CO2回収システム搭載船とは?(Ⅲ)

船舶

 脱炭素社会の実現に向けて、船上CCS搭載によりCO2を回収して貯留した後、CO2有効利用する二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS:Carbon dioxide Capture Utilisation and Storage)の開発が必要である。
 液化CO2の海上輸送はCCUSバリューチェーンの中で回収地と貯留地、もしくは回収地と有効利用地を効率的に結ぶ手段として重要な役割を担う。日本や北欧ではCO2海上輸送の実証試験が始まっている。

液化CO2の海上輸送

CCS事業化の課題

 日本の沿岸域には1500~2400億トンのCO貯留ポテンシャルがあるとされてる。貯留地点ごとに見た場合、数億~数十億トン級のCO2貯留が可能な地点(適した地質条件を持つ)が全国に複数あることが、現在進められている地質調査から推定される。

 しかし、CO2を多く排出する工業地帯などが主に太平洋側沿岸域にあるのに対し、貯留に適した場所は日本海側に多く位置している。そのため、日本では工業地帯で分離回収されたCO2はパイプラインなどの陸上輸送ではなく、船舶を使った海上輸送が鍵となる

 現在、関西電力の舞鶴発電所(石炭火力)で分離・回収・液化したCO2を、貯留の実証試験を進めている北海道苫小牧市まで海上輸送する計画が進められている。液化したCO2の船舶輸送について、日本では世界に先駆けて2024年の実証開始を目指している。

 しかしながら、日本はCCSの法整備で遅れている。国内でCCS事業を行うには排ガス回収では「ガス事業法」、井戸掘削は「鉱業法」や「鉱山保安法」、海底へのCO2貯留は「海洋汚染防止法」などがあり、工程ごとに異なる法律への対応が必要である。
 加えてコスト低減も大きな課題であり、現時点で地下にCO2を貯留する費用は8000~1万円/トン-CO2であり、CO2の分離・回収工程が約7割を占める。政府は法律や支援策などの整備を進め、2030年頃までに国内でCCS事業を本格化させるとしている。

船舶輸送の実証試験

 2018年7月、経済産業省はCCSに必要なCO2の船舶輸送実証事業を始めると発表した。輸送用の船舶を建造すると共に、船舶関連の法令整備についても関係省庁との協議を開始する。
 東芝エネルギーシステムズがシグマパワー有明の三川発電所で回収したCO2を液化してタンクに貯蔵し、船舶で目的地まで運搬して、海底とつなぐパイプを通じてCO2を貯留地まで搬送する構想である。船舶による輸送技術は東京大学、日揮、大成建設などが検討する。
 ただし、海底貯留方式では地震で液化したCO2が海底から噴き出すトラブルなども想定する必要があり、コスト削減とともに地元の理解を得ての貯留地探しが課題である。

 2021年1月、三菱重工業は世界初となるCO2運搬船を2025年度にも実用化すると発表した。子会社の三菱造船が開発する。発電所や製油所、製鉄所、化学プラントなどから排出されたCO2を陸上で液化し、地下貯留の設備がある地域の港まで船で運搬する計画である。

 2021年3月、三菱造船は環境省「環境配慮型CCS実証事業」の一環で、CO2輸送船(圧入船Ready)の概念設計を行い、日本海事協会から基本承認(AiP: Approval in Principle)を取得した。
 全長約110mの船体には2基のタンクが搭載され、液化CO2を約1600トン貯蔵して運搬する。また、海底の地下にパイプを延ばしてCOを圧入する作業にも転用可能な船型の開発が進められた。

 2021年3月、商船三井が産業向け液化CO2運搬船を管理するノルウェーの海運会社Larvik Shipping (ラルビック・シッピング)に25%出資し、2024年に液化CO2海上輸送事業を開始すると公表した。また、マレーシア国営のペトロナスと液化CO2運搬の事業化検討を進めている。
 2021年11月、商船三井は三菱造船と協働し、液化CO2運搬船の船型の概念設計を実施した。

 2021年11月、日本郵船と三菱造船は液化CO2を輸送する大型船の共同開発を発表した。小型の液化CO2運搬船は世界でも数隻あるが食品添加物向けが中心で、CCUSを目的とした大型運搬船はない。

 2022年2月、三菱造船は、NEDO事業「CCUS研究開発・実証関連事業/苫小牧におけるCCUS大規模実証試験/CO2輸送に関する実証試験」で活用する液化CO2運搬の実証試験船の建造契約を、山友汽船と締結した。
 図5に液化CO2運搬船のイメージを示すが、船長72m、船幅12.5m、喫水4.55m、タンク容積:1450m3で、三菱重工業の下関造船所江浦工場で建造し、完成および引渡しは2023年度後半の予定である。この船をエンジニアリング協会が山友汽船から傭船し、NEDO事業で運用する。

 2022年5月、日本CCS調査、エンジニアリング協会、伊藤忠商事、日本製鉄は、NEDOからの受託で、北海道苫小牧市の北海道電力敷地内に液化CO2の受け入れ基地や貯蔵タンク(直径14m、高さ18m)の建設を開始し、2024年の完成を目指す。
 関西電力の舞鶴発電所で液化したCO2を受け入れる計画で、CO2運搬船は一度に1000トンを輸送でき、1万トン/年を苫小牧に輸送する。2027年まで液化技術や輸送コストを検証する。出荷から貯蔵までに必要な設備の建設コストは約160億円である。

図5 NEDO事業で運用する液化CO2運搬の実証試験船のイメージ図

 2022年2月、日本製鉄は、オーストラリアdeepC Store Limitedが開発するアジア太平洋地域初となる大型洋上浮遊式CO2回収貯留ハブ・プロジェクト「CStore1」でCO2の回収・液化・海上輸送に関する共同研究契約を締結した。
 同社製鉄所から排出される100万~500万トン/年のCO2を、CStore1に回収・液化し、液化CO2を海上輸送する事業の採算性を検証する。技術面からの検討と契約条件の協議などを提携企業と行う。
 提携企業:JX石油開発、商船三井、東邦ガス、大阪ガス、九州電力、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、大阪ガス オーストラリア Pty Ltd、Technip Energies(フランス)、Add Energy Group(ノルウェー)

 一方、北欧では欧州の発電所や工場など複数拠点から集めたCO2を、海上輸送して貯留する構想「ノーザンライツ」が進められている。ノルウェー・エクイノール、英国石油大手シェル、フランス・トタルエナジーズが主導しており、2000億円超の総事業費のうち8割をノルウェー政府が補助する。2024年にも開始して、150万トン/年のCO2貯留を計画している。

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