船舶用エンジンと燃料の現状(Ⅱ)

船舶

 LNGを燃料とする船舶は、建造時の価格が重油を燃料とするディーゼル船に比べて15~30%高く、燃料費も高くなる。しかし、環境規制の厳しさが増す中で、高価な低硫黄重油を採用することに比べてLNGは価格競争力があると考えられている。
 そのため、世界的に2010年に竣工済18隻だったLNG燃料船が、2020年には就航中が175隻、発注済みが200隻を超えるまでに急増している。

進むLNG燃料への切り替え

 IMOの目標達成に向け、燃料を重油から液化天然ガス(LNG)にする対策が進められている。LNGは液化の前工程で硫黄分を除去するためSOxや粒子状物質(PM:Particulate Matter)をほとんど排出せず、NOxの排出量も少なく、CO2排出量は重油に比べて約25%削減できる

 LNGを燃料とする船舶は、建造時の価格が重油を燃料とするディーゼル船に比べて15~30%高く、燃料費も高くなる。しかし、環境規制の厳しさが増す中で、高価な低硫黄重油の採用に比べてLNGは価格競争力があると考えられている。
 その結果、世界的に2010年に竣工済18隻だったLNG燃料船が、2020年には就航中が175隻、発注済みが200隻を超えるまでに急増している。LNG燃料船の大部分は欧州で運航されており、大型化が進むと共に航海海域も拡大している

 また、LNG供給インフラの整備も欧州が先行し、オランダのロッテルダム港、アムステルダム港、ベルギーのゼーブルージュ港、スペインのバルセロナ港などでLNG供給が可能である。
 通常のLNG供給はターミナル側に供給設備を整えたTruck to Ship方式が採用されているが、大型船への燃料供給はShip to Ship方式で行われる場合が多く、LNG燃料供給船の整備も進められている。

 2020年2月現在、LNG燃料供給船は12隻が稼働中、27隻が発注済みで、多くが欧州域内で稼している。バルト海周辺のスウェーデンやフィンランドなども積極的に燃料供給船の整備を進めており、世界最大の燃料基地であるシンガポール港では、2020年からLNG燃料供給船が航行を開始している。

ロシアのウクライナ侵攻の影響

 これまで欧州各国は、LNGの約4割をロシアからのパイプライン経由の輸入に頼ってきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、中東や東南アジアからの海上輸入へと切り替える必要に迫られている。そのためLNGの需要側、供給側双方でLNG運搬船の需要拡大が起きている。

 しかし、中国・韓国勢に比べてコスト競争力で劣る日本の造船各社は、LNG運搬船を受注できていないのが現状である。英調査会社のクラークソン・リサーチによると、2021年のLNG船の受注実績(78隻)のうち、韓国大手3社が68隻を占めており、LNG船の建造で世界をリードしている。

 2022年1月、中国・韓国の造船大手がLNG運搬船向けを中心に積極投資と報じられた。

・世界首位の中国船舶集団(CSSC)は大連船舶重工を通じ、大連市の港湾地帯に200億元を投じて造船所を建設し、2024年末の竣工を目指している。一方で、港湾開発を手掛ける国有の招商局集団がCSSCに計4隻の大型LNG運搬船を発注した。

・CSSC傘下の滬東中華造船は上海市に180億元を投資して造船所を建設し、2023年末の完成を目指している。同社は2022年4月に日本郵船とLNG運搬船6隻の建造契約を締結するなど、2022年だけでLNG運搬船を30隻超受注している。

・中国の招商局重工や揚子江船業も、2022年10月までに大型LNG運搬船の建造に必要な技術ライセンスを取得し、事業参入することを表明している。

・現代重工業は2022年12月期の設備投資を約4400億ウォン(約440億円)と前期より2割以上増やす。サムスン重工業も前期比で2.2倍、大宇造船海洋も3割近く増やす計画で、ドックの拡張や修繕などを進める。

国内でのLNG燃料への切り替え

 重油からLNGへの燃料切り替えは国内でも進められており、「商船三井は2030年までにLNG燃料船を90隻整備する方針」を表明した。「日本郵船も2022年3月時点で建設予定も含めると35隻のLNG燃料船への投資」を決めた。今後、自動車運搬船の新規発注は全てLNG燃料を採用する計画である。 

 2015年8月、商船三井と日本郵船が日本初となる重油とLNGを燃料として使用できるDual Fuelエンジンを搭載したタグボートを就航させ、大型のLNG燃料船やLNG燃料供給船の建造計画が発表された。

 2018年5月、川崎汽船、中部電力、豊田通商、日本郵船の4社が出資する合弁会社2社(セントラルLNGマリンフューエル、セントラルLNGシッピング)が設立され、Ship to Ship方式でのLNG燃料供給事業を開始すると発表し、川崎重工業がLNG燃料供給船を受注した。

 2019年11月には、商船三井とフェリーさんふらわあが国内初となるLNG燃料フェリー2隻を建造すると発表し、三菱造船が受注した。LNGと重油の両方が使えるエンジンを搭載し、大阪-別府航路において既存船の代替として、2023年に順次就航する予定である。

 2019年12月、商船三井と日本郵船は九州電力向けにLNG燃料の大型石炭専用船2隻を建造すると発表した。九州電力が火力発電向けに調達しているLNGを陸上出荷設備を通じて供給する計画で、2023年6月に就航する予定である。​

 2022年10月、三井E&S造船を子会社化した常石造船は、2025年にもメタノールなどの環境負荷が小さい新燃料の脱炭素船を竣工すると発表した。メタノールはCO2を原料に合成可能で、カーボンニュートラル燃料の一つ注目が高まっている。

 2023年1月、商船三井グループのフェリーさんふらわあは、LNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」が大阪―別府航路に就航したことを発表した。同年4月には同型の「さんふらわあ むらさき」も大阪―別府航路に就航する。LNGタンクを搭載してエンジン始動時に重油を使うが、航海では原則としてLNG燃料を使うことで、CO2排出量を25%削減できる。

図3 大阪南港に入港する日本初のLNGフェリー「さんふらわあ くれない」

 しかし、足元ではロシアによるウクライナ侵攻などを受け、LNGを含めて燃料は世界的な争奪戦により価格が高止まりしている。多量のLNGの調達は、サプライチェーンの再構築も含めて、今後の大きな課題となっている。

 2023年1月、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)はLNG燃料船の建造を始める。世界では移行期の技術として2030年までに2000〜4000隻のLNG燃料船が運航すると見込まれている。2023年3月期から設備投資を75億円程度ととし、津事業所でLNG燃料船の建造を始める。その技術を有明事業所や呉事業所に展開し、3拠点で生産できるようにする。

コメント

タイトルとURLをコピーしました