電気推進船とは?(Ⅳ)

船舶

 燃料電池推進船は燃料タンク(都市ガス、LPガスなど)を搭載し、改質器により燃料から水素を取り出し、燃料電池で得られた電力を充電池に貯めて電動機を回し、プロペラを回転させる。しかし、最近は直接に水素を燃料とすることで、改質器が不要な純水素燃料電池推進船が検討されている。
 主として経済性の観点から、現時点で燃料電池推進船は実証試験レベルであり、本格的な導入には至っていない。低コスト化を含めて、今後の技術開発への期待が大きい。

燃料電池推進船

構成

 これまで燃料電池推進船は内燃機関を搭載せずに燃料タンク(都市ガス、LPガスなど)を搭載し、改質器により燃料から水素を取り出し、燃料電池で得られた電力を充電池に貯めて電動機を回し、プロペラを回転させて推進する方式が検討されてきた。
 完全電気推進船と比較すると複雑な推進システムである。しかし、最近はFCEVで実用化されているように直接水素を燃料とすることで、改質器が不要な純水素燃料電池推進船が検討されている。

図12 燃料電池推進船の構成

 燃料電池推進船用に検討されているのは、固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の2種類である。
 固体高分子型燃料電池(PEFC)はFCEV用に実用化されるなど成熟度が高く、動作温度が100℃以下と低いため、高圧水素タンクとともに搭載されて実証試験が行われている。また、発生した余剰熱を温水供給や船内暖房に利用することも可能である。

 主として経済性の観点から、現時点で燃料電池推進船は実証試験レベルであり、本格的な導入には至っていない。低コスト化を含めて、今後の技術開発への期待が大きい。

開発動向

国内

 2015年6月、戸田建設、ヤマハ発動機、岩谷産業、フラットフィールド他が全長12.5m、幅3.15m、定員12人の燃料電池推進船「長吉丸」(総トン数:5.2トン)を開発した。
 燃料電池(出力:30kW×2基)、蓄電池(容量:132kW×1基)、水素タンク(容量:450L)、推進用電動機が搭載され、運行速度:37km/h、航続時間:2h(充電用停泊:2h)で、小型漁船としての実用化が進められた。
 環境省プロジェクトにより、長崎県五島市椛島沖で実証事業を進めている浮体式洋上風力発電で得られた電力により生成したグリーン水素を用いた実証試験である。

 2017年3月、国土交通省海事局がガイドライン策定を目的に、燃料電池推進船の実証試験を広島県尾道市因島重井町で開始した。海上技術安全研究所が主体となりバスフロート船を改造し、ヤンマーHDが開発したPEFC(出力:5kW)、BEMACが開発したリチウムイオン電池(容量:60kWh)、水素タンク(容量:7000L)、推進用電動機(出力:50kWx2基)が搭載された。

 2020年9月、日本郵船、東芝エネルギーシステムズ、川崎重工業、日本海事協会、ENEOSは、高出力燃料電池船の実証事業の開始を発表した。2021年に設計開始、2023年から燃料電池推進船と水素供給設備の建造・製作、2024年に横浜港沿岸での実証運航を開始する。
 商業利用可能な高出力燃料電池推進船(総トン数:150トン級、出力:約500~600kW、全長25m、全幅8m、旅客数:100人程度)を開発する計画で、水素供給を含むバリューチェーン全体を取り組みの対象とし、災害時には港施設への電力供給が可能としている。

 2021年4月、ヤンマーホールディングスとヤンマーパワーテクノロジーは、トヨタ自動車「MIRAI」の燃料電池ユニットを搭載した舶用水素燃料電池システムの実証試験を、大分県国東市近海で開始した。船体型式はEX38A (FCプロト艇)で、全長12.4m、全幅3.4m、総トン数:7.9トンである。
 固体高分子形燃料電池モジュールを2基、高圧力水素タンク(70MPa)を8本、推進用電動機(出力:250kW)を搭載。2023年には推進出力:300kWとして商用化を目指している。
 2021年9月、小型ボートの航行試験で、航行速度:22km/h、航続時間:3hを達成した。燃料補給には移動式の水素ステーションを活用し、豊田通商と共同で30mの専用ホースを試作している。

図13 ヤンマーホールディングスが実証試験を進める水素燃料電池試験艇

海外

 海外でも燃料電池推進船の実証試験は積極的に進められている。特に、旅客船産業が強い欧州では開発ニーズが高まっている

 2019年12月、中国船舶集団は500kW級船舶用燃料電池システムソリューションを公表しており、内陸河川航行向けにリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した水素燃料電池貨物船の実証を進めている。

 2021年5月、e5ラボはスイス・ローザンヌAlmatech(アルマテック)が開発した燃料電池推進船(ZESST:Zero Emission Speed ShuTtle)の日本市場参入のプロモーション提携を発表した。乗客数:50 ~400人の4モデルに対応し、2023~2024年に第1号艇の組み立て、試験、進水を行う。
 100人乗りの場合は、全長25m、全幅8m、喫水1.5~3.2m、総トン数:32トンで、航行速度:50km/h、航続距離:100kmの自律航行が可能である。船体構造には植物性繊維強化プラスチックスが採用され、2枚のアクティブ制御型格納式水中翼により高速巡航と航走波の低減を両立している。
 高効率水素燃料電池、リチウムイオン電池、水素タンク、電動機を搭載し、乗客数・航行距離あたりエネルギー消費量は従来のディーゼルエンジン船の約1/5としている。

 2022年8月、スイスのAlmatechが、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)への燃料電池駆動による水上モビリティの参加を契機に、燃料電池推進船ZESSTの日本での製造販売に進出し、水素供給インフラも構築すると発表した。2024年末~2025年初頭に100人乗りを先行導入する計画である。

 一方、ドイツの「Pa-X-ell」プロジェクトでは高温固体高分子型燃料電池(HT-PEFC)を開発し、船舶への適用検討が進められた。
 PEFCの高温化(200℃)により改質後の浄化リアクターが不要となり、セルの不純物感受性が低減するためLNG、メタノール、エタノール、ディーゼル油などが使用できる。エネルギー効率は従来の PEFC と同等か若干低下するが、高温運転により発生した余剰熱は船内暖房などに利用できる。

 2016年、HT-PEFC(出力:30kW×3 基)は バルト海クルーズフェリー「MS Mariella」に搭載され試験航行が行われた。2021年には「Pa-X-ell2」プロジェクトでドイツ・フロイデンベルグが開発したHT-PEFCを外航クルーズ船「AIDAnova」へ搭載する予定である。
 燃料の水素は、再生可能エネルギーで製造したメタノールから改質したものが使用されている。

 ノルウェーでは2026 年までにフィヨルドを運航するクルーズ船とフェリーからのゼロエミッションを目標に掲げ、政府支援も含めて多くの水素燃料電池船の開発・実証プロジェクトが活動している。 
 例えば、「HySHIP」プロジェクトでは、貨物と液体水素コンテナの両方を輸送する液体水素燃料RORO船「Topeka」に、PEFC(出力:3MW)と蓄電池(出力:1MW)を搭載して実証運航する計画が進められている。

 さらに、欧州では固体酸化物形燃料電池(SOFC)の船舶への適用が検討されている。SOFC は高効率・高温(700~1000℃)で作動し、燃料から水素への改質はセル内部で行われるため使用燃料の柔軟性が高く、高温排熱の有効利用により総合熱効率を70~80%に向上させることが可能である。
 ドイツの「SchIBZ」プロジェクトで開発された燃料電池推進船「MS Forester」にはSOFCが搭載されている。

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