再生可能エネルギー援用船(Ⅱ)

船舶

 2020~2030年代は、風力援用はLNG燃料船などと組み合わされることで燃費改善によりCO2排出量の抑制が進められる。将来的には、水素・アンモニア燃料やバイオ燃料などの使用によるゼロエミッション船が実用化され、燃費改善のための風力援用が搭載される。

風力援用船

ハードセイル(硬翼帆)式

 日本では、東京大学が中心の産学連携「ウインドチャレンジャー・プロジェクト」でハードセイル(硬翼帆)式の風力援用船の開発が進められた。
 2019年10月、商船三井は大島造船所と共同で、伸縮可能な翼で風力エネルギーをとらえて運航する硬翼帆式風力推進装置「ウィンドチャレンジャー」の設計基本承認(AiP)を取得した。
 FRP製の上下伸縮式帆で強風時には帆を使い、船底に設置したタービン発電機で発電して水電解により水素を製造して船内に貯蔵し、弱風時には燃料電池で発電して電動機を回して航行する。

 2022年10月、商船三井は大島造船所で、硬翼帆(高さ53m、幅15m)を搭載した東北電力向けのディーゼルエンジン石炭運搬船を公開した。運航中は帆の根元と最上部に設置したセンサーが根元のひずみと風速・風向を計測し、自動で帆を伸縮・回転して効率よく推進力に変える。
 最大瞬間風速:70m/sに耐える強度を有し、台風の中や平均風速:20m/sを超える海域では帆を降ろす。帆を広げた状態で風速:30m/sの横風を受けても船は0.3°しか傾かない。帆1本の搭載で従来の同型船に比べてCO2削減効果は、日本~オーストラリア航路で5%、日本~米西海岸航路で8%である。

 2020年12月、商船三井は硬翼帆を搭載した石炭運搬船(全長23m、全幅43mで、総トン数:99000トン)による輸送契約を締結し、2022年2月にはウインドチャレンジャー帆の完成を発表した。
 図2には風向きと硬翼帆の運用方法を示すが、正面風以外から硬翼帆は推進力を得ることができる。2020年代後半までに10~12隻への搭載をめざし、将来的には硬翼帆の外販も進める。

図3 商船三井の硬翼帆式風力推進装置(ウィンドチャレンジャー)
図4 商船三井の硬翼帆を搭載した石炭運搬船

 2022年8月、商船三井は2隻目の硬翼帆搭載船を発注した。複数の硬翼帆を取り付ければCO2の削減効果をより高められ、LNG燃料船や将来の水素・アンモニア燃料船にも取り付けられる。

 また、商船三井は、帆走中に船内で水素を作り、その水素を燃料として活用するゼロエミッション船の開発計画「ウインドハンタープロジェクト」にも参画し、ヨット「ウインズ丸」を使用して2021年11月から実証実験を進めている。最終的には大型貨物船への実装を目指している。

 2022年1月、商船三井は「ウインドハンタープロジェクト」 を公表した。最大高さ53mの硬翼帆を甲板に10基取り付け、船内で海水と風力エネルギーを活用して水素を生み出して陸上へ供給する。推進力にも風力と水素を活用し、環境に影響する廃棄物を排出しないゼロエミッション船を目指す。

*「ウインドハンタープロジェクト」の構想
 風力で航行しながら船底のタービン発電機で発電し、海水からつくった純水を電気分解して水素を製造し、その水素とトルエンを化学反応させて水素キャリアのMCH(メチルシクロヘキサン)に変換して船内MCHタンクに貯蔵し、一定量を超えると陸上へ荷揚げする構想である。
 船は自動航行モードで、寄港地までの風の状況を踏まえた最適な航路を割り出しながら、風力と推進プロペラとのハイブリッド推進で航行する。途中で風が弱まると硬翼帆を自動で下げ、格納されていた推進プロペラが起動する。動力はMCHから分離した水素を活用した燃料電池による。
 港に近づくと推進プロペラが作動するとともに、複数のドローンが船内から飛び立ち、ドローンが係船索(ロープ)を岸壁につないで着岸し、MCHを荷揚げする。空になった船内のタンクにトルエンを補給したのち、再び風の強いエリアへと、MCHの充填時間を予測しながら出航する。
 小型の水素生産実証船は、2025年以降に建造を計画している。

 スウェーデンの船舶会社Wallenius Marine(Becker)が折畳式の硬翼帆(高さ80m)を5本搭載した大型貨物船「Oceanbird 」(長さ200m、幅40m、排水量:32000トン)について、2022年以降の竣工を予定している。縦に2つ折りで、全体に倒して格納も可能な方式である。

 2022年5月、商船三井ドライバルクと米国Enviva (エンビバ)が開発を進めている木質ペレットの海上輸送用ばら積み船(EFBC、総トン数:62900トン)が、2024年に大島造船所にて竣工予定である。
 同船には商船三井の 硬翼帆と英国Anemoi Marine Technologiesが開発するローターセイルの併設を検討している。これにより、平均約20%のCO2排出量削減が見込まれる。

 2022年6月、ノルウェー肥料大手ヤラ・インターナショナルと子会社ヤラ・マリン・テクノロジーズは開発した硬翼帆「ウインド・ウイングス」(高さ45m)を、三菱商事のばら積み船「Pyxis Ocean」(総トン数:8万トン)に2本搭載し、2023年から穀物メジャーの米国カーギル向けに就航する。

 2021年3月、日本海事協会と太陽工業は、遠洋まで風力で進みながら海水でプロペラを回して発電する帆船型風力発電船(OEHV :Ocean Energy Harvest Vessel)構想を掲げ、2030年までの技術確立と実用化を目指している。得られた電力は、船内に蓄電して港に直接届ける。
 船上で航空機翼形状の熱可塑性フッ素樹脂(ETFE)製の空中翼(セイル)を左右に傾け、風況に応じて生じる揚力を使い向かい風でも前進する。また、空中翼と海中の水中翼が連動し、空中翼に作用する風力により船体が転倒するのを防ぐ仕組みである。

凧(たこ)牽引式

 2019年6月、欧州AIRBUSの関連会社であるAIRSEAS(エアシーズ)が開発した自動カイトシステム「Seawing(シーウイング)」を、川崎汽船が保有する大型バルクキャリアー(重量トン数:17~18万トン)に搭載すると発表した。
 表面積1000m2のシーウイングは船首部に係留され、一定条件の風力・風向を受けて船橋からの操作により自動で展開・格納が行われ、風力を利用して推進力を補助する。気象データと海洋データをリアルタイムに収集・分析し、性能の最適化と安全性を確保したうえで運用される。
 カイトは8の字を描きながら大きな旋回を行い高速で船を牽引する。高高度の風を受けることで、同船型で20%以上のCO2排出量の削減効果があり、1 隻あたり5200トン/年の CO2 削減が期待できる。

図5 川崎汽船が搭載する自動カイトシステム「Seawing」のイメージ

 2020年8月、エアシーズは日本海事協会からシーウングの設計に関する基本承認(AiP)を取得した。今後、詳細設計を進め、2022年を目指して川崎汽船が運航する船への搭載を目指す。川崎汽船はシーウイングをケープサイズバルカー2隻、ポストパナマックスバルカー3隻へ搭載すると発表している。

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