2002年に相次いで「燃料電池車(FCV)」を販売した本田技研工業とトヨタ自動車は、FCVのリーダー的存在をキープし、研究開発を継続してきた。
一方、2023年には韓国の現代自動車グループが、FCV「NEXO」、FCバス「ELEC CITY Fuel Cell」、大型FCトラック「XCIENT Fuel Cell」などを発売し、世界累計販売台数は3.3万台を超えて世界1位となった。
FCVの開発動向
トヨタ自動車
2020年12月、フルモデルチェンジした新型FCV「MIRAI」の販売を開始した。最高出力:114kWのFCスタック、容量を約20%拡大した高圧水素タンク(134MPa、141L×3本)を搭載し、航続距離:850kmと約30%増を実現した。価格:710万円~805万円(税込)である。
エコカー減税や環境性能割、グリーン化特例など税制面での優遇に加え、CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)の対象となり、購入に際しては117.3万円が交付される。

2021年10月、中国清華大学系の北京億華通科技(シノハイテック)と共に華豊燃料電池(FCTS)を設立した。新型MIRAIに搭載した燃料電池システムをベースに、商用車向け燃料電池システム「TLパワー100」(出力:101kW、3万時間の耐久性)の製造・販売を行う。
2023年3月、トヨタ自動車中国法人と海馬汽車はFCV推進に関する戦略的な協力枠組みで合意した。中国の海南島を大規模な試験場として活用し、新型「MIRAI」の技術を使い開発を進める。2023年に200台での実証試験、2025年には2000台の運用を計画する。
2023年11月、新型「クラウン(セダン)」でFCVとHVを発売した。乗用車のFCVは「MIRAI」以外で初となり、MIRAIと同じ高性能FCシステムを採用した。3本の高圧水素タンクと燃料電池などを搭載し、約3分の水素充填で約820kmの走行が可能である。

出典:トヨタ自動車
2024月2月、2021年設立の合弁会社「華豊燃料電池(FCTS)」と2020年設立の「連合燃料電池システム研究開発(FCRD)」で、100〜200台/月の商用車向けFCシステムの生産・販売を行う。現地の商用車メーカーに供給する他、トラックやバス、鉄道、定置発電機などに向けて外販する。
第一期で生産工場や検査棟、開発棟などを整備し、最大生産能力1万台/年を確保し、第2期は2026年に着工する。中国では商用車を中心にFCV市場が拡大しつつあり、トヨタ自動車、中国第一汽車、広州汽車集団など6社が商用車用のFCシステムの開発で連携する。
2024年8月、ドイツBMWとFCVで全面提携すると公表。トヨタ自動車が水素タンク・燃料電池などの基幹部品を供給し、BMWが数年内にFCV量産車を発売する。両社で欧州の水素充塡インフラも整備する。
欧州自動車工業会によると、EU域内のEV向けの公共充電ポイントは2023年末時点で63.2万カ所を超えたが、水素ステーションは欧州全体でも270カ所にとどまる。
2025年2月、新型FCシステムを開発し、現行品に比べて耐久性を2倍、燃費性能を2割向上を公表した。セル枚数を変えられるため、乗用車だけでなく大型商用車や定置式発電機、船舶などにも搭載できる。製造工程を見直しコストも削減して2026年から生産を始め、日本や欧州、北米、中国市場などに展開する計画。
大型商用車向けFCシステムは、ディーゼルエンジンと同等の耐久性を確保し、適切なメンテナンスをすれば100万km以上走行できる。トヨタ自動車は、まずは商用車を中心にFCVを普及させたい考えである。
本田技研工業
2021年4月、「世界で販売する自動車のすべてを2040年までにEVあるいはFCVにする」と発表。2021年6月、国内でのFCV生産を年内で中止する。ただし、EVに注力しながらも、米国GMとも協力してFCV開発は継続し、新車種投入も検討する。
2022年11月、2024年に米国で「CR-V FCEV」を生産すると発表。多目的スポーツ車(SUV)「CR-V」をベースにし、オハイオ州のPerformance Manufacturing Center(PMC)で少量生産する。
2024年1月、米国GMと共同で新型燃料電池システム(横:約1m、奥行:約0.7m)をミシガン州のFuel Cell System Manufacturingで量産を開始した。
耐久性を従来の2倍、低温耐性を高め、製造コストを1/3に抑えた。燃料電池システムは2000基/年の生産をめざし、自社だけでなく商用車や建設機械、北米のデータセンター向け定置電源としても外販する。
2024年6月、米国オハイオ州のPMCで、新型水素燃料電池車「CR-V e:FCEV」の生産を開始した。
2024年7月、SUV「CR-V e:FCEV」の国内販売を発表。水素ステーションが少ないためプラグイン機能を追加し、自宅での普通充電(6.4kW)に対応し、水素は約3分で満充填できる。リース専用とし、価格は809.49万円~で、航続距離:621kmで、米国で生産して日本に輸入する。
普通充電のみでも世界統一試験サイクル(WLTC)モードで61kmの走行が可能。災害時など充電口に専用機器を差し込むことで、荷室内の給電口から最大出力:1.5kWで給電できる。

2025年6月、次世代の燃料電池システムの国内生産の稼働を延期する。栃木県真岡市の工場で2027年から生産する計画であったが、稼働時期は当面未定。生産能力を3割減の2万基/年以下に引き下げる。コスト高を背景に商用車や乗用車で想定より活用が進まないためである。
また、水素充塡拠点は日本や米国カリフォルニア州で減少傾向にある。維持コストが高く、利用が低迷していることが背景にある。
韓国の現代自動車
2021年9月、今後発売する商用車をすべてEVとFCVにすると発表したが、3か月後の12月には市場が期待できないため、FCV開発を中断した。
2022年5月、日本政府がZEV(Zero Emission Vehicle)の購入を後押しする政策を打ち出し、環境車に商機が見込めるとして日本市場への再参入を発表。しかし、2001年に日本の乗用車市場に参入したが、販売が振るわず2009年に撤退した経緯がある。
投入するEV「IONIQ 5」は479万円(税込)~で、蓄電池容量:58kWhと72.6kWhで、基本グレードの電動機最高出力:125kW、航続距離:618km(72.6kWhの場合)である。FCV「NEXO」は776.83万円(税込)で、水素の充填時間は約5分で、航続距離:約820kmである。

全長4670×全幅1860×全高1640mm、ホイールベースは2790mm
2023年3月、現代自動車グループでは、FCV「NEXO」、FCバス「ELEC CITY Fuel Cell」、大型FCトラック「XCIENT Fuel Cell」などを発売し、2023年1月には世界累計販売台数は3.3万台を超えて世界1位となった。
2023年6月、海外初となる水素燃料電池システムの拠点「HTWO広州」を完成。同拠点は生産工場、研究開発センター、イノベーションセンターを併設し、6500基/年の水素燃料電池システムの生産能力がある。FCV以外にも、中国での船舶、軌道交通、発電などの分野にもシステムを供給する。
広州市公共交通グループ、広州恒運グループ、広州開発区交通投資グループ、文遠知行(WeRide)と提携し、FCVの実証応用プロジェクトを始動した。
2024年9月、ゼネラル・モーターズと、EVやFCVの共同開発・共同生産などで将来的に提携を検討すると発表。大手テスラや中国勢に対抗し、提携により開発コストを抑える狙いがある。
2024年11月、燃料電池コンセプトカー「INITIUM(イ二シウム)」を発表。2025年前半に発表する予定の新型量産FCVで、モーター出力:150kWで、航続距離:650km以上をめざす。

ドイツBMW
2021年9月、ミュンヘン国際自動車ショーで、トヨタ自動車と共同開発したSUV「X5」をベースとするFCV「iX5 Hydrogen」のコンセプトモデルを公開した。水素充塡に必要な時間は3~4分で、航続距離:504kmで、CFRP製タンク2基には合計約6kgの水素を搭載する。
2022年8月、ミュンヘンの水素コンピテンスセンターで、FCシステムの小規模生産を開始。2022年末から製造するデモンストレーション車両「iX5 Hydrogen」に搭載する。
トヨタ自動車供給の第2世代燃料電池システム(出力:125kW)、駆動用電動機はBEV「iX」と共用、新開発のリチウムイオン電池(出力:170kW)組み合わせ、モーターの最高出力:295kW。2023年春から世界の一部地域の顧客に納車され、2025年には量産を始める。
2023年7月、実験車両「BMW iX5 Hydrogen」を3台使い日本で公道走行を開始し、年末まで実証実験を行う。約3分間の水素充填で約500kmの走行が可能である。BMWグループは、2020年代後半に量産FCVを市場投入するとし、ドイツと米国でも実証実験を行っている。
FCVは、EVの充電環境が身近ではないユーザーや、寒冷地域や酷暑地域でのゼロエミッション車(ZEV)を利用したいユーザーに適し、EVを補完する役割があるとしている。

2024年9月、BMWとトヨタ自動車はFCV開発で全面提携すると報じられた。BMWは2028年に初となる量産FCVの販売を始める。世界的にEV販売が失速する中で、両社は提携によりFCVの量産コストを下げ、内燃機関やEVに次ぐ第三の選択肢としている。
フランス・ルノー(Renault)
2021年7月、ルノーとHYVIA(ハイビア)は、2021年末までに小型FC商用車を3車種展開すると発表。2021年後半までにフランスで水素ステーションの設置を進めて欧州で販売する。ハイビアは、米国で燃料電池や水電解装置を手掛けるPlug Powe(プラグパワー)とルノーの合弁会社である。
「マスターバン」は1回の水素充填で500kmを走行でき、貨物スペース:12㎥を備える。「マスターシャシーキャブ」は貨物スペースが大きく19㎥で、走行距離は250km。「マスターシティーバス」は定員15人の小型FCバスで、走行距離:300kmを確保する。
バッテリー(容量:33kWh)、燃料電池(出力:30kW)、水素タンク(容量:3~7kg)を搭載し、メンテナンスやリースはルノー販売網を通じて対応する。
2024年9月、「IAA Transportation 2024」(2024年9月17~22日)で、FCバンであるマスターバン「Master H2 – Tech Prototype」を発表。水素の充填時間は5分程度で、気象条件にかかわらずWLTPモードの航続距離を従来の500kmから700kmに延ばした。フランスのBatilly工場で製造し、2025年に発売する予定である。

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