EVに負けたFCVのその後(Ⅷ)

自動車

 水素エンジン自動車の車体価格が現状のガソリン車並みとなれば水素エンジン車は優位である。合成燃料(e-fuel)価格が水素並みとなれば、合成燃料自動車が優位となる。トヨタ自動車は、e-fuel価格が下がるのを座して待つよりも、積極的に水素エンジン車の車体価格を下げる戦略に出ている。

水素エンジンの開発課題

水素インフラ整備の重要性

 水素エンジンの最大の課題は、エンジン自体の技術的な難しさもあるが、エンジンに供給される水素燃料の製造と供給である。未だに、水素は高価格で、従来のガソリン並みの供給量と価格の見通しは立っていない。これは燃料電池車(FCV)の普及がとん挫している原因でもある。

 現状の水素ステーションでは政策上1000~1100円/㎏で水素は販売され、航続距離で比較するとガソリンの3割増しの価格に抑えられている。将来的には、「化石燃料改質のグレー水素」から「再生可能エネルギー由来のグリーン水素」に置き換える必要があるが、さらなる低コスト化の見通しは暗い。
 さらに、水素ステーションの建設費(約5億円)や維持費は高く、コストに上乗せされ高価格となる。

 すなわち、水素インフラが整わない現状において、水素エンジン車の開発を進めても、その普及はFCVと同じようにとん挫する可能性が高い。

水素エンジンの競争相手は?

 「水素エンジン車の競争相手は、同じ水素燃料を使う燃料電池車(FCV)だけであろうか?」

 最近、急速に合成燃料(e-fuel)の話題が拡大している。基本的に、e-fuelを使う場合は現状エンジンでの駆動が可能なため、車体価格は現状維持である。しかし、e-fuelは、水素とCO2を高温・高圧にして反応させるため、収率は6~7割で300~700円/ℓと高価格である。

 2000年代に入り、本田技研工業やトヨタ自動車がFCVを発売した段階で、圧倒的にエネルギー変換効率の高いFCVに軍配は上がった。しかし、FCVの普及に伴い車体価格が下がるとの見通しが外れたのである。そこで、水素エンジン車による低コスト化に期待が移った。

 次に、3車種の比較を示す。水素エンジン車は水素タンクなど開発課題が残されており車体価格は未定で「水素エンジン車 ≦ FCV」とし、水素エンジン車に比べてFCVでは高純度水素を使うため燃料価格は「水素エンジン車 ≦ 燃料電池車(FCV)」とした。また、エネルギー効率は無視した。

車体価格:e-fuel車 < 水素エンジン車 ≦ 燃料電池車(FCV)
燃料価格:水素エンジン車 ≦ 燃料電池車(FCV)< e-fuel車

 すなわち、水素エンジン車の車体価格が現状のガソリン車並みとなれば水素エンジン車が優位で、e-fuel価格が水素並みとなれば、e-fuel車が優位となる。トヨタ自動車は、e-fuel価格が下がるのを座して待つよりも、積極的に水素エンジン車の車体価格を下げる戦略に出ている。

 しかし、熱効率の低い水素エンジン車が車体価格の低コスト化のみで、FCVと競合できるのかは疑問である。持続可能な真のカーボンニュートラルをめざすには、エネルギー効率向上も実現する必要があるが、エネルギー効率に関して燃料電池車の優位性は変わらない。

 水素エンジン車の開発が、従来のガソリンエンジン車のサプライチェーン延命が目的であってはならない。CDから、再びレコード盤に戻るような懐古趣味の市場は限定的である。既に、楽曲はダウンロードの時代に入っている。

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