遅れたメタノール燃料船への対応(Ⅰ)

船舶

 2050年までに内航船でもカーボンニュートラルの実現が求められ、船舶分野ではLNG(液化天然ガス)水素、アンモニアといった次世代燃料の導入が進められている。その一つとして、世界的にも注目されているのがメタノール燃料である。メタノールはアンモニアと比べて毒性が低いので扱いやすい

 メタノール燃料は、デンマーク海運大手のAPモラー・マースクを中心に導入が進められており、既に世界で主要な約130か所の港で供給が可能である。しかし、国内ではメタノール燃料のバンカリング(船舶への燃料供給)が遅れており、供給地点は限られている。

メタノール燃料とは

メタノール燃料の製造

 メタノール」は天然には存在しない物質である。従来から幾つかの製造方法が開発されており、色によってメタノールの由来が識別されている。

ブラウン・メタノール:
 石炭ガス化で得られたCOと、水素(H2)を高温下で触媒反応により合成
グレー・メタノール:
 天然ガスの部分酸化で得られたCOと、水素(H2)を高温下で触媒反応で合成
ブルー・メタノール:
 CCSで回収されたCO2と、 水素(H2)を高温下で触媒反応により合成
グリーン・メタノール:
 バイオマスをガス化して得られたCO、CO2、H2から合成するバイオメタノールと、再生可能エネルギー由来のCO2、H2で合成する合成メタノール(e-メタノール)

海洋燃料としてのメタノール | NorthStandard (north-standard.com)

 現在、石炭または天然ガスを原料とする合成ガス(ブラウン・メタノール、グレー・メタノール)の生産が主流である。しかし、カーボンニュートラルを実現するために、工場などさまざまな排出源から回収したCO2を原料とするブルー・メタノールや、バイオメタノールや合成メタノールなどグリーン・メタノールの活用は必須となる。 

図1 グレー・メタノールとグリーン・メタノールの製造プロセスの比較 出典:資源エネルギー庁

メタノール燃料の特性

 メタノール (CH3OH3) は、軽量で、無色、引火性、揮発性がある液体アルコールであり、メチルアルコールとして知られている。既に、アルコールランプの燃料として使用され、プラスチック、塗料、建材などを製造するための基礎化学品としても使用されてきた。

 大手海洋保険会社North Standardによるメタノール燃料のメリットとデメリットを、以下に示す。

メタノール燃料のメリット:
●メタノールは常温で液体の燃料であり、天然ガス(LNG)・アンモニア・水素よりもエネルギー体積密度が高いため、燃料供給、保管、移動が比較的容易である。
●ロイドレジスターの試験データでは、従来燃料の重油に比べて、硫黄酸化物(SOx)が最大99%、窒素酸化物(NOx)が約60%、粒子状物質(PM)の排出量が最大95%削減される。
●従来の重油燃料船に対して、小規模な改造のみでメタノール燃料を使用することが可能であり、設備投資コストが削減できる。

メタノール燃料のデメリット:
●超低硫黄燃料油(VLSFO)や船舶用ガスオイル(MGO)などの留出油や残渣燃料油と比較してエネルギー体積密度が1/2以下と低く、船内貯蔵タンクが大きくなり貨物積載量を減らす可能性がある。
●重油に比べて、液化天然ガス(LNG)ではCO2排出量は約25%削減できるが、メタノールではCO2排出量は約10%の削減に留まる。水素・アンモニア燃料のCO2排出量はゼロである。
腐食性が強く、引火点が12度と低く、毒性があるため、船舶の残渣燃料油および留出油と比較して、追加の安全対策が必要である。

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