世界的にみて、SMRの開発で先行しているのは米国ニュースケール・パワーの「VOYGR」とGEベルノバ日立ニュークリアエナジーの「BWRX-300」である。一応、国内原発メーカーである三菱重工業も「多目的軽水小型炉」の開発を進めている。
ここでは、GEベルノバ日立・ニュークリアエナジーの「BWRX-300」の開発状況を観てみる。
GEベルノバ日立ニュークリアエナジーの「BWRX-300」
「BWRX-300」の開発状況
GE Vernova Hitachi Nuclear Energyと日立GEベルノバニュークリアエナジーが開発するBWR型の小型軽水炉「BWRX-300」(熱出力:87万kW、電気出力:30万kW、炉心出口温度:288℃)である。実用化済みの改良型沸騰水型軽水炉「ABWR」の構造・部品を流用し技術的な課題は少なく、早期の市場投入が可能である。
「BWRX-300」は、沸騰水型軽水炉(BWR)の歴史の中で 10番目に開発されたことから、ローマ数字で 10 を意味する「X」を用いて名付けられた電気出力:300MWの原子炉である。
工場で製造した部品(モジュール)を現地で組み立て、一次系以外には一般産業技術を積極採用し、設備の簡素化と小型化で建設工期の短縮と費用低減を図り、従来の大型軽水炉と比較して1MW当たりの建設資材の50%削減を実現する。建設費用を約1000億円/基としている。
また、約90万㎥もの掘削と埋め戻し土木工事を排除し、垂直掘削工法を採用するなど具体的な経済向上策を示している。
一方、隔離弁一体型の原子炉圧力容器と静的安全性を組み合わせた革新的な安全システムにより、冷却材喪失事故(LOCA)のリスクを実質的に排除し、運転員操作、電源なしに7日間の安全確保が可能としている。


2021年11月、カナダの電力会社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)が「BWRX-300」を選定。受注額は4基合計で3000億円規模とみられ、オンタリオ州ダーリントンに建設する。2022年10月にはカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請し、2030年までの初号機の稼働をめざす。
2021年12月、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントスのグループ企業が、ポーランドの石油精製企業PKNオーレンと合弁企業オーレン・シンソス・グリーン・エナジーを設立し、東欧諸国において2030年代初頭までに少なくとも10基の「BWRX-300」の建設に取り組む方針を発表した。
2022年6月、サスカチュワン州のサスクパワーは、同州内における小型モジュール炉(SMR: Small Module Reactor)の建設計画のなかで、BWRX-300を選定した。サスクパワーは2030年代半ばにSMR4基の導入を計画している。
2022年12月、小型モジュール炉「BWRX-300」の包括設計審査(GDA)の申請を英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省に提出した。2024年12月にGDAのステップ1(GDA範囲とスケジュールの合意段階)を完了し、2025年12月にステップ2(実質的な技術評価段階)を完了した。
2023年2月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギアは、同国初のSMRに「BWRX-300」を選定し、2030年代初頭の完成をめざしている。同年4月、サムスンC&Tはフェルミ・エネルギアと提携し、同国でのSMR2基の導入に協力し、欧州でのSMR導入事業を加速させるとしている。
2023年3月には、カナダ、米国、ポーランドの事業者が共同で世界共通となる「BWRX-300」の標準設計の開発と、主要コンポーネントの詳細設計への投資を発表した。
22025年4月、カナダ原子力安全委員会(CNSC)は、ダーリントンサイトへの「BWRX-300」建設許可を発行。
2025年5月、カナダ・オンタリオ州政府からの建設許可を受け、オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)向けにダーリントン原子力発電所に「BWRX-300」の1号機の建設開始を発表。初号機は2028年までの運転開始をめざすと早めている。2〜4号機は2034~2036年頃に運転を開始する。
2025年5月、米国テネシー峡谷開発公社(TVA)は、米原子力規制委員会(NRC)に対し、テネシー州オークリッジ近郊のクリンチリバー・サイトにおいて、「BWRX-300」の建設許可を申請した。NRCは建設許可申請を受理して審査中である。
2025年10月、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)と、韓国の建設大手サムスンC&T社(サムスン物産)は、北米を除くグローバル市場での「BWRX-300」の導入推進に向けた戦略的提携を発表。両社は「BWRX-300」のサプライチェーンの構築や、プロジェクト実施に向け共同開発に取り組む。
両社はスウェーデンで計画中の「BWRX-300」5基の導入計画についても協力するとしている。
2026年2月、ポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)と、「BWRX-300」のポーランド向けの汎用設計を進める契約を締結した。OSGEは「BWRX-300」の詳細設計の開発に投資し、同設計はポーランド国内でSMRプロジェクトを進める際の基準設計(リファレンス設計)となる。
「BWRX-300」の安全対策
「BWRX-300」の設備や燃料など採用する技術のほとんどは「BWR」や「ABWR」で使用実績があり、最新の「ESBWR( Economic Simplified Boiling Water Reactor)」でも採用された静的な安全系システムなど、米原子力規制委員会(NRC)で設計認証済みの技術を活用して、早期に実用化している。
■「ESBWR」で開発した原子炉圧力容器に隔離弁を直付けする「隔離弁一体型原子炉圧力容器」を採用し、主蒸気配管破断による大規模冷却材喪失事故(LOCA)の発生確率を大幅に低減する。
■隔離弁を閉止して非常用復水器起動弁を開放することで、電源と運転操作なしに原子炉上部に設置した冷却用プールの水を自然循環させて原子炉を冷却する静的安全系を採用する。
■弁が開かず非常用復水器が動作しなかった福島第一原発事故の教訓から、系統内隔離弁を1弁に削減して動作確実性を高め、非常用復水器3台のうち1台の起動で冷却を可能とする。運転員操作や電源無しに7日間の安全確保を可能とする。(7日間を超える場合は外部からの水供給が必要)
「隔離弁一体型原子炉」や「自然循環による冷却」などの新技術の開発では、日立GEベルノバニュークリアエナジーが所有する、実物と同じスケールでつくられた世界最大級の実温・実圧試験設備(HUTSLE: Hitachi Utility Steam Test Leading Facility)を用いて、性能の実証試験が行われている。

ところで、米国のトランプ政権では原発の社会実装を後押しする大統領令を発している。
2025年5月、米国トランプ政権は4本の大統領令に署名。①「原子力基盤の活性化を図る大統領令」、②「DOEにおける原子炉試験の改革を図る大統領令」、③「原子力規制委員会の改革を命じる大統領令」、④「国家安全保障のための先進原子炉の導入を図る大統領令」。
②のエネルギー省(DOE)における原子炉試験の改革では、SMRなどの実用化のための試験プロセスを迅速化する仕組みで、国立研究所外でも新たに3基の原子炉をパイロットプログラムとして承認(2026年7月4日までの臨界達成が目標)する。
③では、NRCが「1978年以降、新規の原子炉を認可することを怠ってきた」、「リスク回避に伴う深刻な国内および地政学的コストを適切に考慮することなく、微小なリスクのために米国人を原子力から隔離しようとしてきた」と批判し、2050年までに400GWの原発の導入促進を支持した。
日本においても経済発展を優先するために、今後、同じような発想で原発推進が行われることには注意する必要がある。
日本は世界でも稀な地震・火山・台風などの災害大国である。福島第一原発事故で経験した想定外のトラブルを忘れることがあってはならない。

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