船舶用エンジンと燃料の現状(Ⅰ)

船舶

 船舶用エンジンは蒸気タービンエンジンに始まり、現在では経済性に優れたディーゼルエンジンが主流となっており、小型のプレジャーボートなどでは自動車と同じガソリンエンジンが使用されている。
 その他、ガスタービンエンジンはジェットフォイルや軍用艦船などの特殊用途に使用されている。最近では静粛性に優れた気推進が大型客船などに使用されており、用途に応じてエンジンと蓄電池を組み合わせたハイブリッド推進船が実用化されている。

ディーゼルエンジンと電動化

 図1には、現在主流となっている船舶の推進システムを示す。
 ディーゼルエンジンではピストンで空気を圧縮して高温・高圧とし、そこに燃料である重油を噴射して燃焼(爆発)させることでピストンを上下運動させる。この上下運動をプロペラ軸の回転運動に変換し、プロペラを回転させるのが直接機械駆動推進システムである。

図1 現在主流となっている船舶の推進システム

 このディーゼルエンジンでは、吸気から排気までの一工程でピストンが2回上下する2サイクル型4回上下する4サイクル型があり、低速回転の2サイクル型は大型船、高速回転の4サイクル型は中・小型船に使用されている。

 船舶用ディーゼルエンジンは低コストの重油を燃料として使いエネルギー効率が約50%と高い。また、排熱もエコノマイザーなどで有効活用されている。しかし、重油燃料には排ガス中に大気汚染の原因となる有害物質(NOx、SOxなど)や多量のCO2が含まれるため問題視されている。

 一方で、船舶の電動化による燃費削減も積極的に進められており、現在では外航船の80%がディーゼル電気推進システムを採用している。これはディーゼル発電機で発電して得られた電力で、電動機を駆動してプロペラを回転させる方式である。

 また、ディーゼル発電機からの余剰電力を蓄電池に充電して利用するハイブリッド推進システムも、電力需要の高い大型客船などで採用されている。エンジンや発電機とプロペラの配置の自由度が高く、電気系統による機器の制御性に優れ、エンジンを小型化できるため静粛化が期待できる。

 しかし、高効率化できても、ディーゼル発電機を搭載するかぎり、燃料に重油を使うことで排ガス中に大気汚染の原因となる有害物質(NOx、SOxなど)や多量のCO2が含まれることに変わりはない。

 船舶の電動化は大きなメリットを生み出している。代表的なものが、スイスのABBが1990年に商品化したアジポッド(Azipod®)技術である。ギアレスの360°操舵可能な推進システムで、電動機が船外の海中ポッド内に格納されてプロペラを回転させる。

 アジポッド技術を採用することで、舵なしで船舶は正確にあらゆる方向に推進でき、時間と燃料を節約できる。旅客船、貨物船、砕氷タンカーを含むすべてのタイプの船舶で使用され、従来のシャフトラインシステムと比較して燃料消費量を最大20%削減できると報告されている。

図2 スイスのABBが1990年に商品化したアジポッド(Azipod®)技術

船舶用燃料と排ガス規制

 船舶用燃料のことを「バンカー(Bunker)」と呼ぶが、燃料用の石炭貯蔵庫をバンカーと呼んだことに由来する。現在、多くの大型船には舶用重油が使用されている。重油はA重油(90%軽油+10%重油)、B重油(50%軽油+50%重油)、C重油(90%重油+10%経由)に分類される。

 メンテナンスなどで長期間停泊する場合を除き、船舶の燃料には経済性の観点から低価格のC重油が使われている。C重油を燃焼させると多量のCO2が排出されると共に、硫黄酸化物(SOx窒素酸化物(NOxなどの大気汚染物質が多量に発生する。

 そのため、自動車の排気ガス規制と同様に、海洋汚染の防止を目的として船舶からの規制物質(油・化学物質・梱包された有害物質・汚水・廃棄物など)の投棄や排出の禁止とその通報義務、手続きが段階的に強化されてきている。
 この規制については、国際連合の国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)が審議し、採択する海洋汚染防止条約もしくはMARPOLマルポール)条約により定められている。

 マルポール条約は「MARPOL73/78」と表記され、正式名称は「International Convention for the Prevention of Pollution from Ships, 1973, as modified by the Protocol of 1978 relating thereto(1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書)である。

 そのためSOx対策は、脱硫装置(スクラバー)を使って排ガスから除去する方法や、硫黄分の少ない軽油相当のマリンガスオイル(MGO : Marine Gas Oil)への切り替えが行われている。また、NOx対策は、エンジンの燃焼温度を抑制したり、窒素分の少ない燃料への切り替えなどが進められている。

 また、温室効果ガス(GHG:Green House Gas)についても規制が定められ、IMOの取り決めでは「2030年までに単位輸送量当たりのCO2排出量を2008年比40%削減、2050年までにGHG排出総量を2008年比50%削減、また今世紀中の早い時期にGHG排出ゼロにする」ことが求められている。

 2030年のCO2排出規制は、舶用重油を使用する従来型のエンジンでも、低出力運転(減速航海)や船体の造波抵抗・摩擦抵抗の低減などにより達成可能と考えられている。しかし、2050年規制や船舶のゼロ・エミッション化を実現するためには、新燃料の使用とそれに対応したエンジン開発が必要である。

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