開発した系統用蓄電池の最適運用アルゴリズムを使い、丸紅新電力が運用業務を行う。

■2024年10月、JFEエンジニアリングは、エス・ディー・エル、JFE商事と出資・設立したJ&S蓄電合同会社による系統用蓄電池事業(出力:2000kW、容量:8400kWh)を開始した。自社開発したJFEマルチユースEMSを用いて蓄電池の最適運用を行う。
■2024年12月、関西電力子会社イーフローとオリックスは、和歌山県紀の川市で系統用蓄電所(出力:4.8万kW、容量:11.3万kWh)の運用を開始。80億円を投資し、8000m2の敷地にTMEIC製の大容量リチウムイオン二次電池システム「TMBCS」内蔵のコンテナ64台を設置、オリックスが蓄電池の保守・メンテを行う。

計画中の系統用蓄電所
〇2022年8月、東邦ガスは津LNGステーション跡地に系統用蓄電池を導入すると発表。日本ガイシ製コンテナ型NAS電池48台(出力:1.14万kW、容量:6.96万kWh)を設置し、自社の調整力とともに、需給調整市場、日本卸電力取引所、容量市場に参入する。2025年度の運用開始をめざす。
〇2023年6月、大阪ガス、伊藤忠商事、東京センチュリーは共同出資で系統用蓄電池事業へ参入。蓄電所(出力:1.1万kW、容量:2.3万kWh)を大阪府吹田市に設置し、2025年度上期の運用開始をめざす。大阪ガスが蓄電所の運用や電力取引、伊藤忠商事が蓄電池の調達やメンテナンスを行う。
〇2023年8月、パワーエックスとウエストHDは、蓄電所および太陽光発電所の開発・運用での協業を発表。パワーエックスは2025年春までに中規模蓄電池所(容量:20万kWh)を整備し、自社製AIで蓄電所運用によりコーポレートPPA方式で供給、卸電力市場などの電力取引を行う。
ウエストグループは、パワーエックスへの給電をめざして太陽光発電所(出力:3万kW)を開発する。
〇2023年7月、東急不動産は子会社リエネを通じて伊藤忠商事・東京センチュリーが共同出資するIBeeTと新会社「御徳蓄電所合同会社」を設立。福岡県小竹町で「御徳蓄電所」(出力:2万kW、容量:5.6万kWh)を、2025年度に開所する。東急不動産・リエネ運営の「直方太陽光発電所」(出力:2.32万kW)の近接地。
〇2023年8月、東急不動産は東京都の助成事業で、埼玉県東松山市に「TENOHA東松山蓄電所」を設置。パワーエックスの蓄電池システム(出力:1800kW、容量:4900kWh)を国内で初採用し、2024年度に運転を開始。東急不動産、伊藤忠商事、パワーエックス、自然電力の4社はパートナーシップ契約を締結した。
〇2023年8月、出光興産、レノバ、長瀬産業、SMFLみらいパートナーズは共同出資により「合同会社姫路蓄電所」を設立し、リチウムイオン電池による系統用蓄電池事業に参入する。「姫路蓄電所」(1.5万kW、4.8万kWh)の運転開始は2025年10月の予定。
〇2023年9月、日本ガイシはスタートアップのSustech(サステック)と蓄電所の運営に乗り出す。NAS電池を送電網に直接接続した系統用蓄電所を国内に設置し、2024年度中の運転開始をめざす。
〇2024年2月、東北電力とみずほリースは埼玉県熊谷市、群馬県伊勢崎市、同県太田市に、それぞれ容量:約7000kWhの蓄電所を設置する。運営会社を4月に立ち上げ、2025年2月~6月にかけて運転を開始する。総工費は約16億円(内約13億円を東京都の助成金)である。
〇2024年3月、JR九州と住友商事は合同会社「でんきの駅」(福岡市)を設立、系統用蓄電池施設「でんきの駅川尻」(出力:1500kW、容量:6000kWh)を竣工し、同年9月に運転を開始する。EV約350台分の使用済み電池を再利用しており、2026年度までに計4万kWhまで増設する。
〇2024年5月、パワーエックスは、JA三井リースと蓄電所の共同開発で合意。送電網に直接接続する系統用蓄電所を3年間で30カ所建設する。JA三井リースは完成した蓄電所の保有・管理を担う。
20フィートコンテナの大型定置用蓄電池(定格容量:2468kWh)で、リン酸鉄系リチウムイオン電池(LFP)を採用し、蓄電所は1カ所あたりコンテナ3基程度の規模を想定する。
〇2024年5月、オリックスは、滋賀県米原市に系統用蓄電施設「米原湖東蓄電所」(出力:13.4万kW、容量:54.8万kWh)の建設を発表。市有地約2万6000m2を賃借してリチウムイオン蓄電池コンテナ140台を設置する。11月に工事を開始し、2027年に運転を開始する。
脱炭素電源への新規投資を促す長期脱炭素電源オークションで落札したもの、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が固定収入を原則20年間保証するため、長期的な事業収益を確保できる。
〇2024年5月、東京ガスは、系統用蓄電池設備「大分県角子原蓄電所」(出力:2.5万kW、容量:5万kWh)の起工式を行った。2026年度内に運転を開始する。
〇2024年6月、日本ガイシは大和エナジー・インフラと新会社を設立し蓄電所の保有や運用を始める。日本ガイシとリコーの共同出資会社で、VPP事業を手掛けるNRパワーラボが蓄電所(出力:500kW、容量:1600kWh)の運用を担う。岩手県内の太陽光発電所に併設し、2025年1月から実験を始める。
蓄電所では中小工場や企業向けの「高圧」電力を手掛け、NAS電池とリチウムイオン電池を併用するが、NAS電池はリースで供給する。
〇2024年7月、大阪ガスは佐賀県武雄市に系統用蓄電所を開設し、2025年度にも運用を始める。JFEエンジニアリングや九州製鋼などと2023年12月に合同会社を立ち上げており、九州製鋼の工場敷地内でJFEエンジニアリングが設備を建設し、大阪ガスは蓄電所の運用を担う。
〇2024年7月、東京ガスは九州・北海道・首都圏で「系統用蓄電池」の運用を始める。2030年までに現状の約4倍(出力:1500MW)の再エネ発電設備の開発をめざしており、他社の蓄電所を使う「オフテイク契約」も活用し、系統用蓄電所(出力:200MW、容量:400〜800MWh)を整備する。
英国エク・エナジーの日本法人である日本蓄電が宮崎県に建設する蓄電所(出力:30MW、容量:120MWh)を、東京ガスが20年間に渡り運用する権利を得た。一方、東京ガスは大分県で、5月に蓄電所(出力:25MW、容量:50MWh)の建設も始めており、2027年春までに稼働させる。
〇2024年8月、三菱HCキャピタルエナジーと韓国のサムスン物産は特定目的会社を設立し、北海道千歳市で送電線と蓄電池を直接つなぐ系統用蓄電池事業を始める。2025年4月に建設を始め、2027年1月に運転を始める。蓄電池容量:5万kWhの運用や電力市場での取引は、大阪ガスに業務委託する。
〇2024年8月、九電工は系統用蓄電池事業への参入を公表。まず、首都圏に小規模の施設を設け、2025年に運転を始める。
〇2024年12月、中国電力は、昨年1月に廃止した旧下松発電所の跡地に大型蓄電所を建設する。同社初の蓄電所(容量:3万kWh、出力:1万kW以上)で、2028年下期に運用開始する。
〇2025年1月、NECキャピタルソリューション傘下のNCSアールイーキャピタルは、大牟田メガソーラー発電所の敷地内に「RED大牟田蓄電所」(出力:1999kW、容量:8226kWh)を開設し、10月に商業運転を始める。
九電みらいエナジーが運営し、卸電力と需給調整、容量の3市場を通じて売電する。
〇2025年1月、不動産大手ヒューリックは2034年までに1000億円を投じて全国に蓄電所を整備する。2025年内に静岡や千葉など3カ所で蓄電所を整備し、自社オフィスや商業施設など賃貸用不動産で250物件程度の消費電力を100%再生エネ由来とし、2029年以降は余剰電力を需給調整市場で売電する。
蓄電池メーカーの動向
2021年3月に設立されたパワーエックス(PowerX)は、リン酸鉄系リチウムイオン電池(LFP)を採用した20フィートコンテナの大型定置用蓄電池(定格容量:2468kWh)を製造・販売する。
2023年8月、三井E&Sはパワーエックスとの協業を発表。子会社の三井造船特機エンジニアリングが、三井E&S玉野事業場で20フィートコンテナ型の定置用蓄電池を生産する。
/東急不動産が運営する埼玉県東松山市の「TENOHA東松山」に4.9MWhの系統用蓄電池を設置し、2024年度に運転を開始する。
/オリンピアから6基受注し、群馬県太田市と伊勢崎市の2拠点で2025年4月に稼働する。
/東北電力とみずほリースが太田市に新設する蓄電所「小角田蓄電所」に3基導入し、2025年4月に稼働する。
/ウエストホールディングスと2025年春までに合計200MWhの蓄電所および30MWの太陽光発電所の開発で業務提携した。エコスタイルとは2026年末までに合計180MWhの蓄電所の開発で業務提携した。

2025年2月、テスラは、中国上海市で大型蓄電池工場「メガファクトリー」の稼働を開始した。大型蓄電池工場を米国以外に設けるのは初めてで、中国での事業領域をEV製造から大型蓄電池「メガパック」の生産に広げる。投資額は14億5000万元(約300億円)で、生産能力は年間1万個(約40GW)である。
メガパックは定置型大型蓄電池とエネルギー管理システムを組みあわせた製品で、企業などに供給している。現地生産に伴い中国での納入を拡大するとともに、輸出拠点としても活用する。
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