ホンダの水素戦略とは?

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 本田技研工業が、水素事業の拡大を目指すとして4つの方針を公表した。未だに燃料電池車(FCEV)に固執する姿が色濃く見て取れる。FCシステムの商用車、定置電源、建設機械への適用拡大を打ち出しているが二番煎じ、いずれも蓄電池(バッテリー)の性能向上との競争が厳しい。
 燃料電池でなければ実現できないのは、宇宙での「循環型再生エネルギーシステム」だけである。

水素事業拡大を目指す4つの方針

 2023年2月、本田技研工業は、カーボンニュートラル社会の実現に向け、水素事業の拡大を目指すとして4つの方針を公表した。

その1、燃料電池(FC)システムのさらなる進化

 米国GMと2013年から共同開発している次世代FCシステムを搭載したFCEVを、2024年に北米と日本で発売する。FCEV「CLARITY FUEL CELL(クラリティ・フューエルセル)」<2019年モデル>に搭載したFCシステムに対して、コストを1/3、耐久性を2倍、耐低温性も大幅に向上させる。

 また、燃料電池の本格普及が見込まれる2030年頃に向け、さらにコスト半減と耐久性2倍を目指し、従来のディーゼルエンジンと同等の使い勝手やトータルコスト削減を目指して要素研究を進める。

図1 本田技研工業の次世代燃料電池システム

その2,適用ドメインの設定と他社との協業

 燃料電池システムの活用を、従来のFCEVに加えて、蓄電池では対応が困難な商用車定置電源建設機械の4ドメインに定め、他社との協業にも積極的に取り組む

■FCEV
 2022年に北米で発売したSUV「CR-V」をベースに、次世代燃料電池システムを搭載した新型のFCEVを、2024年に北米と日本で発売する。プラグイン機能追加により、家庭で充電できるEVの利便性も兼ね備える。
■商用車
 日本では、いすゞ自動車との共同研究によるFC大型トラックのモニター車を使った公道での実証実験を、2023年度中に開始する。中国では、東風汽車集団股份有限公司と共同で次世代燃料電池システムを搭載したFCトラックの走行実証実験を、2023年1月より湖北省で開始する。
■定置電源
 データセンターの必要電力が急伸し、BCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の観点からも非常用電源へのニーズが高まっており、燃料電池システムの適用を提案する。
 米国カリフォルニア州のアメリカン・ホンダモーターの敷地内に「CLARITY FUEL CELL」の燃料電池システムを再利用した定置電源(出力:約500kW)を設置し、2023年2月、データセンター用非常用電源の実証運用を開始する。Hondaの工場やデータセンターへ適用拡大を進める。
■建設機械
 建設機械市場の中で大きなシェアを占めるショベルやホイールローダーから燃料電池システムの適用に取り組む。併せて、これらの建設機械への水素供給システムを構築する。

その3,次世代燃料電池システムの外販目標の設定

 世の中の環境動向を踏まえ、コア技術である燃料電池技術の適用先を自社のFCEV以外にも拡大する。2020年代半ばに2000基/年レベルで次世代燃料電池システムのモジュールの外販を開始し、2030年に年間6万基、2030年代後半に数十万基/年の販売を目指す。

図2 燃料電池システムの販売目標

その4,宇宙での循環型再生エネルギーシステムの構築

 宇宙領域において太陽エネルギーにより水を電気分解して酸素と水素を製造する高圧水電解システムと、酸素と水素から電気と水を発生させる燃料電池システムを組み合わせた「循環型再生エネルギーシステム」を構築する。
 2022年、本田技研工業はJAXAと、月面探査車両の居住スペースとシステム維持に電力を供給するため研究開発を開始し、2023年度末までに初期段階の試作機(ブレッドボードモデル)を製作する。

ホンダの水素戦略に一言!

 未だにFCEVに固執する本田技研工業の姿が見て取れる。コア技術の一つに燃料電池システムを据えるのは良いとしても、2021年6月、FCEVの生産を年内で中止すると表明した大英断は、いったい何が目的であったのか疑問が残る。

 また、FCシステムの商用車、定置電源、建設機械への適用拡大を打ち出しているが、他社の二番煎じの感は免れない。いずれも蓄電池(バッテリー)の性能向上による商品化や実証試験が進められており、今後も蓄電池との競争が厳しい領域である。
 燃料電池でなければ実現できないのは、宇宙での「循環型再生エネルギーシステム」だけである。ホンダらしい、次の一手に期待したい。

 将来的に水素事業の拡大は重要であるが、鍵となるのはグリーン水素の供給であり、経済的にも量的にも見通せないのが現状である。安価なグリーン水素が豊富に供給されなければ、FCEVやFCシステム搭載の商用車・定置電源・建設機械、いずれもカーボンニュートラル社会を実現する鍵とはならない。

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