2017年6月、化石燃料を使わず、太陽光や風力など再生可能エネルギーを使って航行する8人乗りの白い双胴船Energy observer(エナジー・オブザーヴァー、長さ30.5m、幅12.8m、重量34トン)が、フランスを出港し、約6年をかけて50カ国を巡る話題が注目を集めた。
双胴船の上面は太陽光パネル(約130m2)で覆われ、後部両側には補助的に縦型風車2基が搭載されている。海水を淡水化した後、水電解により水素を取り出して8基の炭素繊維強化アルミ合金タンクで最大62kgの水素を圧縮貯蔵する。
2020年2月からトヨタ自動車のFCシステム(出力:114kW、実質使用は40kW)を搭載して発電し、電動機2台(変換効率:97%)で推進する。補助的にリチウムイオン電池も搭載している。
このように再生可能エネルギーのみで小型船を航行する事例はあるが、大型の貨物船やコンテナ船でも再生可能エネルギー援用による燃費削減を目的に開発が進められている。
風力援用船
1986年、船舶整備公団が調査した帆走システムを有する新愛徳丸・愛徳丸(699GTタンカー)、扇蓉丸・日産丸(699GT貨物船)の3年間の運航試験で、帆による省エネ効果は全航海平均で夏季10%弱、冬季20%弱であった。しかし、石油ショック後に石油が安値で安定したため、普及しなかった。
現在、地球温暖化問題に端を発して開発が進められている風力援用船は、船体形状を翼にした船型開発や、昔からのソフトセイル(軟質帆)の改良に加えて、①ローターセイル式、②サクションウイング式、③ハードセイル(硬質帆)式、④凧(たこ)牽引式などの開発が進められている。
2020~2030年代は、風力援用はLNG燃料船などと組み合わせてCO2排出量を抑制し、将来的には、水素・アンモニア燃料、バイオ燃料など脱炭素燃料船と組み合わせて風力援用が搭載されるであろう。
ローターセイル式
1920年代、ドイツ人技術者アントンフレットナーが発明したローターセイル(Rotor Sail)が、世界の注目を集めている。甲板上に設置した円筒型ローターを回転させ、マグヌス(Magnus)効果によって推進力を得る風力推進補助装置である。
フィンランドNorsepower(ノルスパワー)、英国アネモイ・マリン・テクノロジーズ、ドイツ エコ・フレットナーなどが、ローターセイルの実船搭載を進めている。また、韓国の大宇造船海洋も独自開発を行い、フェリー、RORO船、プロダクト船などに搭載を進めている。
2018年4月、オランダViking Line(バイキング・ライン)はクルーズフェリーの「M/Sバイキンググレース(Viking Grace)」(全長218m、幅31.8 m、総トン数:57565トン)に、ノルスパワー開発の円筒型ローターセイル(高さ24m、直径4m)の搭載を発表した。
2013年就航のバイキンググレースは、LNGと重油(軽油)を使用できる二元燃料エンジン船であるが、EUのHorizon 2020リサーチ&イノベーションプログラムの資金でローターセイルを追加設置した。フィンランド・トゥルク~スウェーデン・ストックホルム間のバルト海に就航した。
バイキング・ラインは、中国で建造中のクルーズフェリー船2隻についてもローターセイルを搭載し、2020年に就航した。
2021年6月、ブラジル資源大手ヴァーレは、ローターセイルを搭載した大型鉱石船(VLOC)「Sea Zhoushan(シー・チョウシャン)」(全長340m、幅62m、総トン数:173666トン)が完成し、ブラジル~中国間に就航した。中国の上海船舶研究設計院が設計し、江蘇新時代造船が建造した。
ノルスパワーが開発した円筒型ローターセイル(高さ24m、直径4m)を5本搭載し、最大8%の推進効率向上と、3400トン-CO2/年の削減効果が見込まれている。外部の回転筒はCFRP/GFRP/ウレタンの積層構造で軽量化が図られている。
また、2021年、ノルスパワーはノルウェーの海運会社が運航するRORO船(トラックが自走で船に乗り込める船舶)に起倒式の円筒型ローターセイルを2本搭載したと発表した。
サクションウイング式
翼の原理によると、翼の表面に比べて背面は空気の流れが高速になり、翼の後端部で流れが乱れて剥離する。これを防ぐため翼の後端部に吸い込み口を設けたものはサクションウイングと呼ばれている。
この翼面に安定した空気流を作りだすサクションウイングを船上に取り付け、風向に応じてサクションウイングを回転させることで、図2(a)に示すように推力を得ることができる。(b)にはEconowind製の2本のサクションウイングを船首に取り付けた例を示す。
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