電気推進船とは?(Ⅲ)

船舶

 完全電気推進船は内燃機関(エンジン)を搭載せず、充電インフラから船内又は陸上に設置された給電設備からAC/DCコンバーターを通じて充電池に貯めた電力のみで電動機を回し、プロペラを回転させて推進する。
 一部の内航船、主にフェリーやプレジャーボートなどは小型で航続距離が短いため、現用蓄電池の性能による航行が可能である。中大型船への適用は今後の課題である。

完全電気推進船

構成

 完全電気推進船は内燃機関(エンジン)を搭載せず、充電インフラから船内又は陸上に設置された給電設備からAC/DCコンバーターを通じて充電池に貯めた電力のみで電動機を回し、プロペラを回転させて推進する。
 一部の内航船、主にフェリーやプレジャーボートなどは小型で航続距離が短いため、現用の蓄電池のみによる航行が可能であるが、現時点での利用は限定的である。欧州の船級規則では、1 基のシステムが故障した場合(電欠)を考慮し、2 基の独立した蓄電池システムの搭載を必要としている。

図7 完全電気推進船の推進機構

開発動向

 2012年にツネイシクラフト&ファシリティーズが完全電気推進旅客船「あまのかわ」(総トン数:約11トン)を建造した。船体はアルミニウム合金製で、リチウムイオン電池(容量:26.64kWh x2 基)を搭載し、全長15m、幅3.2m、乗員数42人で、大阪の道頓堀などの運河を航行する。

図8 ツネイシクラフト&ファシリティーズが建造した完全電気推進旅客船

 2019年6月、大島造船所が建造した国内最大級の完全電気推進船「e-Oshima」(総トン数:340トン)が竣工した。リチウムイオン電池(容量:約600kWh)と自動操船システムを搭載し、全長35mで乗員数は最大50人、普通乗用車8台が積載できる。
 自動操船システムはMHIマリンエンジニアリングと共同開発し、実証運航を通じて事前に設定した航路の保持、衝突・座礁事故などの防止、自動離着桟など機能の確立を目指す。

 2019年8月、旭タンカー、商船三井、三菱商事、エクセノヤマミズは、広義の電気推進船の開発会社である「(株)e5(イーファイブ)ラボ」を設立した。
 2021年半ばまでに、大容量の蓄電池を備えた完全電気推進タンカーを東京湾内で運航する計画を立て、商船三井が船の製造ノウハウを、三菱商事は先行するノルウェーからの技術導入、旭タンカーは貨物船への燃料供給船(バンカリング船)として3~5隻ほど東京湾内で運航する。
 内航船の建設費は7億~8憶円/台であるが、完全電動化することで20~30%高まる。そのため、電気駆動による低燃費化が、今後の完全電気推進船の普及の鍵を握る。

 2020年5月、旭タンカー、出光興産、エクセノヤマミズ、商船三井、東京海上日動火災保険、東京電力エナジーパートナー、三菱商事の7社は、電気推進船の開発・実現・普及への取り組みを進めるため、新しい海運インフラサービスの構築を目指す「e5(イーファイブ)コンソーシアム」を設立した。

 2021年12月、旭タンカーが重油を運搬する完全電気推進タンカー第一号船「あさひ」(全長62m、全幅10.3m、型深さ4.7m、総トン数:492トン、速力:約10ノット)が進水した。川崎港を拠点に東京湾内で外航船に燃料補給を行うための燃料供給船である。
 船体に煙突がないのが特徴で、大容量リチウムイオン電池(容量:3480kWh)で駆動する川崎重工業製の内航船用電気推進システムを搭載している。タンカーの完全電気推進船の実用化は世界初で、e5ラボが企画・デザインし、興亜産業が建造した。
 緊急時には陸上に非常用電力を供給する事業継続計画対策(BCP:Business Continuity Plan)や地域の生活継続計画対策(LCP:Life Continuity Plan)に活用できる。第二号船「あかり」は井村造船が建造し、2023年1月に進水した。

図9 旭タンカーの完全電気推進タンカー「あさひ」

 2000年前後からフランス、オランダ、ノルウェー、スェーデンなどで完全電気推進船が数十隻就航している。大部分が環境規制の厳しいフランス、オランダなどの都市部の内陸水路で運航され、旧式(鉛蓄電池を採用)の旅客船である。
 2013 年以降の電気推進船にはリチウムイオン電池が搭載され、旅客船や比較的大型のフェリーで内陸水路以外にも欧州で幅広く航行している。

 2018年1月、ノルウェーのFjord1(フィヨルド1)は、完全電気推進フェリー「Ampere」(総トン数:11トン)3台による運航を開始した。リチウムイオン電池(容量:800kWh)を搭載し、船の両端に設置されている2台の電動機(モーター)駆動システムはシーメンスが開発した。
 蓄電池の充電は一晩で満タンになるが、50分の運航で180kWhを消費するため、片道20分間の運航を1日34回を行うためには、停泊中にも9分間の充電が必要になる。

図10 フィヨルド1完全電気推進フェリー「Ampere」

 2022年1月、国際イノベーション会議「Hack Osaka 2022」のスタートアップ・コンテストで「大阪・関西万博/JETRO大阪本部賞」を受賞したスイスのMobyFly(モービーフライ)は、ゼロエミッション水中翼船で初の航行試験を実施した。船長10~18m、乗船数12~300人の3モデルに対応する。
 航行速度:70km/h、水深50cmまでの航行が可能で、現時点では蓄電池搭載による完全電気推進船であるが、燃料電池推進船の実現可能性調査を実施済みとしている。

図11 スイス・レマン湖上を走るモービーフライの完全電気推進水中翼船「MBFY10」

 2022年11月、米国General Motorsが出資して注目されたのが、2011年に創業したボート用電動船外機を手掛ける米国Pure Watercraft(ピュア・ウオータークラフト)である。電動船外機は非常に静かで、小型・軽量、長寿命、メンテナンスが容易、エネルギー効率に優れている。
 電動機(出力:25kW)を搭載した、50馬力相当の電動船外機を製品化し、主に既存のボートに取り付ける「レトロフィット」用製品である。

図12  ピュア・ウオータークラフトの電動船外機を搭載した小型ボート

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