中国が主に推進しているのは、大規模化に向いている「アルカリ水電解型システム(AWE)」である。安価な水素を大量に製造するために適しており、既に大規模製造実証プラントが稼働している。太陽光パネル、EV(蓄電池)の次はグリーン水素で世界シェアを伸ばす動きは止まらない。
「固体高分子型水電解システム(PEM)」は、AWEと比べてさらなる低コスト化が課題である。中小規模での分散設置に適しているため、工場や水素ステーションでの設置が進められている。売れないFCVと同じ問題を抱えていることに気が付いているのだろうか?
日本におけるグリーン水素の製造
主に大規模装置が商用化されているアルカリ水電解法(AWE、エネルギー変換効率:70~90%)と、より高いエネルギー変換効率が得られ装置がコンパクトな固体高分子型水電解法(PEECまたはPEM、~90%))の実用化が進められている。さらに固体酸化物型水蒸気電解法(SOEC、90%~)の研究開発が進められている。
アルカリ水電解型システム(AWE)
2020年4月、旭化成子会社の旭化成エンジニアリングは、福島県双葉郡浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」に10MW級の大型アルカリ水電解システムを設置し、水素の供給運転を開始。 定格運転時の水素製造能力は1200N㎥/hで、2026年4月時点で運転時間が約1.4万時間に達している。
2021年1月、旭化成は大型アルカリ水電解システム「Aqualyzer」を開発中と公表。1ユニットあたりの最大入力電力:1万kWの規模で、エネルギー変換効率:90%とし、2025年の販売をめざす。
2024年6月、三菱重工業高砂製作所の「高砂水素パーク」では、2023年11月からJAC形ガスタービン(出力:56.6万kW)による水素30%の混焼運転を実施。ノルウエーのハイドロジェンプロ(HydrogenPro)製の水素製造能力:1.1万N㎥/hの世界最大級のアルカリ型水電解装置を導入した。
2025年2月、旭化成が川崎製造所でグリーン水素を安価・大量に製造する技術開発に挑むと報じられた。アルカリ水電解槽(800kW)を4基並べて2024年3月に稼働を始め、起動停止を含む出力変動電源にも柔軟に対応する。福島県で進める1万kW基を1モジュールとし、複数槽を並べて大規模化をめざす。
グリーンイノベーション(GI)基金で、2030年の設備コストをプロジェクト開始時の約1/3である5.2万円/kWに抑える。さらに、触媒の種類や形を変え水素生産効率と電極の耐久性を高めるなど改良を進める。
2025年7月、旭化成はコンテナ型アルカリ水電解システム「アクアライザー・シーキューブ」(容量:1000kW級)を、フィンランド・バスキュラ市の水素プロジェクトに納入する。バスキュラ市とトヨタ自動車Grが共同で設立した社団法人で、同国初の商用水素ステーションに隣接して設置される。
商用案件での初受注、2026年7月の稼働をめざして2026年内に定常運転に移行する。フル稼働時の水素製造能力:約400kg/日で、グリーン水素を1時間でFCV約3台に充塡できる。
2025年10月、旭化成は川崎製造所で、アルカリ水電解システムと塩素・苛性ソーダ製造用のイオン交換膜法食塩電解プロセスに対応した電解用枠・電解用膜を併産できる新工場の建設計画を決定した。
新工場は、電解用枠および電解用膜それぞれで2GW超/年の生産能力を備え、2028年度の稼働開始をめざす。既存の食塩電解プロセス向け設備と合わせて、3GW超/年の生産能力を構築します。

固体高分子型水電解システム(PEECあるいはPEM)
2019年12月、東芝エネルギーシステムズ(現東芝)は、太陽光発電の電力を使いPEM型水電解装置で水素を製造し、FCVに充填できるシステム「H2One ST Unit」を開発し、敦賀市内に導入して水素ステーションを開所した。その後、現在までに同システムは国内14拠点に導入されている。
しかし、2024年5月、相次ぐ故障により安定的な稼働が不可能と判断され、撤去される。

(2020年11月にはPEFCを増設し、BEVへの充電も可能とした)
2020年8月、日立造船(現カナデビア)は山梨県で行っているNEDO実証事業にPEM用の大型セルスタックを供給。日立造船が商品化した大型水素発生装置「HYDROSPRING」がベースで、入力電力:500kWの電解槽を3槽並べ、合計1500kWの電力で、水素製造能力:400N㎥/hである。
日立造船はラオスでもグリーン水素製造の実証実験を計画しており、電解装置の量産時期は早くても2030年前後になる見通しである。東レの炭素系電解質膜を採用している。
2021年9月、シーメンス・エナジーと東レは、PEM型水電解装置を用いたグリーン水素製造技術の創出に関して「戦略的パートナーシップの構築」に係る基本合意書を締結した。普及していたフッ素系電解質膜に対し、東レはガス透過性が1/3と安全性の高い炭化水素系電解質膜を開発していた。
2021年10月、高砂熱学工業は再生可能エネルギー電力による大型水素製造装置の開発に着手。電力が変動しても安定的に水素を製造できる方式で、水素製造能力:100N㎥/hとし、国内でPEMを手がける日立造船や神鋼環境ソリューションよりも高効率化をめざすとしている。
2022年8月、神鋼環境ソリューションは、ヤマト・H2Energy Japanを通して日本建設工業の関東総合センターの水素発電実証モデル設備に、PEM型水電解式の高純度水素発生装置「HHOG」(水素製造能力:10N㎥/h)を納入した。センター敷地内の太陽光発電を利用してグリーン水素を製造する。
2023年3月、デンソーとトヨタ自動車は、デンソー福島で工場内でのPEM型水電解によるグリーン水素の製造、および製造した水素の工場内での活用の実証をNEDOプロジェクトで開始した。敷地面積:750㎡で、電解容量:0.4MW級、水素製造能力:8kg/hである。

2024年2月、山梨県、東レ、東京電力EP、大成建設は、NEDO助成事業で2021年12月より開発を進めてきた500kWワンパック固体高分子(PEM)形P2Gシステムの第1号機を、大成ユーレック川越工場に設置した。
2025年7月、廃棄物処理のジャパンウェイストは、産業廃棄物焼却施設(出力:1.4万kW)での2割程度の余剰電力でPEM型水電解施設を北九州市内で本格稼働させた。年産能力は30万㎥で、水素は圧縮してボンベの集合容器(カードル)にためて運搬する。設備投資額は4億円である。
神鋼環境ソリューションの「水電解式高純度水素発生装置(HHOG)」を採用し、トヨタ自動車九州の工場への供給を始める。水素は供給価格に占める運搬コストの比率が高く、近隣で需要家を確保する必要があり、将来は200円/N㎥(運搬費込み)を目標に事業を進める。
2026年5月、トヨタ自動車と千代田化工建設は、共同開発したPEM型大規模水電解システムを稼働する。敷地面積:750㎡で、電解容量:5MW級、水素製造能力:96kg/hである。FCV「MIRAI」との部品共通化などで低コスト化と生産効率の向上を図る。
2026年5月、AGCはPEM向け「イオン交換膜」の北九州市での生産設備建設を延期する。ロシアによるウクライナ侵略や米国トランプ政権の消極姿勢などから脱炭素化が後退し、需要予測が下ぶれしたための計画見直しである。東レも量産体制に加え、新工場の建設を計画していたが設備投資を先送りした。
AGCは新たなイオン交換膜生産設備を、北九州市に150億円を投じて建設すると2024年に発表し、2026年6月に稼働予定であった。2017年から進めるフッ素系イオン交換膜は、耐久性に優れ水素製造時の省電力化が可能で電解槽を小型化でき、変動電源にも対応しやすい特長があるとしている。
固体酸化物型水蒸気電解システム(SOEC)
2023年9月、三菱重工業は「高砂水素パーク」を開設し、中型ガスタービン(出力:4万kW級)で水素100%専焼の実証を開始。2024年には大型JAC形ガスタービン(出力:45万kW級)で水素50%混焼の実証する。
「高砂水素パーク」では、4方式の水素製造装置も実証する。①アルカリ水電解装置は海外から装置導入、②長崎カーボンニュートラルパークで開発する円筒セル型水蒸気電解装置(SOEC、400kW)で2024年3月末から実証、③アニオン交換膜(AEM)型水電解は小型装置化を進める。
その他、④LNGの熱分解による水素製造も実証機を開発し、2026年の実用化をめざすとしている。
2024年6月、三菱重工業は、2023年8月に開所した「長崎カーボンニュートラルパーク」で「AEM型水電解」と「ターコイズ水素製造技術」の基礎研究を実施している。
AEM型水電解は、OHイオンを透過するアニオン交換膜を使い、アルカリ型と同様、OHイオンをキャリアとする水電解反応で水素を製造する。PEM型に比べて貴金属触媒を使わないなど低コスト化で有利である。
ターコイズ水素製造技術は、メタンの熱分解反応を利用して、水素と固体炭素に直接分解する技術である。CO2排出量ゼロで水素燃焼発電ができ、得られる固体炭素は様々な用途へ適用できる。
2025年9月、JERAとデンソーは、愛知県のガス火力発電所内で水素製造の実証実験を始める。デンソーが開発したSOECをJERAの新名古屋火力発電の敷地内に設置し、発電所の電力を使って水素を製造する。水素の生産能力は4kg/h程度で、生産した水素は純度などを計測した後に大気に放出する。
2026年9月、デンソーが開発したSOEC型水蒸気電解装置(電解電力:200kW、水素製造能力:47N㎥/h)を活用し、水素製造実証試験を開始した。将来的には数千kW級の装置への拡張をめざす。

2026年4月、日本特殊陶業は、経済産業省プロジェクトとしてブラジルにおけるグリーン水素開発の一環でNEBRAと協働し、コンテナ型SOEC水蒸気電解装置の開発実証を行う。モジュール設計に基づき、初号機(出力:12kW)から始めて増設機(合計出力:96kW)への拡張と、日本からの遠隔監視の実証を行う。
中国が主に推進しているのは、大規模化に向いている「アルカリ水電解型システム(AWE)」である。安価な水素を大量に製造するために適しており、既に大規模製造実証プラントが稼働している。
「固体高分子型水電解システム(PEM)」は、AWEと比べてさらなる低コスト化が課題である。中小規模での分散設置に適しているため、工場や水素ステーションでの設置が進められている。
「固体酸化物型水蒸気電解システム(SOEC)」は、大規模製造プラント向きであるが、AWEと比べて低コスト化が必須である。また、600℃以上の高温供給が可能なサイトでは高効率化を発揮する。
*技術的には、何が本命かを見定めて集中投資するタイミングに来ている。補助金が企業の投資行動を狂わしていないだろうか?

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