電気推進船とは?(Ⅱ)

船舶

 現在の電気推進船の主流は、内燃機関(エンジン)、電動機、蓄電池を組み合わせたハイブリッド推進船である。現時点で、船舶用蓄電池の容量とコストがディーゼルエンジンのレベルに達していないため、船種に応じてエンジンと蓄電池を組み合わせ、エネルギー効率の向上が図られている。

船舶用蓄電池システム

 電気推進船で使用されている蓄電池の主流は、リチウムイオン電池(LIB:Lithium-Ion Battery)である。船舶用蓄電池は数万個のセルで構成されている。特定数のセルが標準モジュールに組み込まれ、このモジュールが複数個組み合わせられて、通常は1000V 以上の標準システム電圧を実現する。

 モジュールの集合体はパックあるいはラックと呼ばれ、電力需要に従って所定の電圧を供給する。家庭用蓄電池(電池容量:4~12kWh)や電気自動車(電池容量:10~85kWh)はパックレベルで使用され、電力系統用大型蓄電池(数千~数万kWh)ではアレイレベルが使用される。

図4 船舶に搭載される蓄電池の構成例

単セルをモジュールに組む時にはセルの電極部を結合する。単セルが円筒型・角型の場合はバスバー(金属板)、ラミネート型の場合は電極端子のタブ同士を直接溶接し、複数の単セルを接続する。
モジュールには過充電/過放電/過昇温などを防止する保護回路、電圧や温度を監視するバッテリー・マネジメント・システム(BMS、充放電回路、冷却機構などを付帯してケースに収める。
パックは電力需要により複数のモジュールを接続してラックに収め、全体のコントローラーを付帯したものである。複数のパックを接続して並べたものがアレイである。

 船舶用蓄電池は、各船舶の電力需要に応じてモジュールが設計される。セルメーカーの多くは船舶の規模と環境に合わせてモジュールの組立てを行い、カスタム化した船舶用蓄電池システムを製造する。汎用蓄電池システムを大量生産することはなく、低コスト化は難しいのが現状である。

 一般に、船舶用蓄電池システムは蓄電池メーカーが設置、接続を行い、各規則とメーカー仕様に従ったガス検知器、換気システム、空調システム、防火・消火システム、外壁、ケーブル配線の設置作業は造船メーカーが担当する。

ハイブリッド推進船

構成

 現在の電気推進船の主流は、内燃機関(エンジン)電動機蓄電池を組み合わせたハイブリッド推進船である。現時点で、船舶用蓄電池の容量とコストがディーゼルエンジンのレベルに達していないため、船種に応じてエンジンと蓄電池を組み合わせ、エネルギー効率の向上を図っている。

 ハイブリッド推進船は2つの動力源であるエンジンと電動機の使い方により、 (a)シリーズ方式、(b)パラレル方式に分類できる。

 シリーズ方式は、エンジンで発電した電力を蓄電池に蓄え、その電力で電動機を駆動させてプロペラを回転させる。エンジンは発電にのみ使われ、駆動は電動機のみで行われる。必要な時だけエンジンを使い蓄電池で充電を行うため、蓄電池の無いディーゼル電気推進船よりも低燃費である。

 一方、パラレル方式は、エンジンで直接プロペラを回転させるのが主体のシステムで、発進時や低速時などに補助的に蓄電池で電動機を駆動させて燃料消費を抑える。蓄電池に電気がなくなると補機の発電機を使って充電を行う必要があるため、動力源はエンジンのみとなる。

図5 ハイブリッド推進船の分類と構成

開発動向

 2013年3月、日本郵船グループのウィングマリタイムサービスが所有・運航する国内初の船舶用ハイブリッド推進システムを搭載したタグボート「翼」(総トン数:256トン)が、横浜港に就航した。
 タグボートは航行時間の約75%が負荷率20%以下の低負荷使用のため、作業内容に応じてディーゼルエンジンと電動機を単独もしくは組み合わせるパラレル方式で低燃費化と低騒音化を実現した。蓄電池の充電には船内の発電機だけでなく、陸上の電源設備からの給電も可能である。

 2021年9月、日本製鉄、日鉄セメント、NSユナイテッド内航海運、石油資源開発、常石造船、川崎重工業は、NSユナイテッドの石灰石運搬船「下北丸後継船」(総トン数:約5560トン)に、川崎重工業製の天然ガス専焼エンジン(8L30KG)を搭載したハイブリッド推進船の建造契約で調印した。
 リチウムイオン電池(容量:2847kWh)、7%Ni鋼製のLNGタンクを搭載し、2024年2月の運航開始を予定する。LNGのみで高出力・長距離・ 長時間の航行を行い、入出港時・停泊時は蓄電池から推進力と船内電力を供給するシリーズ方式で、主要航路は尻屋岬港~室蘭港である。

 2021年11月には、日本郵船とWallenius Linesが当分出資する欧州域内完成車輸送事業会社のUnited European Car Carriers(UECC)が、中国の江南造船集団有限責任公司から液化天然ガス燃料自動車専用船「AUTO ADVANCE」(総トン数:35667トン)の引き渡しを受けた。
 本船はLNGと重油を燃料とする二元燃料エンジンを搭載し、エンジンにより駆動する軸発電機と蓄電池を組み合わせたシリーズ方式で、効率良く船内電力を供給する。

図6 バッテリーハイブリッドLNG燃料自動車専用船

 2022年5月、東京汽船の電気推進タグボート「大河」(総トン数:約 280 トン、曳航力:50トン)の進水式が行われた。e5 ラボが考案した大容量リチウムイオン電池(容量:2.5MWh)とディーゼル発電機を組み合わせたシリーズ方式が採用され、金川造船で建造された。
 システムインテグレーターのIHIが発電機とL-Drive型推進装置を供給し、スイスABBの電力システムプラットフォーム「Onboard DC Grid」を採用して低燃費化を実現した。2022 年12月完成し、主に横浜港・川崎港でハーバータグとして就航、横浜本牧の専用浮き桟橋に給電設備を設置する。

図7 東京汽船のハイブリッド推進タグボート「大河」

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