企業の脱炭素戦略は「理想」から「現実」へ(Ⅸ)

はじめに

 次世代燃料として「グリーン燃料」の開発が進められており、①バイオ系燃料(バイオマス・バイオガス・バイオ燃料)、②合成燃料(e-fuel)、③水素系燃料(H₂・アンモニア)に分類できる。
 世界におけるバイオ系燃料メーカーの共通認識は、短期的にはバイオ系SAFが主流で、バイオ原料不足から長期的には合成燃料(e‑fuel)である。バイオ系SAFは各国・地域のカーボンニュートラル政策が市場に大きな影響を及ぼし、 大手メジャーを中心にバイオエタノールのメーカーがSAF事業へ参入している。

バイオ系燃料(バイオエタノール、バイオディーゼル、SAF等)

 2023年1月、米国では「SAF tax credit」を発効し、最大1.75ドル/ガロン(最大1.25ドル/ガロンの基礎控除+GHG削減率に応じて最大+0.50ドル/ガロンの追加控除)と生産量に応じて燃料供給会社を支援する。その後、2025年7月には最大1ドル/ガロンに引き下げられ、国内さ原料の使用が義務化された。
 2023年10月、EUでは「ReFuel EU」でSAFの義務化を2025年2% → 2030年6% → 2050年70%と発効した。航空会社と燃料供給会社の双方に罰則のある強制力の強い法律である。

 その結果、欧米では急速にSAFの生産が加速された。世界のバイオ系燃料の代表的メーカー・企業には、サトウキビやトウモロコシを大規模に活用できる米国・ブラジル系企業や、次世代燃料開発に強い欧州系企業が競合している。ただし、食料問題を回避するため第2世代バイオ燃料が中心となっている。

『世界のバイオ系燃料メーカー』
■Neste(ネステ、フィンランド): バイオディーゼルやバイオ系SAFの世界最大手。需要や財務状況の悪化から、2025年12月、カーボンニュートラル生産目標の達成を2035年から2040年へ延期した。
 GHG削減効果の高い廃食油や動物性脂肪などの廃棄物・残留物原料の比率を95%以上に高め、原料調達の強化とコスト効率の向上を進める。2027年完成をめざすロッテルダム製油所の拡張で、SAFの総生産能力を680万トン/年に引き上げ、航空機分野への対応をめざしている。
■トタルエナジーズ(TotalEnergies、フランス):ラメード製油所での商用生産に加え、グランピュイ製油所などで製造能力の引き上げを進め、2030年までに150万トン/年のSAF生産目標を掲げる。日本のENEOSとSAF原料(廃食油など)の調達に向けた協力を進めている。
■シェル(Shell、オランダ/英国):2025年9月、ロッテルダムのSAF・バイオディーゼル向けの大規模バイオ燃料施設(82万トン/年)の建設計画を撤回。市場環境やコストの再評価により従来の拡大路線を縮小。ブラジルの合弁会社Raizenなどを通じ、サトウキビ等を原料とするバイオエタノールの供給・生産は継続。
■BP(BP、英国):2024年、ドイツ(リンゲン)や米国(チェリーポイント)でのバイオ燃料・SAF生産プラントの計画見送り、オランダ(ロッテルダム)での大規模SAFプラントもコスト高を理由に中断。
 ブラジルのサトウキビ由来エタノール合弁会社「BP Bunge Bioenergia」の持分を100%取得し、英国の小麦由来エタノール「Vivergo Fuels」などを通じて数億ℓ/年規模の生産・供給にシフトする。
■Raízen(ライゼン、ブラジル): サトウキビの原料残渣を活用した第2世代バイオエタノール(E2G)の大型プラント稼働などで、約1.1億ℓ/年の生産能力を有し、生産の約80%以上を長期契約により欧州・国際市場へ輸出。2030年までに多数の第二世代バイオエタノール工場の稼働を計画する。
■マラソン・ペトロリアム(MPC、米国):ネステと合弁会社「Martinez Renewables」をカリフォルニア州に設立し、旧石油精製所をバイオディーゼル(HVO)工場へ転換して約27.6億ℓ/年、2020年末に稼働したノースダコタ州ディッキンソン工場はトウモロコシ油や大豆油、動物性油脂を原料に約7億ℓ/年を生産する。
■シェブロン(Chevron、米国):2022年、米国バイオディーゼル最大手の「リニューアブル・エナジー・グループ(REG)」を約31.5億ドルで買収。ルイジアナ州のガイスマー(Geismar)バイオディーゼル工場の拡張工事を完了し、12.9億ℓ/年の商用生産を開始。2030年までに58億ℓ/年のリニューアブル燃料の生産をめざす。
■ポエト(POET、米国): トウモロコシ由来のバイオエタノールで117億ℓ/年の生産規模を維持し、プラント買収で規模を拡大。 近年、バイオディーゼル向けコーンオイルや80万トンのバイオCO2を生産。ネブラスカ州のCCSプロジェクトでバイオエタノールのライフサイクルCO2排出量削減に取り組む。
■バレロ・エナジー(Valero Energy、米国): 大規模な石油精製に加え、合弁事業ダイアモンド・グリーン・ディーゼル(DGD)を通じ、米国メキシコ湾岸地域を中心に廃棄物系油脂・トウモロコシからバイオエタノール約64.4億ℓ/年とSAF約8.9億ℓ/年を生産・出荷している。
■Archer Daniels Midland Company(ADM、米国): 巨大農業・穀物メジャーで、DGDを通じてバイオエタノール約60.6億ℓ/年とSAF約18.9億ℓ/年を生産。バイオ燃料の混合義務量(RVO)引き上げや需要急増で生産能力を拡大。エタノール設備をGevoのAlcohol-to-Jet(ATJ)技術へ転換する大型計画を推進。
■ジーヴォ(Gevo、米国):サウスダコタ州での大規模SAF計画を撤回し、CCSインフラを設置できるノースダコタ州の既存エタノール工場でのバイオエタノール生産とATJ方式によるSAF製造を推進中。2025年には約2.6億ℓ/年の低炭素エタノールを生産し、北米やカナダの環境規制市場で販売する。
 既存エタノール工場に隣接して、約1.14億ℓ/年規模のATJ方式のSAF製造施設の建設を進めている。
■ランサジェット(LanzaJet、米国):ATJ技術のパイオニア。親会社のLanzaTechや三井物産、ANA、JAL、米国DOEなどのバックアップで、2025年11月に世界初の商業規模のエタノール由来SAFプラントをジョージア州ソパートンで稼働。生産能力の内訳はSAFが3400万ℓ/年、バイオディーゼルが400万ℓ/年である。 
 2026年2月発表の加工委託契約に基づき、米国内で生産された低炭素かつ廃棄物由来のバイオエタノールや、地域プラントのバイオメタンから精製したリニューアブル天然ガス(RNG)を外部から調達する。

  大手メジャーを中心に、バイオ系SAFの生産をバイオエタノールを原料とするATJ(Alcohol-to-Jet)方式へ移行する動きが急加速。バイオエタノールは廃食油に比べて生産量が豊富で、エタノールからSAFを高効率で製産できるATJ方式の実用化が本格化している。
 木質ガス化などに比べて、ATJ方式はSAF成分を狙って高効率(最大90%程度)・大量生産が可能なため、航空燃料を最優先で確保したい大手メジャーは経済合理性が高いと判断している。

 世界におけるバイオ系燃料メーカーの共通認識は、短期的にはバイオ系SAFが主流で、バイオ原料不足から長期的には合成燃料(e‑fuel)である。バイオ系SAFは各国・地域のカーボンニュートラル政策が市場に大きな影響を及ぼし、 大手メジャーを中心にバイオエタノールのメーカーがSAF事業へ参入している。

 次に、日本の燃料メーカー各社の動向を見てみる。

『日本のバイオ系燃料メーカー』
■出光興産:「2030年までに5億ℓ/年のSAF国内供給体制を構築」の目標を掲げ、千葉製油所でのSAF製造を推進。森空バイオリファイナリー合同会社などと連携し、国産木材由来の第2世代バイオエタノールを原料に、ATJ方式による純国産SAFのサプライチェーン構築をめざす。
 TOPPANホールディングスと共同で、古紙を原料としたバイオエタノールのパイロットプラント(古紙投入量約1~3トン/日で約300ℓ/日の生産)を2027年前半に稼働。2026年7月、T2やいすゞ自動車と連携し、トラック輸送分野における次世代バイオディーゼル燃料の普及への取り組みを開始した。
■ENEOS:2024年11月に約2000億円を投じ、沖縄県で2028年度から2.2億ℓ/年のSAF生産と、三菱商事と共同で米国ハワイ州でバイオ燃料生産事業(SAFを最大60%生産)を進めている。
 2026年6月、廃食油由来の次世代バイオディーゼル燃料(水素化植物油、HVO)を、海外事業者から初めてタンカーで根岸製油所に大規模輸入。また、パルプなどの木質バイオマスや非可食原料を活用した第2世代バイオエタノールの研究開発を実施中である。
■コスモ石油:2025年4月、堺製油所で廃食油を使い3000万ℓ/年のSAF生産を開始し、2029年以降にバイオエタノールを原料としATJ方式により坂出物流基地で1.5億ℓ/年規模の生産をめざす。タイなど海外からの調達も検討している。
■ユーグレナ:横浜市の実証プラント(12.5万ℓ/年)でSAFや次世代バイオディーゼル燃料(HVO)を製造。
 マレーシアのペトロナス・イタリアのエニと共同で、マレーシアのジョホール州にアジア最大級の商業プラント(約7.25億ℓ/年)を建設中で、2028年後半の運転開始をめざす。原料は主に廃食用油などの廃棄物・残渣系を使用し、将来的に微細藻類も視野に入れ、SAF・HVO・バイオナフサも生産する。

 日本は2030年までに国内の航空会社が使用する燃料の10%(約17.1億ℓ/年)をSAFに置き換える目標を掲げ、供給量の50%は国産などのSAFを活用する。大幅に遅れた2026年7月、大手の航空燃料供給事業者に対し、2030年度に供給量の1%をSAFにする義務化を示し、段階的に5%まで引き上げる方針とした。

 これで国内航空会社はSAF使用量の目安を把握できるようになったが、ジェット燃料:約100円/ℓに比べて現時点で国産SAF:300〜500円/ℓ(廃食油・バイオエタノール由来)と高価なため、長期的に経営を圧迫するとしてSAF購入の長期契約を結ばず、国内燃料メーカーは生産設備への投資ができない状況に置かれた。

 IATAによれば世界のSAF生産量は2026年時点で約240万トン/年で、価格も日本より安価な200~300円/ℓとされる。現時点の日本のSAF生産量はコスモ石油の3000万ℓ(約2.4万トン)/年に留まり、世界のバイオ系燃料メーカーと比べると、国内のSAF生産は明らかに周回遅れの状況にある。

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