世界市場に出遅れた日本の水力発電(Ⅱ)

再エネ

 多くの水力発電所は山間部など交通が不便な場所にあるため、無人運転が行われ、熟練作業者による定期的な保守・点検で維持管理が行われてきた。
 近年、国内の既設水力発電所の保守・管理にデジタル技術の活用(DX:デジタルトランスフォーメーション)による「遠隔監視」や「予兆診断」の導入「保守・点検業務のスマート化」が進められている。

大水力発電所向けのDX開発

 2022年3月、日立三菱水力、日立製作所、日立産機システムは、岩手県企業局の水力発電所である「四十四田しじゅうしだ発電所(1967年稼働、出力:1.51万kW)」の保守・点検業務で、IoTやAI技術、現場データセンシングなどデジタル技術によるスマート化実証(第1段階)を完了したと発表。
 2022年度に、保守・点検業務の運用における安全性・信頼性の担保や、日立グループのノウハウの横展開(第2段階)を実施する。成果は国内外の水力発電所へ展開する。

 2022年10月、北陸電力とJFEエンジニアリングは、2017年度より開発を進めていた「ダム最適運用システム」を、神通川水系5ダム(浅井田ム、新猪谷ダム、神一ダム、神二ダム、神三ダム)で運用を開始。
 ダム最適運用システムは、流入量予測AIから得られたダムへの流入量を基に、ダム・発電所のゲート放流の操作タイミングを各ダムの運用上定められた規則を守りつつ提案するシステム。水系全体で1%程度の水力発電電力量の増加が確認されている。

 2023年11月、関西電力は水資源機構の保有する高山ダム(出力:6000kW)において、「水位運用高度化操作」を実施し、発電量の1%程度の増電を確認した。
 この水位運用高度化操作では、洪水調節容量に貯留した洪水をダムから放流する際に、最新の気象予測技術を活用して次の洪水が予測されないことを確認しつつ、発電に利用しながら緩やかに放流、または一定程度水位が低下した段階で一時的に貯留し、発電に利用しながら放流する。

 2023年12月、中部電力とTSUNAGUツナグ Community Analytics(TCA)は、AIを活用した水力発電所の最適発電計画の策定支援システムを開発。ダムへの雨水流入量の予測精度を高めて発電計画を最適化し、年間2%程度(水系全体で最大約3,000万kWh/年)の増電をめざしている。
 両社は、2024年度中に飛騨川水系での本格運用を始め、他水系でも本システムの導入を進め、水力発電の発電電力量の増強に取り組むとしている。

 2024年5月、電源開発は水力発電所の保守業務高度化を目的に、2019年度から福島県南会津郡下郷町の「下郷発電所(出力:100万kW、揚水式)」をデジタル集積戦略特別区域とし、実証試験を進めてきた。
 2024年度から、実証試験で得られた結果を基に、最新デジタル技術を全国の保守機関が連携したプロジェクトチームにより水力発電所へ展開し、DXを強化・推進すると発表している。

■設備異常兆候を検知するAI(自社開発名:JPPredict)の独自開発
 水車発電機等に取り付けたセンサで得られたデータをネットワークを介して集中管理サーバに保存し、独自開発したAIにより設備異常の兆候を検知して保守員に通知し設備トラブルを未然防止。
■衛星通信ブロードバンドを利用した自社ネットワーク適用拡大:
 自社ネットワークの高速・大容量通信化を進め、発電設備に取り付けたセンサ、点検タブレット、監視カメラ等のIoT機器の活用度を向上させ、遠方からの保守業務支援を可能にする。
■2種類の巡視ロボット導入
 ロボットやデバイスなどの統合プラットフォームを手掛けるブルーイノベーションと共同で、発電所内で重点点検範囲を巡視するロボットを開発して配備する。

写真1 デジタル集積戦略特別区域に指定された「下郷発電所」 出典:電源開発

 2024年7月、関西電力は、管内の水力発電所152カ所について監視制御機能を大阪市の施設に統合した。2022年3月から集約してきた作業を終えた。各発電所に監視する社員を不要とし、コスト削減に加え、業務の効率化にもつながる。

 2025年10月、長野県は裾花すそばなダムの運用を見直すことで発電所の年間発電量を増やす。日立製作所のダム運用支援ソリューション「DioVISTA/Dams」を用いて年間を通じた最適水位により、追加設備投資なしで発電量の年14%増加を予測、今冬から実証を始め、他ダムでも運用最適化を進める。
 県は2024年度から本格的にハイブリッドダム化の検討を開始した。すなわち、同ダムの過去25年間の毎日のダム水位や流入量のデータを基に、従来は放水していた水を発電用に利用して発電量を最大化するダムの放流計画を導き出した。 

写真2 1969年完成の裾花ダムと直下に長野県企業局が管理する裾花発電所がある

 2025年12月、中部電力は水力発電所の発電計画の策定支援システムでAIを活用。3月からは飛騨川水系で運用を始めており、3000万kWh/年の増電や策定業務の時間短縮を見込む。今後、他水系への導入や中長期の予測などシステムの高度化に向けて改善を図る。
 開発したシステムは翌日の計画策定業務を支援するもので、発電計画の策定に必要なダムへの流入量を約3年間分の降雨量と流入量を学習したAIで予測し、翌日の予測降雨量を加算する。システムでは類似の過去の発電計画を検索するAIも整備し、担当者が両方の結果を踏まえて計画を策定する。

写真3 AIシステムが導入されている飛騨川水系内のダム 出典:日刊工業新聞

 人工知能(AI)を活用した水力発電所の支援システムは、「遠隔監視」や「予兆診断」などに不可欠な技術である。この支援システムの基本的な考え方は、水力発電に限定されたものではなく、再生可能エネルギー発電全般に通じるものである。
 ハード面で世界市場には大きく出遅れた日本メーカーであるが、再生可能エネルギー発電のサービス事業としての展開をめざして、地道な開発が進められている。しかし、世界シェア拡大に向ける動きにはなっていない。

 

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